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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第三章【学び舎の異世界生活】
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第百七十二話:パーティメンバーたち

 無月 十八日 クロッス

 レイホが首都に旅立ってから約二か月。ペンタイリスの功績は上々と言って差し支えないものだった。特に霹靂かみときの月は、魔物の討伐数の多さからギルド内の月末表彰にも名前が上がった。更に氷結の月にはアクト、エイレスは銅等級星二から星三に昇級し、コデマリも銅等級星一から星二に昇級した。

 パーティの外見がダークエルフと子供三人ということもあって良くも悪くも目立ち、特にダークエルフを好まないパーティやユニオンからは在らぬことを囁かれたり、アクトを引き抜こうとする動きもあったりした。しかし、そういった手合いとは明確に関わりを断って来たので、今日まで変わりなく過ごすことが出来た。


「……なんか、最近竜車が多いね」


 朝、シオンとコデマリと共に冒険者ギルドに向かう途中でアクトが独り言つ。


「武闘大会で首都に行くんでしょ。町から有力な冒険者が減るから、魔物退治の依頼はどんどん受けていくわよ」


「首都かぁ……レイホ、どうしてるかな?」


「心配性ね。シオン、それ一日一回は言ってない?」


「え? そ、そう?」


「そうよ。あいつなら何だかんだ適当にやってるから心配いらないわよ」


「うん……でも、ちゃんと帰ってくるかなぁ。向こうの居心地が良くてそのまま、なんてこと……」


 シオンの言葉尻がすぼんで行くのを、アクトが「大丈夫だよ」と引き取った。


「帰って来るって約束したの、シオンとでしょ。だったら絶対帰って来るよ」


「うん……うん! そうだね。それじゃ、今日も張り切って魔物退治に行こー!」


 不安を払拭した一行が冒険者ギルドに着くと、先に到着していたエイレスの活力満点な挨拶に出迎えられる。


「おはようございまッス! さぁ、今日も一日、東へ西へ魔物在る所にペンタイリス在りと謳いに行くッスよ!」


 もし飲食店や商店であれば迷惑になり得る大声であったが、ここは血気盛んな冒険者が集うギルド。罵声でなければ誰も気に留めやしない。


「なんかこん中も賑やかだね」


 アクトが周囲を見渡すと、比較的若手の冒険者が多く、どのパーティも溌剌とした様子で今日の目標や作戦を語っている。


「アタシらと同じく闘大会とは無縁の冒険者が、普段より背伸びしようとしてんでしょ」


「それって大丈夫なのかな? 無理して怪我しちゃわない?」


「心配や采配をするのはギルドの職員の仕事よ。それより、アタシらも行くわよ」


「はい、先生! 既に目ぼしい依頼は見つけております! 主に西の魔窟の討伐依頼になりやすが、東の魔窟に出現したスケルトンの掃討という掘り出し物もありやすぜ!」


 背の低いコデマリに合うよう腰を下げて揉み手をするエイレスに、含み笑いが返される。


「折角調査してくれたけど、残念ながらどれも興味無いわ」


「な、なんですと!? するってぇと、先生、まさかアレですか?」


「そう、アレよ」


「つ、ついにアレか……くぅぅぅぅっ、燃えてきたッスよ!! 不肖エイレス・クォールビット、一意専心の思いで敵の攻撃を防がせていただきまッス!」


「そう。ならエイレスに説明を頼もうかしら」


「えっ!? い……いやいや、わたくし如きが先生の案を口にするなどおこがましいにも程があるッス!」


 必要以上に動揺する様子を見て、コデマリはクスリと笑ってから「分かりやすいんだから、誤魔化そうとしたって無駄よ」と言って、エイレスの腹を防具の上から突いた。


「うぅっ……なんたる失態」


 痛くもない腹を押さえて大袈裟に蹲る姿を一瞥してからコデマリは咳払いを一つした。


「他の冒険者に触発された訳じゃなくて、アタシたちはそろそろ一つ上の段階に進んでもいいと思うわ。これまでは西の魔窟を中心に動いてきたけど、今回は南の魔窟に挑戦するわ。異論は?」


「ないよ」


 アクトからすれば、普段は不毛な言い争いを繰り広げる相手の提案であるが、賛同すべき時は一瞬だ。


「目標とする魔物にもよるけど、あたいは少し心配かな。ギルド側は銀等級冒険者が一人以上同行するよう推奨しているし」


「ふふん、銀等級なら居るじゃない」


「え?」


 シオンが自分含めて各々の等級証を見るが、皆等しく銅色である。助っ人の存在も考えてみたが、思い付く相手が居らず、疑問符を浮かべているとコデマリの指が向けられた。


「あたい? まだ銅星五だけど?」


「シオンだけじゃないわ。アクトも、能力値的には銀等級並でしょ。それにエイレスだって、体力と精神力なら銀等級にだって負けないわ。前々から、エイレスの装備を新調して問題なさそうだったら南の魔窟に行く予定だったのよ」


 無月に替わって直ぐ、エイレスの防具は革主体の防具から新調されている。板金の胴当と腰当にオープンフェイスの鉄兜、これまでより一回り大きくなり、鋼鉄製になった盾。盾役にしては機動力のある戦闘スタイルを好む本人の希望と筋力の能力値から、腕や脚などは変わらず金属で補強された革製だが、革の部分はハードレザーという上質な革に変わっている。

 大幅な装備の変更があったにも関わらず、半月もせずに体に馴染ませることが出来たのは、器用の能力値が高い数値に達している事と、依頼から帰って来た後も鎧を着たまま日課の走り込みを続けたからなのだが、ここでその話を広げる者は居ない。


「おれたちの能力値が上がってるのは知ってるけど、コデマリは? 上がってないんでしょ?」


「気にしてることをよくも遠慮なく言ってくれるわね。まぁ、隠してることでもないからいいけど……あたしはこれまで通り指示と援護に徹するわ。あんたたち三人がきちんと機能してくれれば、大軍相手でもない限りそう簡単にはやられないでしょ」


「先生のことはオレがしっかり守りますんで、隊長と姉さんはズバッと、ドカンッとやっちゃってください! ええ、やっちまってください!」


「すごい大雑把だけど、基本はそれでいいわよ。シオン、まだ不安? なんなら他のパーティと合同でもいいわよ」


 改めて問われたシオンは三人とそれぞれ視線を交わす。正直に言ってしまえば不安であるが、彼女自身、いかに戦力を充実させようと死の可能性が僅かでも残っていれば不安が解消されることはないと理解していた。それは三人の力を見くびっているわけではなく、ダークエルフである自分を受け入れて他と変わらず接してくれる大切な仲間を失いたくないという一心によるものだ。けれど仲間に対する想いが生むのは、失う不安だけではない。大切な仲間だからこそ、何ものも及ばぬ絶対的な信頼を寄せる事ができる。


「ううん、大丈夫。ごめんね、時間取らせちゃって。ささっと依頼を受けて冒険に出よ!」


「ウッス! 姉さん、付いて行きます!」


 コデマリは依頼掲示板に向かって駆けて行く二人を見送りながら「やれやれ」と息を吐いた。


「シオンの等級、銀に上げたいな」


 喧しく依頼選びをしている二人を眺めながらアクトが呟く。等級に、しかも他人のものに興味を示したことが意外で、コデマリは半ば反射的に「なんでよ?」と聞いていた。


「シオンだけ等級上がってないし、色が変わってればレイホが帰って来たとき驚くだろうから」


「ふ~ん。可愛いところあるじゃない」


「……ドチビだって、シオンの昇級を狙って南の魔窟に行こうと考えたんでしょ?」


「ドチビって言うな。けど、アタシの狙いに気付いてたんなら聞き逃してあげる」


「おれたちはもっと上に行く。おれたちを拾ってくれたレイホの為にも」


「律儀ねぇ。ま、アタシの目的を果たす為にも必要なことだし、全面的に協力してあげるわよ」


 二人で話していると、依頼選定組が一枚の依頼書を持って帰って来る。依頼書にはオーガ十体の討伐と書いてあり、コデマリは「これじゃ西の魔窟の時と変わんないじゃない」と呆れたが、「初めて行く魔窟なのだし、倒し慣れた相手ぐらいが丁度いいかもしれない」と妥協することにした。


「決まった? ならさっさと行くよ」


「あんたねぇ……討伐対象の確認ぐらいしなさいよ」


「出て来たのを全部倒せばいいんでしょ?」


「よっ! 隊長、いつもながら頼もしいっすね!」


 いつもと変わらぬやりとりをしながら、少しずつ前に進んで行くペンタイリスのメンバーたちであった。


 クロッスを囲む四方の魔窟全てから過剰なマナの放出が始まるのは、この翌日のことだった。


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