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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第一章【始まる異世界生活】
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第十八話:初めて見るスキルと魔法

 土手を上ると、木の枝や草葉を組み合わせてできた、かまくら状の物体が視界に入った。子供が作った秘密基地のような見た目だが、れっきとしたゴブリンの巣だ。出入り口は川の方を向いていて、側面に位置している俺達からは中の様子が確認できない。ジェイクはどうやって中の様子を確認したのだろうか。

 これから襲撃をかけることになるのだが、俺が想像していたよりも環境は悪い。ゴブリンの巣の周りには背の高い草が囲むように生えているので、近付こうものならどうしても音を立ててしまう。草の外側は細い木が乱立していて行動の妨げになることが予想される。細かい木の外側は比較的平地になって見えるが、それでも草花が自由に生えている。


「どうしようか、石でも投げて外に出て来てもらう?」


 誰にともなくマックスが尋ねた。


「いや、一体寝てるんで、わざわざ起こしたくはないかな」


「向こうはこっちに気付いてないし、もう突っ込んでいいんじゃない?片方が出て来るにしろ、寝てるのを起こそうとするにしてもこっちが先手打てるんだし」


 デリアが小斧ハチェットで自分の肩を叩きながら言う。二本装備しているが、今手に持っているのは右手の一本だけだ。


「それならそれでいきますか。オレが隠密使って奥の方回り込むんで、合図出したらデリアさんかマックスが手前から近付いてって、気付かれたらノリでやっちゃう感じで」


 中途半端な作戦だけど、この分なら俺は手を出さなくて済みそうだな。

 【隠密】ってスキルの名前かな。効果はよく知らないけど、名前からして偵察者スカウトには必須スキルなんだろうな。これから偵察者スカウトで食って行くわけじゃないから覚えるかわからないけど。


「言いだしっぺだし、うちが行くよ。マックスは二人と一緒に周囲を見てて」


「はい。了解」


 マックスは指示された通り、周囲の警戒兼、俺とアンジェラの護衛に就いた。背嚢を下ろし、丸盾ラウンドシールドに取り付けていた短槍ショートスピアを右手で持った。

 ジェイクは隠密を使うとは言っていたが、特に何かを発動させる仕草はせずに、細かい木々を抜け、草むらを進んで行く。通常なら物音に気付いてゴブリンが顔を出しそうなものだが、巣の方に動きはない。

 あっという間に巣の奥の方に回り込んだジェイクは長身を生かして手を上げる。

 合図を受け、デリアがどう動くのかと思えば、大胆にも真っ直ぐ巣に向かって歩いて行くではないか。木々は流石に避けたが、草むらに入った途端にガサガサと音が出る。


「ギャ!?」


 一体のゴブリンが首から上を巣から出して周囲を見渡す。当然、デリアは直ぐに見つかるが、慌てる様子はない。むしろ慌てているのはゴブリンの方だった。首を引っ込め、寝ている味方を起こそうとしたのだろうが、逆に巣から追い出されてしまった。


「グギャ!? ギャ!?」


 何が起きたと言わんばかりに首をぶんぶんと振って辺りを見渡す。ゴブリンはデリアに注意を取られて、ジェイクの接近に気付かなかったのだ。背後からとはいえ、ジェイクも草むらを掻き分けての接近だ。どんな間抜けでも蹴り飛ばされるまで、いや、蹴り飛ばされた今でもゴブリンはジェイクの存在に気付けていない。

 【隠密】強くないか? 視覚的には何の変化もなくジェイクの姿は見えているから姿を消す効果じゃなくて、気配や物音を消しているのだろう。


 自分の身に何が起きたか理解していないゴブリンであったが、脅威が迫っていることに変わりはないので、直ぐに立ち上がって棍棒を構えた。直後、鈍い衝突音が鳴る。デリアの小斧とゴブリンの棍棒がかち合ったのだ。


「むっ!」


 力勝負には移らず、小斧を引いて素早く二撃目を振るう。再度棍棒とかち合ったが、ゴブリンは完全には受け切れずに体勢を崩した。いや、違う。小斧を受けつつ棍棒を捨て、反転。巣の方に走り出した。巣の中にはジェイクが入っていて、寝ているゴブリンを始末している筈だ。鉢合わせになって取っ組み合いになっても、デリアが直ぐに加勢に入れるだろうが、ジェイクが危険なことに代わりはない。


「デリア、しゃがんで!」


 俺の隣りで声が張られ、デリアは草むらに隠れるようにしゃがんだ。次の瞬間、アンジェラの構えた弓銃クロスボウの先で円形の的のような物が現れ、矢が射出された。矢はゴブリンの後頭部目掛けて真っ直ぐ飛び、標的を貫いた。

 今のは弓銃の性能じゃないよな。スキルか? ジェイクの隠密の時もそうだったが、スキルは特に名前を口にしなくても発動できるのか。便利だけど、スキル名を叫んで敵を倒すといった、カッコイイことができないではないか。できないことはないけど言葉を発する分、体力を余計に消費するし、なにより周囲から「なにやってんだアイツ」的な目で見られることは必至だ。


「ギャ!」


「ぎゃ! びっくりした」


 寝ていたゴブリンを始末したジェイクは巣から出ると同時に、目の前に矢が刺さったゴブリンが倒れて来たので驚きの声を上げた。

 想定とは違っていたが、無事にゴブリン二体を討伐できた。そう思って気を抜いたオレの背後で、激しい金属音が鳴った。驚愕して振り向いたのは俺だけでなく、アンジェラもだった。そこでは刃こぼれした剣を振るうゴブリンと、丸盾で剣を防ぐマックスの姿があった。丸盾は木製だが、外側は金属で補強されているので、今の金属音は補強部分と刃が衝突した音だろう。


「やぁっ!」


 丸盾で剣を押し返して短槍を突き出すが、ゴブリンもそれを予想していたのか、押し返された勢いを無理に踏ん張らず、不恰好だが後退して短槍の追撃を躱した。


「グギャァ!」


 大きく踏み込み、剣を横薙ぎにしてくる。マックスは低い姿勢で丸盾を斜めに構え、剣を受けると同時に上に跳ね返した。


「ギャギャッ!」


 完璧なタイミングで弾かれ、ゴブリンは万歳をする形となる。隙だらけの体の中央に短槍が突き刺さるかと思われたが、ゴブリンも必死だ。上体を逸らし、どうにか体に穴が開けられる事態は回避する。くすんだ赤い血を流しながら身を翻して逃走を試みる。


「目標の三体目、逃がす訳にはいかない」


 そう言うものの、マックスは追おうとはせずに、短槍をゴブリンの背に向けるだけだ。アンジェラの弓銃に任せるのかと思ったが、弓銃は構えられていない。しかし、理由は直ぐに分かった。


「マナよ、我が下に集いて走れ。バレット!」


 マックスの右腕と短槍に紫電が走ったかと思うと、紫色をして拳大の弾丸が発射され、ゴブリンに命中した。

 今のが魔法か。詠唱は意外と短めだが、弾丸を発射するだけの……言ってしまえば地味な魔法だな。


「グギャァ!」


 ゴブリンの体は紫電を帯びると、痙攣させながら地面に倒れる。マックスはゴブリンに駆け寄って行き、一思いに短槍を突き刺して体内から魔石を取り出した。

 威力は低いけど、麻痺させる効果は結構強そうだ。戦いでかなり有利を取れるから、俺も雷の適性あったらいいな。


「依頼達成!」


「お疲れー! ゴブリン二体じゃなくて三体だったね、びっくりしたぁ」


「ごめん。お出かけ中の奴がいるかまでは見抜けないな」


「ううん! 謝ることじゃないよ。ジェイクは偵察者スカウトじゃないんだから」


「まぁ、他に居ても森ゴブなら皆がなんとかすると思って、そこまで注意してなかった感はあるけどね」


「えー、それ聞くと、もっとちゃんとしてって言いたくなるー!」


 戦闘が終了したことでアンジェラとジェイクが和気藹々と話している。森ゴブとはそのまま、森に巣を作って生息しているゴブリンのことで、魔窟や洞窟に巣を作っているゴブリンは穴ゴブと呼ばれている。森ゴブは所謂、穴ゴブからあぶれた存在であるので装備は貧弱だし連携力も低い。


「アンジェラ、さっきはごめん。逃げると思わなかった」


「デリア、大丈夫だよ!あたし手が空いててずっと狙ってたから。それに、もし逃げられてもジェイクがちょちょいって倒してたよ」


「いや、オレはゴブ倒れて来てマジでビビってたけど!」


「えー、それでも森ゴブ程度ならいけるでしょ」


 このパーティでは想定外のことがあっても、結果が良ければ笑い話になる。一々完璧を目指して小言を言い合うよりは良いか。


「魔石はレイホさんに渡しておけばいいですか?」


 魔石を回収して戻ってきたマックスが透明な小石を差し出してきた。ゴブリンの魔石、これをギルドに提出すれば討伐の証と見なされる。


「そうだ! 依頼を受けたのはレイホさんだから、どうぞ、受け取ってください」


「ああ……ありがとうございます」


 マックスとジェイクから魔石を受け取る。同じパーティなのだから、誰が持っていても同じだとは思うが、拒否する必要もないので受け取ってズボンのポケットに入れる。


「小物入れを買っておいた方がいいかもですね。落としたら勿体ないです」


「そうですね。今度見てみます」


 アンジェラの言う通り、小物を入れられるポーチでも買っておいた方がいいな。薬草入れの籠は入れるのは楽だが、細長いので取り出すのは少し面倒だ。薬やコンパスも今はズボンのポケットに入れている状態で、金銭的には安定している状態だし、探索に必要な装備は少しずつ揃えていった方が後々の為にもなるだろう。


 こうして、俺の鉄等級初の討伐依頼は何もせずに終了した。


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