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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第一章【始まる異世界生活】
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第十九話:稼ぎを求めて

 ゴブリンを倒した後、再び川沿いに歩いて行くと程なくしてディシンフラワーを見つけた。アンジェラ達は喜んでいたが、その割りに一人一輪と採取した数は最低限だけだった。

結局、何故ディシンフラワーが必要なのか、何故わざわざ俺に採取場所を案内させたのかは聞けなかったが、不利益があるわけでもないので気にしないようにした。


 クロッスに戻り、冒険者ギルドへ討伐達成の報告をする。ゴブリン三体で三十六ゼース。俺からすれば嬉しくなる数字だが、パーティ五人で割ったら七ゼースの一ゼース余り。戦闘に一切参加していないので分け前を貰う気はなかったのだが、等分した額だけでなく端数の一ゼースも俺にくれた。嬉しいがそのまま貰うのも意地汚いと思われそうなので、一回断ってみたが「今回はディシンフラワーの場所まで案内してもらうのがメインだったから」と押しこまれた。


「レイホさん、よかったら明日も一緒に冒険に出ませんか?討伐手伝いますよ!」


「え?」


 即席パーティなので今日が終われば解散だと思っていたので、アンジェラの申し出を半ば反射的に聞き返す。今回はディシンフラワーの場所への案内があったかので討伐を手伝ってもらったが、明日以降は手伝ってもらう理由がない。俺の討伐を手伝ったところで稼ぎがある訳でもないし、寧ろ頭数が増えるので分け前は減る。昇級条件に「格下を手伝う」というのでもあるのだろうか。


「手伝ってもらう理由がありません」


 こう言うしかない。「俺は一人が好きなのでお断りします」とは言えないし、申し出をそのまま受ける気にもなれない。猫の集会の人が嫌いというわけではない。少しお喋りが多いとは思うが、パーティ内の雰囲気が良い証拠だし、昨日会ったばかりだが悪い奴らとも感じない。単純に、俺が相手の好意を素直に受け入れられない性格だからだ。


「理由?」


 アンジェラは少し不服そうな表情をして仲間に視線を向けた。


「ボクたちとしては、レイホさんにこのまま猫の集会の一員になってもらえればと思っています。四人だと少し手が回らない時があるので。ただ、いきなりパーティに入りませんか?といって直ぐに決めるのも難しいと思うので、何度か一緒に依頼をやって、良ければそのまま加入してもらえればって感じです」


 丁寧に説明してくれたのはマックスだった。人手が欲しいのに、随分と気を使ってくれるんだな。優しいことだとは思うが、向こうとしてもよく知らない相手を加入を誘って、それでパーティの輪が乱れたら堪ったものではない。

 今日の依頼で「じゃあ、さよなら」とならなかったということは、一次審査に合格したということなんだろうけど、生憎俺はパーティを組む気はない。が、スキルや魔法についてとか、異世界人であるアンジェラから色々と情報を聞ける機会でもある。どこまで人手として働けるかは分からないが、向こうから持ち掛けられた話だし、一先ず受けておいて損はないか。


「そういうことなら、明日もお願いします」


「よかったー! 凄い悩んでるから心配しちゃいましたよ!」


 そんなに悩んでいたか? ……悩んだか。

 予定外の事態ではあるが、俺は引き続き猫の集会のメンバーとして依頼を受けることになった。

即席パーティなので再申請しに行った時、エリンさんは安心したような、嬉しそうな表情をしていた。俺が一人でいたことがそんなに気掛かりだったのか。






 翌日、同じように猫の集会の面子と合流して東の森に出た。今日は町の近くに巣を作ったクイーンアントの討伐依頼を受けた。クイーンアントとはその名の通り、巨大蟻のキラーアントの群れ束ねる女王である。討伐推奨等級は銅星一だったが、この討伐推奨というのはあくまで一対一を想定したものなので、群れの規模によっては銅星二集団の猫の集会でも対処は難しくなる。一応、目撃情報から今回の巣は特別大きくないとされているが、真相は実際に見るまでわからない。


 俺が一人で気に病み、他の連中はお喋りに興じる。これも昨日と一緒だった。スキルや魔法について詳しく聞ければと思ったが、話を差し込む隙はなさそうなので、キラーアントについて考えることにした。

 群れを相手にするってことは、混戦になる可能性が高い。昨日のゴブリンみたいに見てるだけで終わると思うべきではない。初突はつつき一本でどう戦うべきだろうか。巨大とはいっても体長は一メートル弱程度で、地面を這って移動する相手だから攻撃は当てにくそうだな。体の構造的に上や後ろは向きづらいだろうから、死角に回って急所を……急所ってどこだ?とりあえず頭狙うか。


「レイホさんはキラーアントと戦うのも初めてですよね?」


 一人で考え込んでいると、マックスが話し掛けてきた。


「はい。そうです」


「あいつら、生命力が高いので致命傷を与えても暴れますので注意してくださいね。とはいっても少しすると動かなくなりますので、離れていれば大丈夫です」


「わかりました。キラーアントを倒す時、どこか狙い所はありますか?」


「やっぱり、頭ですかね。尻尾は柔らかいので刃が通りやすいですが、致命傷を与えるのは難しいです」


 頭を狙わないといけなくて、致命傷を与えると暴れ回ってから死ぬ。銅星一にしては結構面倒な相手だな。

 戦うなら何度か遭遇して、昨日倒されるところも見たゴブリンの方が良かった。けど、クイーンアントの討伐報酬が百ゼースなのを考えると魅力を感じる。クイーンアントを討伐するだけで百ゼースなので、キラーアントから得た魔石は別口で支払われる。更にキラーアントが産む卵には疲労回復の効果があるので薬品としても重宝される。総額二百ゼース以上の稼ぎが見込める依頼なのだから受けない手はない。実際、銅等級星三くらいまでのパーティからは人気な案件で、アンジェラが目ざとく新規の案件を見ていなければ別のパーティに取られていた。


 町を出発してから一時間ほど歩いた頃、目的の巣を発見する。木々の間から町の外壁が見えるぐらいなので距離的には近いが、陥没した地形に隠れていたので発見に時間がかかった。

 陥没した地形を見下ろして様子を伺うと、巣に入って行くキラーアントと出て行くキラーアントが一列ずつ行列を作っている。想像はしていたが、クイーンアントを討伐するには先にキラーアントを蹴散らさなければいけない。


「聞いていたより規模大きいじゃん」


「でもまぁ、その分稼ぎが増えるし、地形的に上から攻撃できるから案外いけるっしょ」


 アンジェラが唇を尖らせたのを見てジェイクが楽観的な意見を言い放った。


「うん、大丈夫。いけるけど少し怠いなーって思っただけ。こっちも一人増えてるしね」


 え、俺、頭数に入れられてんの? 戦う気はあるけど、一人分の働きができるとは思えないぞ。なんせ未だマタンゴすら……いい加減この言い訳もやめるか。


「どうする? もう行く?」


 デリアが抜いた小斧ハチェットでキラーアントを差しながら言った。今回は数が多いからか、二本とも抜いている。


「ちゃちゃっとやっちゃいましょう!」


「あたしはここで撃つから、四人は下で頑張って!」


 それぞれ武器を構えてるけど、作戦とかないのか。そう思いながらキラーアントの方に視線を向ける。何かこっちが有利になる情報はないか。


「レイホさんはボクと一緒に動きましょう。巣に入っていく連中はとりあえず無視して大丈夫です。あいつら、自分や仲間の命より巣に物を運ぶのを優先するので」


 俺の視線に気付いたのか、元から言うつもりだったのかは分からないが、マックスの言葉に少しだけ気が楽になったのは間違いない。

 生物としての習性なら、そうそう予想外の行動は起きないだろう。巣から出て来るキラーアントに集中して戦えば囲まれるようなことはない、か?

 周りに経験者がいるとはいっても、戦いが始まれば状況は随時変化していく。俺たちはキラーアントを殺しに行くし、キラーアントは俺たちを殺しに来る。俺だけが死ぬかもしれないし、俺以外の誰かが死ぬかもしれない。全滅するかもしれない。安全に依頼を達成して町に帰る確実な方法なんてどこにもないのだから、自分の抱いている不安にどこかで区切りを付けて先に進まなければいけない。

 ごちゃごちゃと頭の中で理屈を考えていたのか、いなかったのか、切り立った大地から飛び下りた俺はそれすらも思い出せないでいた。



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