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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第一章【始まる異世界生活】
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第三十六話:魔窟突入

 色々と意見が出たり、タダで靴とマントを貰えたりと、予想外の事態はあったが、どうにかソラクロの装備を整えて魔窟に向かった。

 結局武器を持ちたがらなかった上に、籠手のような重量のある防具も嫌ったので、指の付け根を打撃用に固めたグローブを装着することにした。一番簡易的な物ということもあり、お値段七十ゼース。

 当然ながらタツマは良い顔をしなかったが、ソラクロも譲る気はなかったようなので、俺が仲裁したというか、タツマに折れてもらった。




 東の森を抜けて、開けた場所に魔窟を見つける。俺とソラクロが出会った場所であり、数日前、オーバーフローを起こした魔窟。

 オーバーフローの翌日から、ギルドに依頼された冒険者が何度も調査をしたらしいが、魔窟自体に変化はなかったそうだ。


「この魔窟の前に倒れていたけど、何か思い出せる?」


「うーん……さっぱりですね」


 そう簡単には思い出せないか。

 空を見上げてみるが、あの日見た、浮いた大地は影も形も見当たらない。ネルソンさん曰く、浮いた大地のことは聖地と呼ばれているが、何故、いつからその名で呼ばれるようになったのかを含め、詳細は未だ不明なのだそうだ。魔法で飛んで行こうにも、聖地の周囲には不可視の障壁が張られており、着陸も魔法での干渉もできない。ただ、大地の上には巨大な祭壇が存在し、白銀のリンゴの木が複数本生えていることは視認できている。

 これまでの目撃例から、聖地は世界が大きく動く時に姿を現すと予想されているが、もしそれが本当なら俺はもう何かに巻き込まれていることになる。でまかせだと思う気持ちが半分、もう半分に期待と不安が入り混じっている感じだが、俺一人で世界の動向をどうこうできるとは思えない。…………ダジャレじゃないぞ。


「じゃあ、行くか」


「はい!」


 初突はつつきを鞘から抜き、警戒しながら魔窟の靄の渦を潜る。初めて来た時は不安に駆られて尻込みしてしまったが、二回目だからか、ソラクロと一緒だからかは分からないが、すんなりと足を踏み入れることができた。




 黒に染まった視界が晴れると、そこには岩でできた洞窟の景色が広がっていた。壁や地面はゴツゴツとしていて、天上はやけに高い。所々に発光する鉱石があり、灯りを準備しなくとも視界に不便は感じない。雑貨屋で購入してきたランタンの出番はまた今度になった。

 俺とソラクロが立っている所は円形の広間のようになっており、危惧していた、入った瞬間に奇襲を受けるといったことはなさそうだ。

 後ろを振り返ると、入り口と同様に黒い靄が渦巻いており、潜り直せば外に出られるのだろう。マナの流れで形を変えると聞いていたので、出口までランダムに配置されたらどうしようかと思ったが、思いのほか親切設計だ。


 周囲を確認していると、ソラクロが耳を小刻みに動かし始めた。


「何か来ます……数は、三です……人?」


 ソラクロのアビリティ【気配察知】だ。その名の通り、周囲の気配を察知できるアビリティで、程度は違えど獣人ならばほとんどが所有しているそうだ。このアビリティのおかげで、森を抜けるまでの警戒はかなり楽だった。

 広間から奥に続く通路は一つだけ。ちょうど出入り口と対角線上に位置する横穴だ。最初は警戒していたが、距離が縮まるに連れて音の主の詳細が判明し、その姿が見えたことで警戒を解いた。


「んぉぅ? レイホじゃねぇかぁ!」


 独特の延びた口調に、禿頭。間違えようがない。音の主はダルら銅星の希望ブロンズスターの面々だった。


「知り合いですか?」


「ああ。悪い人たちじゃないよ」


 初対面のソラクロは未だ警戒していたようだが、俺の答えを聞いた途端に肩の力を抜いた。


「奇遇だなぁ。こぉんなところでぇ。依頼かぁ?」


「銅等級の昇級試験です」


 答えながらダルが肩に担いでいる武器に視線を向けた。大型の戦斧バトルアックスは見ただけでその重量が伝わってくる。俺には一生扱えそうにないな。


「ハッハァ! いっよいよ、銅等級かぁっ!」


 金髪のモヒカンを揺らして笑うホップは腰に細身の剣を下げており、体に巻き付けられたベルトには小ぶりな短剣ダガーが何本か納まっている。


「ところで、そっちの娘っ子はどちらさんだべ?」


 傷だらけの顔と訛った口調をソラクロに向けるチーホーは、金属製の長杖ロッドを右手に持ち、背中には同じく金属製で胴体を丸ごと隠すほどの大盾タワーシールドを担いでいた。


「えっと……少し訳ありなんですけど、一緒に昇級試験を受けに来ました」


「ソラクロです。よろしくです!」


 元気よく挨拶をするソラクロに、ダル達も快く応じてくれた。俺の知り合いだと聞いたとはいえ、人相が悪く屈強な男三人にも臆しないソラクロの精神力は尊敬する。見習いたくはないけど。


「そんじゃぁ、オレたちは町に戻るからよぉ。試験、頑張れよぉ!」


 挨拶もそこそこに、ダル達は俺の肩を叩いて魔窟から出て行った。

 知り合いと出会って気が抜けてしまったが、初めて来る地でゴブリンを倒さねばならないことを思い出し、気を引き締め直す。


「よし、ゴブリンを探しに行くか」


「はい!」


 魔窟の奥へと続いている穴は広間より随分と狭くなっていた。とは言っても、横は人が三、四人並んで歩ける程度で、高さは三メートル以上あるので、中心を歩いていれば壁や物影からの奇襲は受けにくいだろう。


「うーん……何もいませんねぇ」


 歩きながら耳を動かしていたソラクロが退屈そうに呟いた。

 俺も退屈というわけではないが、拍子抜けした感じはある。魔窟というのだから、もっと魔物がひっきりなしに襲い掛かってくるのかと思ったが、意外と静かだ。別の冒険者が戦っている音も聞こえないし、もしかしたらダル達が根こそぎ倒していってしまったのか? まさか、一パーティで倒し切れてしまう程度ならギルドに依頼の山は出来ない。

 どこかに潜んでいるのだろうとは思うが、ここまで一本道な上にソラクロの【気配察知】にも引っ掛からない。

 もっと奥に進んで行こうと思った矢先、道が二手に分かれていた。さて、どうしたものか。どちらも道幅と高さはこれまでの半分程度になるので、身動きは取りづらくなる。ここまで分かれ道はなかったから、後ろから奇襲されることはないと思うが……。


「右、行ってみるか」


「はい!」


 なんの当てもなく、ただの勘で決めて進んでみると、今まで発光していた鉱石がなくなり、視界に暗闇が広がっていく。

 完全な暗闇になる前に火打石を使って角灯ランタンに火を点ける。意外とちゃんと点いてくれたので安心した。店で買ったものだからちゃんと点いてくれないと困るのだが、打ち付ける時に細かいコツとかなくて助かった。魔法で灯りを点けられれば楽なんだが……。


「ソラクロ。火の魔法で角灯みたいに灯りは作れないの?」


 ソラクロは火属性の適性を持っていたな。火だけでなく氷と闇も適性がある三属性持ちで、エリンさんも驚いてたっけ。素の能力値の違いに打ちひしがれていてあんまり覚えていない。


「できると思いますよ」


 上に向けた手の平に浮かされるようにして、徐々に赤い線が集まっていき、やがて手の平サイズの火の玉が出来上がった。明るさは俺が持っている角灯と同等だが、この程度の魔法なら詠唱いらないのか。


「できました!」


 火の玉を見せ付けてはしゃぐ様子は、まるで初めてできた事を褒めて欲しがっているようだった。


「そうか。これで灯りは確保できたから、先に行こう」


 魔法の使えない俺が魔法について褒めるのも何か変な感じなので、先を促すだけに留めた。ソラクロは特に不満そうにするわけでもなく、俺の後ろをぴったり付いて来る。

 狭くなったり広くなったりする洞窟を進んで行くと、不意に服の背中を掴まれた。


「何か気付いた?」


「はい。この先、右側に何かいます。数は……二? こっちの様子を伺っている感じです。奥にもいるかもしれませんが、ここからじゃ詳しくは分かりません」


 敵か……こんな暗がりで戦いたくはないな。進んだ先の地形も分からないし、上手く釣って別れ道の前まで戻りたい。

 魔法で牽制できれば良いけど、ソラクロはそういった魔法は扱えないし……。


「ソラクロ、その火の玉って待ち伏せしている奴らの近くに投げれない?」


「投げたら直ぐに消えちゃうと思いますから、もう少し近寄らないとダメですね」


 近くってどれくらいだ? 危険がない程度なら近寄ってもらうか?


「レイホさん! 後ろ!」


「ピィッ!」


 突然聞き慣れない鳴き声がしたと思うと、手の平大の水弾が飛んで来る。ソラクロは身を低くして避け、俺もそれに倣ってしゃがむ。水弾は頭頂部ギリギリの所を飛んで行き、暗闇の奥で弾けた。


「ギャ!」


 暗闇の奥では聞き慣れた声が聞こえてきた。だが、安心など一切できない。待ち伏せしていたゴブリンに水弾が命中したのだとしたら、待ちの姿勢は反撃に変わるだろう。つまり、水弾を放った魔物と挟み撃ちされる形になる。

 先の地形が分からない以上、前進の選択肢は取れない。後ろにどんな魔物がいるか分からないが、無理にでも突破して開けた場所まで行かなくてはいけない。


「戻るぞ! ここじゃ狭い!」


「はい!」


 言うが早いか、俺とソラクロは狭い洞窟の中を走り出した。



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