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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第三章【学び舎の異世界生活】
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第百八十九話:友の活躍を祈って

後書きを書いていたら投稿時間遅れました。ごめんなさい。

 目を覚ましてから二日後に俺は退院した。腹に包帯を巻き、全身に絆創膏やら湿布やらを貼られた体は万全とは程遠く、果たして退院してよいものか怪しいが、治療院とて人手も場所も限られている。昨日だけでも新しく怪我人が何人も運ばれて来ていたし、退けられるやつは退けた方がいいだろう。俺としても、穏やかに完治を待っていられなくなったことだし……。

 医者にはやや無理を言って退院した訳だが、包帯と絆創膏だらけの本体同様、あちこち縫い繕ろわれたいつもの上着に制服のズボンを纏う俺の足取りは頼りない。


「レイホさん、やっぱりまだ体が辛そうですよ」


「肩、使って」


 系統の異なる、優れた外見を持った女子たちに両脇から気を遣われる様は、正しく両手に花状態なのだろう。……どこかに除草剤は無いものか。枯らすんじゃなくて、草を除けるって意味での除草剤。


「大丈夫だ。心配されると傷とか病気が悪化する体質だから、そんなに気にするな」


 正面を向いたまま、俺自身初めて聞く体質を言い訳に出してみる。基本的に俺の言葉に肯定的な二人は、どちらも納得したとは言い難い沈黙を置いてから視線を進行方向へ戻した。


 オーバーフロー時、番犬はあちこち火傷していたり、軽傷を負っていたりしていたが、簡単な治療を受けた後は連日、負傷者の救助や瓦礫の撤去作業に出ていた。フレアドラゴンと一対一を繰り広げていたとは思えないタフさである。けれど……。

 ちらりと視線を横にずらし、番犬の姿を視界に収める。相変わらず、へそ出し肩だしのシャツに膝上十センチ程度までのインナー付き短パン、緩衝性の高いブーツ、といった露出の多い恰好だ。グローブも着けていた気がするけど、多分、戦闘でボロボロになってしまったのだろう。……って、見るのは服装じゃなくて、首だ。いつも着けていた黒い拘束具は外れていて、健康的な五体を阻害する物は何一つ無い。

 ……もう、ケルベロスじゃ……番犬じゃ、なくなったんだよな……。

 地上に戻って来る前に謁見したハデスの言葉を思い出し、同時に認識する。生まれ育った地を追われる原因を作ったのが俺であることを。

 後ろめたい気持ちになりかけた瞬間、視線に気づいた番犬がこちらを向いた。傾げられた小首に宿る空色の双眸は好奇が宿っている。気まずくなった俺は、目を合わせていられなくなり、咄嗟に視線を前に戻して目的地を見やった。


 人力で瓦礫をどかし、地面を整える職人業を目にしたり、こびり付いた血糊を落とすのに何度も水場を行き来する光景を目にしたり、こっちに梯子、あっちに梯子と言い合いみたいな声を耳にしながら街を通り抜け、魔法学校の校門前までやって来る。

 綺麗に剪定された植木はどこにも無い。広場は元からそうであったかのように全体が陥没し、砕かれた地面は風が起きる度に砂埃を吐き出した。枢要棟の右半分と三学年の校舎は以前の形を思い出せない程に崩され、焦げていた。枢要棟の左半分と一学年の校舎はまだ原型を留めている……と言って良いのか分からないが、先に見た右半分と比べれば損傷は少ない。けれど、どこも巨人の指に突かれたように乱暴な穴が開いており、穴の奥では人ひとりを簡単に圧し潰せる大きさの瓦礫がいくつも見えた。枢要棟の後ろだとか二学年の校舎の様子は校門からでは見えないが、寮は男女共に健在だった。

 俺が魔法学校に来たのは幾つか確認したい事があったからだ。


「さあ! 今日も一日、新しい学園生活に向けて汗を流そう!」


 比較的被害の少ない男子寮の前では生徒たちと、教員……ではなさそうな力自慢の大人たちが集まっており、群衆に向かって配置された演説台の上に立った少年が高らかに声を張っていた。少年はやけにやる気に満ちて「おー!」と拳を突き上げていたが、生徒たちはいまいち乗り切れていない。学校が崩壊したというのにテンションを上げろと言われても無理な話ではある。


 演説台に登っていた少年——ヴォイドを目にした途端、俺の中で不快感が沸き立った。

 一昨日、昨日と、病室で療養している間にオーバーフロー以降の情報について集め、その中で目立っていたのがヴォイドの名前だ。魔獣を一掃した八色の雨、あれはヴォイドの魔法攻撃だったそうだが、これはそんなに驚かない。あんな規模の魔法を放てるの、奴ぐらいなものだろう。そして、フレアドラゴンを討伐したのもヴォイドということになっている。これもべつに手柄云々の話をする気は無い。俺の命懸けで行った狙撃が、フレアドラゴンの魔石を砕くには至らなかったというだけの話だ。

 魔獣に蹂躙される直前、圧倒的な魔法によって首都を救った救世主。それが今の首都でヴォイドに対する評価だ。

 改めて思うが、俺はべつに奴の功績を妬んでいるわけではない。むしろ「助かった」と礼を言いたい……オーバーフローの最後に八色の雨を降らせるまで、どこで何をしていたか、納得できる説明を聞いたのなら。

 流れ者の魔法使いが偶然居合わせて救いの手を差し伸べてくれたもなら手放しで感謝できるが、ヴォイドはそうじゃない。魔法学校の生徒だ。

 激闘の後で細かい所まで気にしている余裕が無いのか、それとも後ろ向きな情報を発信したくないのか、情報紙も冒険者ギルドもヴォイドを褒め称えるだけであった。


「二人はここで待っていてくれ」


 名演説が終わったのを見計らって連れの二人に言うが、返事は返ってこない。一瞬、番犬が「はい」と言いかけたようだったが、慌てて口を噤んだ。


「……一緒に、行く」


 隣りに並び立つプリムラの言葉に応じるて、番犬も一歩踏み出して俺の隣りにやって来る。


「あんまり、気分のいい話にならないかもしれないぞ」


 無駄だと思いながら口にした忠告は、予想通り無駄になった。

 大人たちと共に生徒たちが解散し、その流れに逆らって歩いて行くと、ヴォイドと校章持ちライザクレストの連中がこちらの存在に気付いた。


「お! もしかして手伝いに来てくれたのかい?」


 ヴォイドの問い掛けが、さも他の選択肢があり得ないと言っているかのような、あまりにも無邪気なものだったので俺の何かが切れてしまいそうになったが……どうにか堪える。


「悪いが、医者に重労働は止められているんでな。……少し、話せるか?」


「いいけど、手短にね。見ての通り、僕らも忙しいんだ」


「俺だってお前と余計なお喋りはしたくない」という言葉を飲み込む。嫌味の一つ言う時間すら勿体ない。単刀直入に行こう。


「お前、オーバーフロー中どこにいた?」


 この問いにヴォイドはあからさまに視線を泳がせた。


「どこって……首都にいたよ。ほら、最初、グレイブワームが出て来て校舎が崩れたでしょ? それで生徒の救助活動をしていたのさ」


 首都と魔法学校全域に魔法の雨を降らせられる奴が救助活動をしていたのなら、死傷者はもっと少なくなっていただろうな。


「逃げ惑う生徒たちを放置してか?」


 負傷した者を救うために混乱の鎮静を後回しにしていては、いつまで経っても負傷者は減らない。もちろん、どんなに声を掛けても混乱が治まらない者もいると思うが、それにしてもオーバーフロー中、各々で動き回っている生徒たちの数が多すぎる印象は否めない。


「突然の事だったんだから、仕方ないじゃないか」


 突然、ね……。


「地下の……魔窟の見張りはどうしたんだ? 俺たちが戻って来た時は誰もいなかったようだけど」


 質問攻めにされるヴォイドを見かねてか、小さな背丈に自身たっぷりな表情を携えて介入してくる存在があった。


「学校長の命令で見張りは無しにしたんだ。ヴォイドがゲートで繋いだら、魔窟を通って行く必要なんてないからな!」


「へぇ、そのゲートってオーバーフロー前に繋げたのか?」


「あったり前だろ。ヴォイドがちゃんと確かめたっての!」と自慢気な答えが返って来たと同時に「パティ!」と彼女を窘める声が上がった。ナディアに名前を呼ばれてから数秒置いて、パティは自分が情報を与え過ぎたことに気付いて口元を押さえた。


「ヴォイド、また魔界に行ったのか?」


「え……あ、うん、まぁ……」


 動揺がそのまま言葉と視線となって現れる。こうなったら、あと少し突いて余裕を無くせば勝手に吐いてくれそうだな。


「それはいつだ?」


 ハデスの転移魔法でも一日は掛かる。ヴォイドの【ゲート】がハデス以上の魔法である可能性は考えられなくもないが、それはこの後のヴォイドの反応で分かることだ。


「……はぁ。十七日の日中だよ。お察しの通り、魔界から地上の移動に時間が掛かるから、戻って来たらもうオーバーフロー中だったよ」


 予想通り正直に答えてくれた。人間、余裕が無くなってくると、実際には相手が知らないことでも、自分が知っていると相手も知っているのだと錯覚してしまう。今回の場合だと【ゲート】の移動時間だ。【ゲート】を使えば瞬時に魔界と地上を行けるという体にすれば、魔界に向かった日などいくらでも調整できただろうに……。

 ヴォイドが余計な事をしてオーバーフローへの参戦が遅れたことは分かったが、だからといっていきなり怒る気はない。まだ確認することはある……のだが、俺が口を開いた瞬間にヴォイドが「っていうかさ」と続けた。


「だからなに? それを聞いてどうするの? 今から、救援に遅れて申し訳ありませんでした、って謝って回れって? 街全体が復興に向けて動き出している時に僕個人が過去にどうしていたかを調べるよりも、魔法学校や首都全体の今後の為に動くべき時じゃないのかい?」


 ほぉ……開き直るどころか早口で説教してきたぞ。


「……じゃあ、お前は自分の行動に後悔も反省もする気はないってことか?」


「はいはい」


 なにが「はいはい」だ。這い蹲らせてはいはい歩きで校内一周させてやろうか。というあんまり怖くない脅し文句はその辺に蹴っ飛ばしておこう。

 こいつ、普段は優等生ぶっているのに、自分の都合が悪くなると話を聞かなくなるタイプだな。しかも多分、それが人の対応として正しいと思っている。恐らく俺が立ち去った後「噛み付いてくる輩には無視が一番だよね」と校章持ちライザクレストの連中に誇らしげに語るだろう。……っと、勝手な妄想で苛立ちを増幅させるのは止めよう。


「質問を変えよう。タテキ……学校長が死んだと聞いたが、それは本当か?」


 自分への糾弾が意外にもあっさり終わったと思ったのか、ヴォイドは何食わぬ顔で「本当だよ」と答えてくれ、「地下の隠し部屋にいたけど、落ちて来た岩盤に潰されて死んだ」と理由まで添えてくれた。

 あんな奴でも事故死したとなると不運を同情したくなるが、そんな気持ちはヴォイドの「そうだよね、マイナ」という確認によって払拭された。


「たしか……。あたしも脱出するのに必死だったから……よく覚えてないや……」


 歯切れの悪さがなんか引っかかるけど、元からこんな感じの口調だったか……? うーん……でもタテキのことだし、死因は深く追求しなくてもいいか……。


「また別の質問だ」と言うと、ヴォイドは「まだあるの?」と言いたげな表情をしたが、無視して続ける。


「魔法学校……というか、お前たちはどうするつもりだ? この有り様じゃ学校再開なんてかなり先だろう。教員だって……募集しないとだし」


「何年掛かっても立て直して見せるさ。そして、タテキの洗脳によって奪われた学校生活を必ず取り戻してみせる! なに、今は魔法の使用が制限されているけど、マナの濃度が元に戻れば直ぐに建て直せるさ」


 ふーん。「今後の為に動くべき」と言うだけのことはあるな。さて、奴の機嫌も紛れたようだし、改めて聞くか。

 俺が「最後の質問だ」と言うと、ヴォイドは疲れたように肩を落としたが「どうぞ」と促した。


「ヴォイド、お前はタテキの洗脳に掛かっていたのか?」


「いや、多分掛かっていなかったと思うよ。言葉は荒々しかったけど、行動や目的には共感できていたから従っていただけで……。それに、洗脳を受けていた皆は記憶が曖昧になっている部分がある。僕ははっきり覚えているけどね」


 洗脳されてなくて良かった、責任の逃げ道が無くて良かった、と思う自分がどこかにいた。


「なるほど。じゃあ、オーバーフロー発生前に魔窟へ行ったのも、お前自身の判断だったという訳か」


 話しを戻され、ヴォイドはあからさまに嫌な顔をする。


「またその話? オーバーフローがいつ起きるかなんて、分かるわけないじゃないか」


「そうか? 予兆として通常よりもマナ濃度が濃くなっていた筈だが、お前ほどの魔法使いがそれに気づかなかったのか? だとしたら全能の席とやらは随分とがさつな魔法使いでもなれるんだな」


 安い挑発だったが、ヴォイドの自尊心を傷つけるには丁度良かったようで、奴は眉間に深い皺を作った。


「それぐらい分かるさ! 分かったからこそ、事前に食い止めようと……魔獣の根源を絶とうとして魔界に行ったんだ! 僕には全能なる魔法パーフェクトマジックパックという力があって、皆を守る責任があるんだから!」


 殊勝な心掛けだが、異変を感じたのならば、必要なのは攻め入ることではなく守りを固めることだ。自分の力を過信したのか知らないが、強気に出過ぎたな。


「ん~、多分、このまま話していてもお互いに気分は良くならないのだ。そろそろ言いたいことを言って終わりにした方がいいと思うのだ」


 まだ校章持ちライザクレストがフレアドラゴンを放ってどこに行ったのかは聞いていないが……「撤退は許さん、死ぬまで戦え」と言う気はない。何をしていたか興味はあるが、逃げ隠れしていたとしてもべつにどうも思わない。

 本心を言えば罵倒も糾弾もしたいが、そんなことを言ってもヴォイドは聞いたフリをして適当に受け流すだけだろう。教員でも仙人でも賢者でもない俺に、こいつを教え諭す言葉は思い付かない。……俺は冒険者だからな。


「べつに、もう十分だ。聞きたいことは聞いた」


 誰にも気づかれないように拳を握り、咎めの言葉がないことに安堵したヴォイドの、どこにでもいる平凡な……三日もすれば忘れてしまう顔に渾身の力を籠めて叩き込んだ。

 アビリティによる補正も無く、怪我であちこち痛む俺の渾身など高が知れているが、そもそも死んでいった者たちの怒りや悲しみといったものを生者が表現することは不可能だ。だから生きている者は今出せる全力を出して怒り、悲しみ、笑い……死んだ者たちの分まで生きるしかない。……根拠は無い。今、感情的に思い付いた自論だ。


「いっ……」


 殴り飛ばされ、演説台に寄りかかったヴォイドへ校章持ちライザクレストの連中……女性陣が駆け寄る。その光景に別の苛立ちが起きたような気がしないでもないが、俺も両サイドに女を連れているから引き分けにしておいてやる。……やっぱり二人には校門で待っていてもらえればよかったか。


「………………行くぞ」


 俺を睨み付けて来るヴォイドへ何かを言う気にはなれなかった。反抗心剥き出しの所に何かを言ったところで聞き入れてもらえる訳はないし、反抗心を逆撫でして余計な面倒を引き起こされたら堪ったもんじゃない。見た感じ校章持ちライザクレストの連中はヴォイドを見捨てている訳じゃないし、後は勝手に立ち直って適当にやって行くだろう。

 それに、俺がヴォイドに怒るのは、詰まるところ俺自身の無力に対する八つ当たりのようなものだ。俺に力があれば、なんてのは思い上がりも甚だしい。ヴォイドに対して「お前がもっと早く来てくれれば」と言うのは他力本願が過ぎる。



 暴力を振るったのがマズかったのか、番犬もプリムラも眉尻を落としていたが、気にせず校門を目指し、そこでとある二人に出会う。


「やっほ、レイホ……あ、今のいい感じ! これからレイホに挨拶する時はこれでいこう! セレストも使っていいよ! 他ならぬ友だからね!」


 まだ折れた部位が治っていないというのに元気一杯なリゲルを見て、ついさっきまで立っていた気がどこかに流されて行った。


「煩い、使わない、黙って」


 表情だけでなくリゲルに向けた手を払い、心底鬱陶しそうにしているセレストもいつも通りで安心した。……カミラの姿が無いのは……少し残念だった。


「……あんた、やる気になればそれなりにやれるのね」


 そっぽを向いたままだが……これは褒められたのか? 珍しいけど、やれるって何のことだ? と思った矢先、幾度となく向けられた冷ややかな視線が対面して来た。


「あたしの特訓では手を抜いてたってことね?」


「いや、そんなことは……」


 さっき人を殴った奴の態度とは思えない程に委縮してしまうが、セレストはそれを楽しむでも、馬鹿にするでもなく、興味無さげに校舎の方を見やった。


「魔法が使えないからって魔力操作を怠けるんじゃないわよ」


「ああ。教わった通り、続けるよ」


 セレストなりの励ましは少し……いや、かなり意外だったが、何故か素直に受け入れることができた。


「……二人はこれからどうするんだ?」


 問いに二人は「魔法学校を立て直す」と答えた。魔法使いの名家というのも色々と大変なようだが、どうか頑張ってほしい。「頑張れ」なんて口にしたらセレストは罵倒を、リゲルは鬱陶しい友トークを始めるだろうが……。


「……頑張れよ」


 言葉は俺の意思に反して口から滑り出た。


「……あんたに言われるまでもないわ」

「ああ、もちろんだとも!」


 二人の反応は俺の想像を裏切り、あっさりとしたもので……なんだかとても……妙な気持ちになったが、悪くない気分だった。


「レイホはどうするんだい?」


「俺か? 俺は……落ち着いたらクロッスに戻るよ。向こうに……一応、冒険者パーティがあるからな」


「そうかい。それじゃあ、落ち着かせなければずっとこっちに居るんだね!?」


「あんたが言うと冗談に聞こえないわよ」


「そうだろう、そうだろう! なにせボクは自由奔放たる風の化身だからね! 落ち着いてなんていられないさ! ハーッハッハ!」


 すっかり聞き慣れた、けれど久しぶりに聞く高笑い。それを聞きつけたのか、俺たちを囲うように風が巻いた。


「それじゃあ、友の活躍を祈って」


 差し出された手を、俺は少し躊躇してから「ああ」と応えた。横目でセレストの方を見ると、しっかりと腕を組んだまま鼻を鳴らされ、「あたしはしないわよ。握手なんて」と言われてしまった。冷たいが、普段と変わらないというのは悪い事じゃない。きっと魔法学校の再興についてもストイックに取り組むことだろう。

 それから、俺と握手を終えたリゲルはいつもの態度で番犬とプリムラとも友達になり、けれどダラダラと話し込むでもなく、市街に戻る俺たちを見送ってくれた。


 プリムラを助けに来た魔法学校で過ごした日々は二か月程度と短いながらも、とんだ四人組カルテットを組まされたお陰で一瞬たりとも気を抜けなかった。加えて魔界に行ったりオーバーフローに遭ったりと、随分と過酷な日々で、荷物も武器も全て失ってしまったが、その代わりに掛け替えのない何かを手に入れた………………気がする。



 これにて三章【学び舎の異世界生活】完結です。

 ここまで読んでくださった皆様に最上の感謝を。


 さて、恒例の語りたがりタイムです。

 またしても想定より長々と続いてしまった章となりましたが、長さ以上に話のごちゃごちゃ具合というか、散らかり具合が目立ったと感じます。物語の(主人公が目指す)終着点を定めていないのに、あれこれと要素を突っ込んだ結果ですね……。


 終着点を定めていないが故に、実は三章を書き始める前(書き始めた辺り?)では次の四章をレイホ編の最終章にして、世界観を引き継いだ別視点で続きを書くつもりでした。ただ、終わらせるにしてもハッピーかバッドか、それとも読み手の捉え方に任せる感じにするか悩みました。

 悩んだ結果は、もう少し続けよう、です。もう少しというか、ちゃんとアレコレ片付けようというか……。


 そんなわけで三章の最後は当初の予定より展開がだいぶ変わりました。当初は校章持ちライザクレストの半数がお亡くなりになったり、クロッス側でも何名かお亡くなりになったり……。迷走していた時は、クロッスを白紙化させてしまえ、なんて案も出てきましたね。

 展開には関係ありませんが、魔法を「魔の法」として掘り下げて魔法学校をピックアップするのも面白いかな、と思いました。ただの、よくある学園ファンタジーものですが……。


 ともあれ、無計画な書き手によって変えられた未来で、キャラクター達がどう活躍して行くのか……。


 これからも皆様のお時間が許す限り、お付き合いいただければ幸いです。

【次回投稿予定は6月9日0時です。】

 長くなりましたが、これにて後書きを以上といたします。

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