表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第一章【始まる異世界生活】
21/296

第二十話:筋肉が足りない

 デリアを筆頭にキラーアントの行列へ強襲を仕掛ける。デリアは大胆にもキラーアントの真上に落下、着地の衝撃で胴体を折り、間髪入れずに首を刎ねた。

 敵襲に気付いたキラーアントは鉄を引っ掻いたような鳴き声を出し、脅威を排除しようと襲い掛かる。


「させるかっての!」


 ジェイクがデリアの背後から接近していたキラーアントの脇腹を蹴り上げて頭部に短剣ショートソードを突き刺した。その間にデリアは距離を取り、別のキラーアントを仕留めに行く。

 頭部の機能を失った二匹のキラーアントは体ごと六本の足を振り回して暴れ回る。行儀よく並んでいた場所で突然暴れ回るものだから、巣に入る組の列を妨害した。足で蹴られたキラーアントは運んでいた花を落とすと、頭のない同胞を怒り狂ったように噛み千切った。仕事の邪魔をするなら味方でも容赦しないのか。


「レイホさん、ボクたちも行きますよ!」


 共喰いを見て顔を引き攣らせていたが、キラーアントの生態調査に来たわけではない。マックスの後ろに付いてキラーアントの群れに接近する。

 出る組のキラーアントはもう列の形成など気にせず、巣から出ていた個体も巣から出て来る個体もこぞって俺たちに向かって来る。

 上から見ていた時は直下に巣穴があったので分からなかったが、巣穴が意外と小さい。横幅は人間が二人並んで歩けるくらいだが、高さがない。背の低いデリアやアンジェラなら少し頭を下げれば入れるだろうが、男性陣は中腰にならないと中には入れそうにない。クイーンアントは巣の奥にいるだろうに、どうやって仕留めるんだ?


 周囲を気にしている余裕なんてないだろ!

 自分の心の中で怒鳴り声が上がる。目の前ではマックスが丸盾ラウンドシールドでキラーアントの突進を防ぎ、短槍ショートスピアで頭を突き刺すところだった。攻撃の隙を突いて、別のキラーアントが左から跳びかかって来る。危ない!そう思って初突はつつきを前に突き出して駆ける。


「下がって!」


 丸盾で攻撃を受けるマックスに言われ、俺は前につんのめった後、素直に後退した。

 攻撃を防がれたキラーアントは地面に落ち、マックスは俺と同じ位置まで後退する。そこで頭を刺し貫かれたキラーアントが地面に落ちた同胞に躍りかかる。ほとんど上に覆い被さるように乗りかかり、体液を垂れ流しながら手足や体を叩き付けている。

 運が良いのか悪いのか、暴れ回ったキラーアントの足が首の付け根に差し込まれ、そのまま捩じ切られた。甲高い鳴き声が響き、暴走が伝染する。新たに出て来たキラーアントや入る組のキラーアントを巻き込み、手が付けられそうにない状況に陥る。


「こっちはしばらくほっときましょう。二人を手伝いに行きます!」


 俺が想像していた混戦とは全く違う光景が広がり、少しの間、目を離せないでいたが、マックスに呼ばれたので意識を切り替える。

 向かう先はジェイクとデリアの所だ。二人は騒ぎを聞き付けて戻って来たキラーアントの相手をしている。


「あー……数多い!」


「金だと思ってやるしかない」


 動きから明らかにやる気が削がれているジェイクの隣りで、デリアは二本の小斧ハチェットを駆使してキラーアントの足と頭を潰していく。数では圧倒的に不利であるが、キラーアントの死に際の暴れを利用して上手く各個撃破できている。


「二人とも、手伝いに来たよ!」


「お! マックス、良いところに! 交代、交代」


「え!?」


 元気を取り戻したかと思えばマックスの腕を引いて立ち位置を入れ替える。戦いの最中なのに随分と余裕があるものだ。


「こいつら数多いけど頭悪いんで、適当に倒しておけば勝手に自滅するんですよ」


「そうみたいですね。あっちでも共喰いしていますし」


 俺たちが来た方向を指差すと、列は崩壊して、出る組も入る組も一緒になって暴れ回っている。が、一際高い鉄を引っ掻いた鳴き声が響くと、全てのキラーアントは動きを止めた。

 何が起きたのかと様子を見ていると、キラーアントよりも一回り大きく、赤黒い体表をした個体が姿を現した。


 クイーンアントが巣から出ると、同胞に噛み付いていた個体も、物資を運んでいた個体も全て一斉に俺たちの方を向いた。全体的な数は半分くらいになっているが、ここからは今までのようにキラーアント同士で争わせることはできないだろう。


「うえっ……出てくんの早くない?」


「こんなもんでしょ」


「どっちにしろクイーンが出てきたなら、アンジェラの方に近付こう。ここだと弓銃クロスボウも魔法も届かない」


 いつの間にか密集陣形になっていた三人が言葉を交わす。アンジェラの方って言ったって、そっちにはクイーンアントがいて、当然守りも厚くなっている。それに、統率の取れたキラーアントは俺たちを包囲するように位置取り始めている。


「ボクが先頭、デリア、レイホさん、ジェイクの順で付いて来て。クイーンの近くならアンジェラの援護も届くから、デリアはクイーンを狙って。周りはボクたちに任せて」


「わかった」


「はいよ」


 もう本丸に突っ込むの? もう少し周りを削った方が良くないか。って、もう列形成しちゃってるし、経験者が行くって言ってるなら大丈夫なんだろう。多分。


「行くよ!」


 マックスの号令を受け、俺たちはクイーンアントに向かって突っ込む。当然、キラーアントは防衛しに来る。包囲を展開していた個体も、クイーンアントの周囲に待機していた個体も全てだ。


「ふっ!」


 背後で息の切れる声が聞こえた。横目に見ると、横薙ぎに振るった短剣から衝撃波が放たれてキラーアント二匹を吹き飛ばす。便利なスキルだな、是非とも覚えたい。


「ボクは左に行く! デリアは正面、レイホさんは右!」


 指示が聞こえて来て視線を正面に戻すと、キラーアント三匹と間も無く接敵するところだった。俺は……右、右か。一人でやれるのかとか考えてる場合じゃない、やるしかない。

 初突はつつきを構えて斜め右方向に走る。キラーアントが口を開けて突進してくる。このまま頭にダガーを突き刺すのは危険だから、横に逃げるか? いや、避けたらジェイクの方に行くかもしれない。

 考えた末、俺はキラーアントを蹴り飛ばすことにした。高さ的に手で持っている初突より足の方が早く届くし、リーチもある。ブーツの爪先は金具が付いているから、少しくらい噛まれても大丈夫だろう。


 距離と歩幅を合わせ、左足を思い切り踏み込んで右足を振り上げる。しかし、渾身の右キックは宙を蹴った。距離を見誤ったわけではない。キラーアントが突進を止めて悶えたからであり、その原因は尻尾に刺さった一本の矢である。アンジェラが援護してくれたのだろうが、見事に噛み合わない。突進してくるなら動きが読めたが、今は深々と刺さった矢に身を悶えさせていて近付けやしない。

 初突じゃなくて短槍を買っておけば離れた所から刺せたのに……。後悔しても仕方がないし、武器の長さよりも俺の戦闘経験値の低さの方が問題だ。


 とにかく、突っ立っている場合ではない。仕留めるか、別の敵を攻撃するかしないと。

迷っていると、別のキラーアントがやって来る。仕留めるのは後だ。

 幸いなことに俺に向かって来るのは一匹だけで、マックスとデリアがクイーンアントの方に圧力を掛けているからそちらにキラーアントは集中している。


 今度こそやってやる。タイミングを見計らって蹴りを放とうとするが、歩幅が合わない。踏み込みが早すぎた。

 無理矢理に溜めを作ってから蹴るが、体が開いてしまってどうにも力が入らない。蹴り自体は下顎に入ったが、少し仰け反らせるだけで大したダメージは入っていない。しかも俺は体勢を崩してすっ転んでしまう。


「やべっ……!」


 当然、キラーアントは襲い掛かってくる。蹴られた顎の調子を確認するように口を開閉させている。

 食われる? そんな死に方は御免だ。

 立ち上がろうとするが、上半身を起こしたところでキラーアントが上に圧し掛かって来た。左右に開かれた口が眼前に迫る。腕を押さえつけられたわけではないので、反射的に初突を振り上げて下顎、さっき蹴った辺りに刃を差し込んだ。キラーアントは首を曲げて少し怯んだが、絶命はしていない。改めて俺を食い殺そうと開口して迫る。


「くっ……!」


 右手に持った初突を奥に差し込み、捩じ切ろうと左右に振るが全然刃が動かない。力が足りないのか!? 咄嗟に左手でキラーアントの顔、口の上に生えた触覚の辺りを押さえる。

 くっそ、やっぱり力が足りない……。押し負けて徐々に顎が近付いてくる。足で胴体やら尻尾やらを蹴っても怯みやしない。左手の爪を立てて目に突き刺してみるが、気色悪い感触と体液が流れ出るだけで状況は好転しない。

 キラーアントの方も意地が出て来たのか、足で俺の腹や足を踏み付けて身動きを封じてくる。やばいやばい、もう喉先が噛まれそうな距離に口がある。食われるのか……自分が生きる為に他の生物の命を食らう。自分が現代社会で大した意識もせずにやってきた行為が、やられる側はこんなに怖いのか。

 くそっ……くそっ!

 死を覚悟してから無意識に体が動いた。刺し込んでいた初突を引き抜き、キラーアントの頭頂部に突き刺した。キラーアントも死力を尽くして俺の喉を食い破りに来たので、頭を押さえ疲れて来た左腕を口の根元に押し込んで顎の動きを抑制する。首は守れたが、左腕の肘から先が無くなりそうな感覚に陥り、初突を何度もキラーアントの頭部に刺した。


 目を潰し、触覚の根元に穴を開け、口の上に深く初突を突き刺して、ようやくキラーアントの顎の力が弱まった。

 死ぬ直前まで力を入れていたからか、暴れることもなく俺の体の上に倒れたキラーアントを右腕と足でどかす。


「はぁ……はぁっ…………いってぇ……」


 息やら意識やら感覚やらが戻ってくる。酸欠気味になっているし頭の中は考えがまとまらないし左腕は動かせないほどの激痛が走る。生きている証拠がこんなに苦しいもんかよ。左腕、取れてないよな……。

 革のシャツの袖は破れ、直視するのも嫌になるほど真っ赤に染まっている。


「まだだ、戦いは……」


 周囲を見渡すが、襲って来るキラーアントは見当たらない。デリアがクイーンアントを、マックスが二匹のキラーアントを、ジェイクが一匹のキラーアントを引き受けている状況で、他は全て倒されている。

 俺が最初に接敵したやつはボウガンの矢が頭部に刺さって死んでいる。こっちの援護もしてくれてもよかったのに、と思うがアンジェラからだと俺とキラーアントが射線上に重なっていて援護できなかったのだろう。他の人も多数相手じゃこっちの面倒を見る余裕はない。酷い目に遭ったが生きてるから文句はない……死んでたらそもそも文句言えないけど。

 とりあえず、俺はもう休んでていいかな。戦えと言われても左腕が使い物にならないし。そう考えてから、止血にでもなればと思い、ポケットから傷薬アプライサルブを取り出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ