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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第八章【魔王と異世界生活】
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第二百七十八話:ヒトとマモノ 中

 前世の記憶を思い出したトビアスは家族の反対を押し切り、冒険者ギルドのある町へと訪れた。冒険者になれば、自身の能力が視覚的に把握できる道具——エクスペリエンス・オーブを貰えると聞いたからだ。

 村を出てから町に着くまでの間、魔物と遭遇することは数度あった。その中でトビアスは、奴らの言葉を聞き取り、自分が特別な能力を有していると確信した。


 冒険者登録を済ませ、エクスペリエンス・オーブを通して冒険者手帳に記されたアビリティ、それは——

 【魔物使役モンスターテイム

 【魔物言語能力】

 経験の長いギルド職員ですら初見のアビリティ。本来なら祝いの言葉が送られる筈であったが、魔物に関連するアビリティというのが印象を悪くした。職員は上司を呼び、トビアスを個室へと案内した。

 成人したとはいえまだ子供っぽさが抜けきらず、村から出て来たばかりで装備もろくに整っていないトビアスに対し、上司は屈強な護衛を連れていた。


「君は自分の能力をどこで手に入れ、これからどう使うつもりだね?」


 地位も腕力も上の人間が目の前に居て、邪な考えを口にしたがる者がいるだろうか。無論、トビアスに邪心はないのだが、少しばかりの呆れを感じずにはいられなかった。ただし呆れを表に出す意味を見出せなかったので、口と思考を自分が人々にとって危険な存在でないことを証明するために使うことにした。

 幸いなことにブランクドが異世界人の存在が認知されている世界であったため、トビアスは自分が転生者であることを説明することにそこまで苦慮はしなかった。それは同時に、特異なアビリティを所持していることへの回答にも繋がった。


「ボクは人が正しく生きるために、この能力を使います」


 上司も護衛も共通して、若いな、と心の中で呟いた。しかし、未知に挑み魔物を討つ者を束ねる側としては、未熟さは排斥するものではなく臨むべきものである。


「彼の言葉に、偽りは無い」


 護衛の確信に、上司はゆっくりと頷いた。


「いいだろう。冒険者として、君の能力と考えの正しさが証明されることを期待しているよ」


「ありがとうございます! 頑張ります!」


 魔物の言葉を聞き、魔物を使役する能力など、他人に素直に受け入れてもらえるものではないと理解しつつ、だからこそ能力を使う者の誠実さが問われる。トビアスは何故自分がこの能力を持ったのか、朧げに納得できた。


 上司との面接終了後、受付で手続きを済ませ、晴れて冒険者となれたトビアス。そこに更なる出会いが舞い込む。


「よう、大丈夫だったか?」


 ギルドの職員から解放されたのを見計らって親し気に話し掛けて来たのは、トビアスと同じくらいの歳の男だった。着込んだ鉄鎧には傷一つなく、右肩に描かれた赤色の意匠も綺麗なものであった。

 トビアスは周囲を見渡して男に反応する者がいないことを確認し、男の視線を追うようにして自分を指差した。


「ボク?」


「ハッ! お前しかいないだろ。職員に連れて行かれたようだから、気になったまでさ」


 気になったからといって、直ぐさま本人へ聞きに行こうと思い、行動に移せるものだろうか。トビアスの疑問は、男の自信に満ちた佇まいによって納得させられた。


「大丈夫。ちょっと話をしただけだから」


「ふん、そうか。まぁ、等級証があるということは冒険者として認められたということだ。本題に入ろう」


 この男は初対面の自分に一体何用なのか。トビアスはじっと続きを待った。


「お前、俺のパーティに加わる気はないか?」


「えぇっ!?」


 突然の申し出に思いのほか大きな声が出てしまい、恥ずかしくなって口を押さえる。だが、男の方は特に気にするわけでもなく話を進めた。


運搬者トランスポーターを探しているのだが、中々見つからなくてな。ほら、大半は前線で活躍したがる連中ばかりだろ」


「まぁ……そうだろうね」


「その点、お前は役割にこだわりが無さそうだ」


 男の予想は合っていた。トビアスは冒険者となったが、それは自分の能力を知るためであり、剣や魔法で武功を立てたいという気持ちは他よりも圧倒的に弱い。


「どうしてそう思うのかな?」


 初対面の男がどうして自分のことを理解できたのか、純粋な疑問だった。


「それはお前、見た目で分かるものだ。装備は片手剣だけで、しかも日常的に剣を振るっているようには見えない体付き、そしてなにより顔つきが戦士の相ではない」


 変わらず自信に満ち、悪びれる様子もない男の回答に、トビアスは苦笑を返すのが精一杯だった。


「は、はは……当たり」


「うむ。であればお前にとっても悪い話ではない筈だ」


 言い終えるや否や、男は背を向けた。


「来い。俺の仲間を紹介しよう」


「え、あ……」


 否応なしに歩いて行く男を呼び止めようとしたが、背を向けていても揺らがない存在感に言葉は飲み込まされ、結局後を付いて行くことにした。


「あ、やっと戻って来た。ビクトルおっそい!」


 男——ビクトルが案内した卓で待っていたのは二人の女性。その内の一人が長杖ロッドで床を叩いた。


「そう急くな。適任を見つけて来たぞ」


「では、そちらの方が?」


 木製の大四角盾スクトゥムを携えた女性がトビアスへ視線を向けた。


「そうだ。これから運搬者となってくれる」


 まだやると決めた訳ではないのだが。トビアスは心の中でぼやきながらも、半ば諦めに近い感情で受け入れ始めていた。


「紹介しよう。こっちの淑女がアイダ。盾役兼回復役の補助者サポーターだ」


「淑女なんて品の高いものではありませんが、よろしくお願いします」


 愛想よく丁寧なお辞儀をされ、トビアスは思わず「ども」と言いながらお辞儀を返した。


「そしてこっちの野犬みたいなのがローサ……」


「ちょっと! 初対面なんだからちゃんと紹介しなさいよ!」


 噛み付く勢いでビクトルに抗議する様を見て、トビアスは心の中であながち間違った紹介ではないな、と思った。そして、ローサの言葉が重なってしまったが、ビクトルが彼女の事を魔法使いマジシャンと紹介したことも聞き取っていた。


「そしてこの俺が新進気鋭の攻撃者アタッカー、ビクトルだ。これからよろしく頼むぞ…………」


 これまでずっと崩れなかった余裕の表情が僅かに曇る。その理由を察したトビアスは、観念して名乗りと共に言葉を返す事にした。


「名前はトビアス。冒険者には今日なったばかりだけど、これからよろしく」


 流されるままにパーティへ加入することとなったが、これも悪くないな、とトビアスは内心感じていた。



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