第二百五十三話:夢は続く
「シオン魔法の準備! エイレス、ソラクロ時間を稼いで!」
南の魔窟内、遺跡を模した空間で妖精体となったコデマリが声を張り上げる。トロールの討伐に訪れ、首尾よく標的を見つけて討伐したは良いが、戦闘音を聞きつけたオーガの群れを相手にしなければならなくなったのだ。
名を呼ばれた三名がそれぞれ了解の意を口にし、直ぐに行動へ移す。宙返りし、飛ぶ様に後退したシオンは【ブラスト】の狙いを定めながら詠唱へ、エイレスはシオンとオーガを直線状に結んだ中間地点へ、ソラクロは盾を掻い潜って術者を狙おうとしているオーガへ。
「マナよ、我が下に集結し悪意を払う大いなる雷へと転じよ。ブラスト!」
エイレスが食い止めていたオーガの背後で、パチリパチリと空気の弾ける音が鳴る。その音を合図にエイレスは盾を押し出し、雷のマナの集束地点にオーガを放り込む。ソラクロも脇からオーガを一体蹴り飛ばし、犬耳が捉えた敵の気配の方へ踵を返した。
遺跡の広間に雷が落ち、オーガの断末魔を飲み込んで弾ける。焼け焦げた肉の臭いが漂うより先に、次のオーガが遺跡の二階部から落下して来る。
シオンの魔法後の隙を突く落下攻撃。しかし、それは事前に察知したソラクロの手によって阻まれる……筈だった。
「シオンさん!」
落下と言い表すより、転落と表した方が適切なオーガの体勢。その背に銀の刃が深々と刺さっていることを確認したソラクロは瞬時に自身の取るべき行動を判断した。状況把握が間に合っていないシオンの体を抱くように跳び込み、転落して来たオーガから守った。
「わっ! ……この刀……」
床に激突したオーガが発生させた風で煽られるコデマリ。彼女の表情は、オーガを死に至らしめた反りのある刀身を目にした途端、見る見る険しくなっていく。
「大丈夫?」
オーガが落ちて来た二階部から顔を覗かせたのは、返り血と砂埃で汚れたアクトだった。
「大丈夫? じゃないわよ! 勝手に深追いして行った挙げ句、武器を手放した上に、こっちに死体を落とすんじゃないわよ!」
羽で空気を叩き、一瞬にしてアクトの眼の前に飛び上がったコデマリが捲し立てる。
「勝手じゃない。レイホから命令を貰ってる」
何食わぬ顔で言ってのけるアクトに、コデマリは頭に何かが激流となって押し寄せる感覚を覚えた。
「悪い。最後の奴は取り逃がしそうになったからアクトに任せたんだ」
遺跡内のオーガを全滅させてアクトに追い付いたと思いきや、既にコデマリとの言い争いが始まっていた。爆発寸前のコデマリは全身を小刻みに震わせている。
「あんたはこいつの好きにやらせ過ぎなのよ! プリムラがいるんだから、逃げる相手なら魔法で追撃するべきでしょ!」
横槍を入れたからか、爆発した怒りの標的に俺が選ばれてしまった。
「レイホを守る方が優先」
守ってくれるのは嬉しいんだが、爆発してるところに火薬を投げ入れるのはやめてくれ。
「キーッ! この無表情共!」
小さな手足と羽を荒ぶらせて近くに居たアクトに殴り掛かるが、妖精と人間では体格差は歴然でありアクトは微動だにしない。
「先生、落ち着いてください! 顔が鬼になってるッス!」
面白がってか、それとも無意識でか、火薬を増された爆発の最中にエイレスが飛び込んで来る。
「うっさいアホ!!」
アクトを殴るのを止め、エイレスに向かって【マジックショット】を連射する。
「あ、あぶないッス! オレ、魔力無しなんスから、魔法は勘弁ッス!」
鋼鉄の盾で身を守りながらの抗議は悲鳴に近かった。
「今日も賑やかですねぇ」
戦闘直後だというのに喧々轟々とする様子を、ソラクロは尻尾を振りながら楽しげに眺めていた。
「……そうだね」
シオンは極力何も考えないようにしつつ無難な相槌を打った。
討伐対象のトロールが二体と、乱入して来たオーガ八体。全員大きな負傷も無く魔窟から帰還を果たせた。成果としては上々なのだが、クロッスに着くなりコデマリは人間体に変身して「寄る所があるから」と街並みへ消えて行ってしまう。
「……なんかあいつ、最近怒りっぽくなった」
乾燥させた果物を口に入れながらアクトが呟き、その隣でエイレスは首を傾げた。
「そッスか? 隊長と言い争いするのはいつも通りだと思うッスけど」
「言い争っても、街に戻れば落ち着いてた……かは微妙だけど、ギルドの報告までは必ず一緒にいたよね。ここ一週間は今日みたいな感じだけど」
風で巻き上げられないようフードを押さえながら、シオンは記憶を辿った。
一週間前と言えば、この町に戻って来た俺たちが冒険を再開し始めて直ぐだ。
「パーティを抜ける。なんて言わないですよね?」
悲しさと不安で三本の尻尾を力無く垂らしながら、縋る様な目を向けて来る。
俺に聞かれてもな……喉から出そうになった言葉を飲み込む。コデマリなら大丈夫だろ、なんていう楽観も思考の外に捨てる。解消すべきはソラクロの不安ではなく、コデマリの不満なのだから。
「少し話して来る」
行き先の当ては無いし、コデマリの心境も分からない。なので残す言葉は最小限にして駆け出す……が、自分以外の足音が聞こえて直ぐに立ち止まる。
「……プリムラは皆と一緒にいてくれ」
「え……」
「プリムラさん、レイホさんが困っちゃいますよ」
窘めつつ、さり気なくプリムラと手を繋ぐ。
ソラクロの助け舟に内心で感謝しつつ、ギルドへの報告は…………あれ、誰に頼めばいいんだ? 誰でも良いんだけど、こういう時はなんとなくいつもコデマリに頼んでいたから、コデマリがいなくなると途端に迷うな。
「アニキ、どうかしたッスか?」
「……いや、ギルドへの報告は任せた」
首を横に振り、誰とも視線を合わせずに頼みだけ口にしてからコデマリを追い駆けた。
薄い桃色の髪を二つ結びにし、フリルがあしらわれたドレスを着た少女。幸いにしてコデマリは特徴的な外見をしていたので、聞き込みをすればそれなりに情報は得られた。
目撃者を辿って着いた先、それは————
「修練場?」
短い階段の上に鎮座する、中流区でも一際大きい建物。白銅色の外壁の正面では、金属で補強された大柄な木の扉が開放されており、冒険者風の人々が疎らに行き交っている。
修練場はその名の通り、魔物の脅威に備えて心身を鍛え、技を会得する場所だ。
かつて俺は、ここでとあるスキルを教わろうとし、門前払い——建物の門は潜ったが——をくらった。そんな過去のことはさておき、冒険から帰って直ぐ修練場を訪れるとは……随分とストイックな生活を送っている。
階段を登って屋内に入ると、待合所と受付が一体となった広々とした空間には等級も役割も違う冒険者が屯していた。入り乱れ、雑音めいて耳に入る会話は、能力値やスキルや戦闘スタイルについてがほとんどであり、冒険の成果や作戦についての会話が飛び交うギルドとはまた違った雰囲気が漂っていた。
広間を一通り眺め、コデマリの姿が無いことを確認し、受付へと向かう。
「ようこそ、修練場へ! ご予約の方ですか?」
受付台に程よく近付いた所で、受付嬢が慣れた愛想を振り撒いて来る。
「いえ、予約はしていないのですが……」
「では、新規で受け付けますね! ご希望は基礎訓練ですか? それともスキル習得でしょうか?」
いかんな。はっきりと物を言わないと勝手に話が進められてしまう。
「いや、人を探してます。コデマリという名前の少女です」
「あ、待ち合わせでしたか。確認しますので少々お待ち下さい」
待ち合わせでもないのだが……話は進んでいるから問題ないか。本当の事を言うのも面倒だし、適当に話を合わせるとしよう。
思考を巡らせていると、台帳を確認していた受付嬢が顔を上げた。
「お待たせしました。訓練場の七番ですと、そちらの通路を進んだ先になります」
おや、随分とあっさり案内されてしまった。「待ち合わせをしているとは伺っておりません」とか言われると思っていたが……問答の手間が省けるのなら願ったり叶ったりではある。
「ありがとうございます」
案内された通路を確認し、それから礼を告げて立ち去る。
広々とした受付から一転、訓練場へと続く通路は幅が狭く、圧迫感……とまではいかないが手狭に感じる。白銅色の壁に開けられた四角い穴からはこの月特有の奔放な風が入り込み、燭台の囲いが震えて音を立てる。が、その音はそこかしこから聞こえる剣戟音や炸裂音によって掻き消される。
通路から室内を覗ける窓は無く、唯一の出入り口である扉は重々しい鉄製だ。そのため、道中に余所の訓練に興味を惹かれる事なく、七と刻まれた扉の前へと辿り着く。
締め切られた扉の向こうからは……特に物音はしない。何もしていないことはないと思うが、耳を澄ましても周囲の訓練音ばかり聞こえて来る。
扉の周りに呼び鈴の類いは無く、拳を作って鉄を叩く。
……反応は無い。仕方ない、このまま入ってみるか。
輪になっている取っ手を引くと、油が差し込まれているのだろう、扉は見た目よりもずっと軽く開いた。
「なんでよ!! なんで……できないのよ!」
訓練場の様子を確認するよりも早く、鋭く、甲高い声が耳をつんざいた。当然驚いたが、それは声量にではなく、広い空間に座り込んで項垂れるコデマリの姿を目にしたからだと、一瞬の間の後に気付いた。
「……コデマリ」
扉を閉めると同時に名前を呼ぶと、コデマリは魔物の襲撃でも受けたように警戒し、立ち上がった。振り向いた銀の瞳が俺を捉えたまま揺れている。
訓練場は殺風景な所だ。固められた土の地面を白銅色の壁が囲んでいて、高い天井は格子状になっており、夕焼けの空が覗き見える。
「……なんの用?」
なんと声を掛けようか悩んでいる内に、コデマリは瞳の揺れを整え、強張った体を微かに弛緩させた。ただし、視線は固められた地面へと向けられている。
べつに用って事のものでもないが……直感的に浮かび上がった言葉を脳内のゴミ処理場に放り投げる。ずかずかと踏み込むくせに、面と向かった瞬間奇妙に距離を置くのはやめにしよう。
話がある。端的な物言いじゃ簡単に拒絶される。もっと大げさに……。
「忘れたのか? 今日が特別な日だって」
「はあ?」
地面から視線を上げ、意図を探るように視線を交わらせる。
探ろうと、思案しようと分かるものか。看破されないという自信が、俺をコデマリへと歩み寄らせた。
「……今日何も無いでしょ。適当なこと言わないで。アタシは訓練したいんだから、用が無いなら出てって」
拒絶。これ以上は近寄らない方が良さそうだ。手は届かないが、話すには丁度いい距離か。
「いいや、俺は真面目だし、用もある」
「後にして。ここを借りられる時間は決まっているし、料金もかかってるんだから」
踵を返して背を向けるコデマリの足元に、一冊の本が置かれていることに気付く。
苛立ち……なぜできないのか……本…………。なるほど、心当たりは見つかった。
「……料金は俺が払う。話をする時間をくれないか?」
「そういう問題じゃないし、改まって話すことなんて無いわよ」
「話したことがないから、話すことだと認識できていない可能性は?」
「……意味わかんないわよ」
「俺もよくわからん」
「何よそれ」
中々振り向いてくれないな。……まさか俺が女を振り向かせる事に悩むことになるとは……異世界は何があるかわからんな。
それはさて置き、なんだかんだ言いつつも反応はしてくれるし、回りくどいよりも直接的に言った方が良さそうか。
「悩みがあるなら言ってくれ。コデマリがいないとあのパーティ……結構困るんだ」
「…………」
まずい、無言になってしまった。
「頼り過ぎたなら……負担をかけ過ぎたなら悪かった。魔法の練習がしたいなら、冒険は休んでくれて構わない」
「何よそれ……」コデマリの呟きは小さかったが、俺の耳は辛うじて拾い切ることができた。
「アタシがいないと困るとか、頼り過ぎたとか、ソラクロかシオン辺りにそう言えって言われて来たの?」
「いや? ソラクロはパーティを抜けないか心配して、シオンは最近様子がおかしかったと心配していたが、俺が言った言葉は自前のものだ」
嘘偽り無く答えるが、コデマリは鼻で笑うだけだった。
「なら答えなさいよ。あんたはいつアタシがいなくて困ったのよ! アタシに何を頼ったことがあるのよ! どこで負担を強いたのよ! 冒険を休んでもいいって言うくせに、どうして今一人にしてくれないのよ!」
声を荒げ、一息に吐き出したことでコデマリの体は肩を上下に揺らしながら酸素を求めた。
小さな背中に視線を落としながら、回答をまとめる。
いつ困ったか、正しくついさっき。
何を頼ったか、パーティの指揮に補助魔法などなど。
どこで負担を強いたか、エイト絡みの時はだいぶ負担を掛けたな。それ以外でも飛べる事を便利に扱った。
どうして一人にしないか、今日が特別な日だから。
うん、完璧だ。俺は「答えるぞ、覚悟しろ」と凄んでから、たった今まとめた回答を言い放った。
「……そうね。そうよ……アタシにできることなんて、空を飛んで指示するくらいよ」
誰にでも出来ることじゃないし、少なくとも俺は非常に助かっているのだが…………本人が目指していないところを褒められても嬉しくないよな。どうも俺の頭は質問に対する回答は思い付くが、人物に対しての回答は度外視してしまいがちだ。
「わかってるわよ。何をしたって妖精は成長できないってことくらい。知力が足りていて、魔力に余裕があって、魔法書を読んでも定型魔法を新しく覚えることすらできない……!」
否定の言葉は思い付くが、ようやくコデマリが本心を語り出してくれたのだ。大人しく耳を傾けよう。
「人間と一緒に居て、成長や可能性ってものに触れていれば何か変わるかもって思ったけど……そんな都合よくはいかない。……何が大魔法使いの卵よ。自分の小ささを思い知るだけ……シオンとプリムラがいればアタシの魔法なんて……必要無いのよ」
力の無い言葉が切れ、コデマリは地面に置いてあった魔法書を拾いながら振り返り、差し出した。
「エクシード、能力上昇の魔法書よ。アタシは使えないみたいだから、あんたにあげるわ」
「…………」
コデマリの様子を伺いながら、差し出された魔法書へ手を伸ばす。当然だが簡単に受け取る気は無い。
「色々聞いて、色々吐き出したらすっきりしたわ。ありがと」
俯き、前髪で隠しているが、コデマリの表情は言葉とは裏腹に暗く、観念しているようだった。
「……早く受け取りなさいよ。結構重いんだから」
魔法書を押し付けるべく腕を伸ばして来たので、俺も腕を伸ばし、コデマリの手首を掴んだ。訝しみつつも呆れの笑みを浮かべるコデマリが、何かを言うより先に言葉を放つ。
「ものの価値というのはどう生まれたかではなく、何を成したかで決まるものだ」
誰かが似たことを言ってそうな格言を口にすると、本日三度目の「何よそれ」が返って来る。
「平凡な剣でも、巨悪を討ったなら聖剣と称えられる。農奴だろうと都市や国を救ったのなら英雄と謳われる。周囲からの評価が高いところに定まれば、個人の力量なんて二の次だ」
経験則なんて無い。それっぽい言葉を適当に組み合わせただけだ。明日には忘れているだろう。
「アタシがそうなれるって言いたいの? どうしたの、あんたにしては随分と気を遣うじゃない?」
「そこまでは言っていない。けど、少なくともあの子にとっては、コデマリが誰よりも立派な魔法使いだと思えたから手紙をくれたに違いない」
そう。ランドユーズの路地裏で助けた少女は、グールを倒した俺やアクトではなく、手を握り傍に居たコデマリに感謝の言葉を送った。それは変えようのない事実だ。
「それは……そう、かも、だけど……」
「一つ大きな事を成して万人に認められるのも、小さな事を積み重ねて万人に認められるのも、大きく括ってしまえばどちらも偉大な存在に違いはない」
多分、広く印象的に残るのは前者の方だが、それを言ったら説得力が無くなってしまうので都合良く無視しよう。
「もし俺がコデマリを大魔法使いにする可能性があるとしたら、間違いなく後者の方だから……諦めて気長に夢を見てるんだな」
夢は見ている内が楽しいのだから、長く見れていた方が良いに決まっている。というのは蛇足か。
「……わかったわよ。レイホがそこまで言うなら、もう暫くは頑張ったげる」
言葉を証明すべく、コデマリは魔法書を持った腕の力を抜き、俺の手に委ね、そして悪戯っぽく笑んだ。
「だから、ちゃんとアタシを歴史に残るような大魔法使いにしなさいよ!」
「ああ。約束はしないが任せろ」
「そこはスパッと任せろって言いなさいよね」
銀の瞳が潰れ、半眼で睨みつけて来る。
「……冗談だ」
「ならもっと状態っぽい顔をしなさいよ!」
「……難しいな」
「はぁ……あんたって、本当に真面目そうに見えて惚けてるわよね」
よくお分かりのようで。……他者に自分のことを理解されるなんて、そうある事じゃないと思うが……案外悪くないかもしれない。
「まぁいいわ。それより、いつまで手首を掴んでる気? もう離して」
「ああ、悪い」
離すと、コデマリは掴まれていた違和感が残っているのか、魔法書を持ち替えて手首を何度か振った。
「もう時間になるからここを出るとして、最後に教えなさい」
「なんだ?」
「今日が特別な日って言ってたけど、本当?」
「ああ、本当だ」と頷いて、今度はしっかりと、奪い去るようにコデマリの手を握る。
「俺とコデマリが本心で話し合った、特別な日だ」
決め台詞としてはいまいちだったのか、コデマリは照れる、というより悪寒で頬をひくつかせた。
「先週のプリムラの時といい、あんたどうしちゃったのよ? 変な物でも食べた?」
「失敬な」
俺なりに愛想を振り撒いた結果だ。機嫌を損ねた振りをしてコデマリの手を引いて歩き出すと、驚くほど素直について来てくれた。
「あんたは心配無いと思ってたけど、一応言っておくわ。妖精って厳密には性別が無いから、あんまり変な気を持たれても応えられないわよ」
あれ、仮でも一時的でも悩みを晴らしたのに、俺への評価下がってない?
「それと、アタシの見た目が可愛いのはわかるけど、あんまり小さい子を狙うと、周りから気持ち悪がられるわよ」
言い切るか否かのタイミングかつ超速でコデマリから手を離す。
あぁ、危ない。このまま外に出ていたら、俺の恐れていた“本人たちにその気が無くとも、周りからはそう見える”状態になるところだった。
動悸を起こしながら変なことを考えていた所為で、扉の向こう側で跳ねるような足音が遠ざかって行ったことに気付くことは出来なかった。
 




