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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第一章【始まる異世界生活】
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第三十四話:弱さは自覚しています

 朝。目覚まし時計など無く、立地が悪いため朝日も差し込まない部屋だが、突き上げ窓から流れ込んで来る風の薫りに釣られて目覚める。


 ジャンク品が積められた木箱を並べて、薄い敷布団と薄い毛布を乗せた粗末なベッドから起き上がる。気温は低いわけではないので毛布は薄くても問題ないのだが、木箱の上というのは些か体に負担がかかる。

 体を伸ばして痛くなった背中や肩を解していると、積み重ねられた木箱の境の向こうから唸り声が聞こえる。


「うぅ~ん……朝ですかぁ?」


 倉庫ではソラクロも一緒に寝泊まりしている。ネルソンさんからは病室の長椅子で寝ても良いと言われているが、長椅子は一つしかなく、ソラクロは何故か俺と一緒の場所で寝たがるものだから、ジャンク品を積み上げて境を作ってやりくりしている。

 室内はそれほど広いわけではなく、十畳かもう少し広いくらいなので、物が溢れている場所に境まで作ると寝る場所くらいしか確保できない。寝る以外に使わないから不便ではないけど、物に体をぶつけないよう気を遣う必要はある。


「ん~……あ、おはようございます!」


 目を擦りながら境を避けて来たソラクロは、俺の姿を見た途端にいつもの調子で挨拶をしてくる。


「……おはよう」


 自分が寝泊まりしている所で他人と挨拶することに妙な違和感を感じるが、とりあえず挨拶を返す。


「今日は冒険者ギルドに行くけど……」


「はーい」


 一緒に来るか聞く前に返事を返してくる。これは付いて来るってことなんだよな。

 俺は冒険者稼業に戻るだけだが、ソラクロは冒険者ではないのでギルドに行く必要はない。ネルソンさんのところへ手伝いに行っても良いのだが、ネルソンさんに雇われているわけでもないので、ソラクロの行動は本人の意思で決定される。

 俺の治療費については昨日までの手伝いで完済ということになっているが、倉庫で寝泊まりしたり手伝いをしたりするのは自由にして良いと言われている。


「着替えるから、外で待ってて。先に水場に行っててもいいよ」


「はーい」


 ソラクロは素直に部屋を出て行く。俺と会うまで眠そうにしていたのに、もう寝巻に使ってる患者衣から着替えたのか。

 革のズボンはまだ履けるが、革のシャツはボロボロにされてしまった。新たに防具を買う金もないので、上は元いた世界で着ていた衣服を着る。

 シャツ、パーカー、ジャケットと、とりあえず全部着てみたが、これから陽が昇って動き回ることを考えるとパーカーは暑いか。

 白いシャツの上に黒いジャケット、革のズボンに革のブーツ。見た目を気にしたってどうしようもないし、これで行くか。


 装備を整えて部屋を出ると、扉の隣りの壁にソラクロはもたれ掛かっていた。


「行くか」


「はい!」


 下流区の水場で顔を洗ったり口の中を濯いだりした後、階段を使って中流区に上がる。ギルドに行く前に串焼きの屋台で腹ごしらえをする。


「冒険者ギルドって何をする所ですか?」


 ソルーティを食べながら質問される。そうか、記憶がないと分からないよな。


「冒険者の登録とか、仕事を斡旋してくれる場所。冒険者っていうのは町の外に出て薬草を採取したり、魔物を討伐したり、魔窟の調査をしたりする人」


 簡単に言えばこれで合ってる……よな?


「じゃあ、これからお仕事しに行くんですね」


「あぁ……うん」


「お手伝いします!」


 手伝うって、冒険者になるつもりか? いや、冒険者にならなくても町の外には出られるけど……。


「町の外は危険だから、ネルソンさんの手伝いでもしていた方がいいよ」


「大丈夫です! 魔物退治ならわたしにもできます! ……この間は情けないところをみせちゃいましたけど」


 オーバーフロー中は魔獣退治して回っていたんだったか。魔獣を倒せるなら俺より圧倒的に強いだろうけど、だからって戦わせるのもなぁ……記憶喪失の娘を利用しているみたいで気が引ける。

 考えていると、「任せてください!」と起伏の小さい胸を叩いて見せてきた。本人がやる気なら俺が無理に止める必要はないのだろうが、どうも納得しきれなかったので生返事を返すだけにしておいた。


 ソルーティを食べ終えて冒険者ギルドに行くと、冒険者から奇異なものに対する視線を浴びる。二人して変な格好をしているから覚悟していたが、気にしないでいるのは難しい。俺は微かに眉根を寄せたが、ソラクロが全く気にせずギルドの中を見渡していたので、毒気を抜かれた気分になった。

 受付の奥にエリンさんの姿を見かけると、向こうも俺達のことを見つけてくれ、軽く手を振ってくれた。


「久しぶりね。元気そうで良かったわ」


「エリンさんも無事で良かったです」


「あら、あたしの心配をしてくれるぐらいには余裕があったのね」


「え、いやぁ……」


 余裕は無かった。たった今、エリンさんの姿を見て初めて無事かどうか意識した。


「ふふっ。少し意地悪だったかしら? それよりも、そっちの娘が例の?」


「そうです。……色々あって、付いてくるようになりました」


 町に連れて来た際に軽く事情を説明しておいたのを覚えておいてくれたのか。


「ソラクロです。よろしくお願いします!」


「あら、ご丁寧にありがとう。エリンよ。よろしくね。ところでレイホ」


 ソラクロに笑顔を向けながら手招きしてくる。

 受付台に身を乗り出すと、真顔になったエリンさんが顔を近付けて来た。


「女の子になんて格好させてるのよ。枷に鎖ってどういうこと?」


 早急な説明を求められたので、ソラクロが記憶喪失であること、拘束具については取り外す事ができないこと、服については金がないこと、今はネルソンさんの世話になっていることを早口に伝えた。


「なるほど。ソラクロも大変ねぇ」


 事情を聞き終えて満足しただろう。エリンさんは姿勢を戻して話しかけたが、ソラクロは首を傾げた。


「そうなんですか?」


「あら……まぁ、気にしていないのなら、それはそれで良いのかもしれないわね。レイホ、どうして寝てるの?」


「いえ……」


 エリンさんからの圧から解放されたのでに突っ伏していただけです。今、起きます。


「稼がないといけないんですけど、良い依頼ありませんか?」


「わたしもお手伝いするので、沢山お仕事ください!」


「ソラクロ……冒険者になるの?」


 言葉はソラクロに、視線は俺に向けられる。言わんとしている事は大体察しが付く。


「止めはしました」


「そう。登録するだけなら損はないし、手続きするわね」


 それからソラクロの冒険者登録手続きが始まった。ソラクロから質問がなかったからか、俺の時より説明が簡易的だった気がするが、椅子に座っているソラクロの尻尾の動きをボーっと見ながら聞き流していたので、確かなことは分からない。

 エクスペリエンス・オーブを腕輪型か指輪型にするかで、エリンさんから指輪型を勧められたが、「指に着けるのは好きじゃないです」と嫌がったことを除いて、問題なく手続きが進んで行く。腕輪型エクスペリエンス・オーブを着けたことで右腕が賑やかになったが、本人は気にする素振りを見せない。


「ソラクロ……あなた凄いわね!」


 エクスペリエンス・オーブによる能力値測定でエリンさんが驚いた表情をした。底辺の俺の時とは別の驚きなので、能力値が想像以上に高いということだろうか。


「凄い……んですか?」


 冒険者手帳を見るソラクロは首を傾げるばかりなので、余計に気になってしまう。


「ソラクロ、見てもいい?」


「どうぞ」


 差し出された冒険者手帳を見て、俺は意気消沈した。俺が低すぎるのは理解しているし、ソラクロが魔獣と戦えるということも解っていたが、それにしたって差がありすぎた。素の能力値が高いだけでなく、スキルとか魔法とかアビリティもいくつかあるし……。


「能力値だけなら銅等級星三相当よ。冒険者になる前からこれなら将来有望ね!」


「レイホさんのお手伝いできますか?」


「もちろん! むしろ……あ、これ以上はいけないわね。冒険に行く前にレイホの精神力が削られてしまうわ」


 もう削られてます。ついでに言うと今の一言で更に削られました。

 ……強くなりたいな。



参考までに。

ソラクロの能力値です。()内は銅等級星三の推奨値です。


体力:303(340)

魔力:63(60)

技力:51(50)

筋力:36(33)

敏捷:30(33)

技巧:39(23)

器用:6(35)

知力:15(24)

精神力:95(90)

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― 新着の感想 ―
[一言] 現在35話です。 こういう地道に強くなる話が冒険ぽくって好きなのですが、ヒロインの名前がちょっと…。 大昔のマンガの「のらくろ」が連想されて、感情移入して読んでいたのが素に戻されます。
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