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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第三章【学び舎の異世界生活】
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第百四十二話:訪れる未来は明日か

 日中は授業を受け、放課後になれば魔力操作の特訓。魔力と知力が上昇するのは良いが、鋭く睨みを効かせられているのでプリムラや学校のことを調べる暇が無い。

 週に一回の休みも、朝からセレストに訓練場へ引っ張り出されて特訓漬けにされた。セレストは一時間くらい様子を見てから特訓方法を指示して帰ったので、休憩がてら枢要棟にある四学年の教室を訪れてみたが、プリムラの姿は見当たらなかった。休日にも関わらず生徒数が多かったのは、他の学年とは少し立場が違うからだろう。


 もしかしたら校章持ちライザクレスト専用の教室があって、そこにいるのではないかと歩き回っていると……嫌な奴と出会った。


「貴様、こんなところで何をしている?」


 学校長……タテキ・クリノって言ったか。現代の人間がどうやって魔法学校の長になれたのか気になるところではあるが、どうせ妙なスキルかアビリティのお陰だろう。その能力がどんなもかは知らないし、興味もないが……プリムラの性格が変わった理由や、魔法学校にいる理由に関係しているなら別だ。


「何をしているかと聞いているんだ!」


 遠慮なく前に出ている腹で圧を掛けるように凄んで来る。

 そうだった。直ぐに答えてやらないと苛立つんだったな。……どいつもこいつも頭に血が上りやすいな。


「学校探索ですよ」


「探索ぅ? 無駄なことばっかしおって、馬鹿が! 明日、校章持ちライザクレストが全員揃う。放課後になったら直ちに校長室へ来い。いいな!」


 明日の放課後、魔界に侵攻しようってのか? もし運悪く魔界に着いてしまったら……戦いが起きてしまう。早すぎる。たった一週間じゃ、セレストの特訓があろうがなかろうが未来を変えるだけの行動なんて起こせない。


「おい!」


 返事できずにいると力の限り胸倉を掴まれた。


「返事するのにどれだけ時間が掛かるんだ、この愚図め! 貴様に拒否権など与えん!」


 タテキは俺を地面に投げ飛ばすと、大股で立ち去って行った。

 いてぇな。拒否権がないなら返事を待つ必要もないだろ……。お前のでかい声が聞こえないとでも思ってんのか。


「あらら……大丈夫? 後輩くん」


 頭の中で悪態を吐きながら立ち上がろうとすると、女性の声と共に手を差し伸べられた。

 誰だ? ラインの色は黒だから四学年なのだろうが……知り合いを作った覚えはないな。

 竜胆色のクセ毛に丸眼鏡を掛けた先輩を一瞥だけして自力で立ち上がる。


「……大丈夫です」


「お! さっすが男の子、偉いのだ!」


 気安く頭を撫でられそうだったので後退して躱す。先輩の背は高くないので、やり過ごすことはそう難しくない。


「あら? 照れちゃう系?」


「……べつに」


 先輩が大袈裟によろけた時、セーラーカラーに金糸で校章が刺繍されているのが見えた。この人、校章持ちライザクレストなのか。ってことは明日も顔を合わせると……面倒だからさっさと立ち去ろうと思ったが、少し話してみるか。


校章持ちライザクレストの方だったんですね」


「そうなのだ! 何を隠そう、ウチは校章持ちライザクレスト、闇の席、ローナ・クリーズその人なのだ!」


 両手に腰を当ててふんぞり返るアピールは無視しよう。


「明日、魔界侵攻を試みるそうですね」


「んん? どうして君がそれを知っているのだ? ウチ、まだ口を滑らせた記憶は無いのだ」


 まだって……そのうち滑らせる予定だったのか? 


「一応、案内役のレイホ・シスイです」


「あー! 学校長が言ってたのは君なのだ!? だったら君、学校長に逆らったらいけないのだ」


 普段なら聞き入れて会話を終わらせるが、何か情報が得られるかもしれないし、少し話を広げてみるか。


「……従う理由がありません。学校長は、そんなに凄い人なんですか?」


「ふんふん、さては君、不良なのだ? 学校長は真の平和の為に魔物の殲滅を掲げ、その巧みな話術でお偉い方を説き伏せ、禁断魔法の使用すらも解禁させた凄い人なのだ!」


 まるで自分の事のように語るローナであったが、いくつか疑問がある。巧みな話術? あいつが? 肉体言語の間違いだろ。それに禁断魔法の解禁って、使用してはいけない理由があるから禁断にされてたんだろ? 解禁したらマズいんじゃないか?


「禁断魔法ってどういうものなんですか?」


 アクトはこの話を聞いて退学処分にされたらしいが……俺は魔界への案内役が割り当てられている間は大丈夫だろう。恐らく、魔界に行ったら禁断魔法を使う予定なんだろうし、事前知識を得ても文句は……言われるだろうが無視してやれ。


「知らないのだ」


 あれ? てっきり校章持ちライザクレストとか上位の生徒にだけ公開されていると思ったが、違うのか。


校章持ちライザクレスト以外で学校長が選んだ、ごく一部の生徒にしか知らされていないのだ。けど、すっごい魔法だっていうのは知ってるのだ! 禁断魔法があれば魔物だろうが魔獣だろうが一発なのだ!」


「明日の魔界探索には禁断魔法を習得している生徒も同行するんですか?」


「その予定なのだ」


「……不安じゃありませんか? 得体の知れない魔法を使う奴が仲間としているなんて」


「どうして不安になるのだ? だって学校長の人選なのだ。間違いないのだ」


 ……どうやったら、何があったらタテキのことをそこまで信用できるんだ? カリスマ性を持つアビリティでも持ってんのか? だとしたら何で俺には効かない? 転移者だからか?


「あ! しまったのだ! 校章持ちライザクレストの集会に行く途中だったのに、すっかり話し込んでしまったのだ! それじゃ後輩くん、また明日なのだ!」


 考え込んでいる俺を置いて、ローナは廊下を走り去って行った。

 初めて会う校章持ちライザクレストの連中に禁断魔法、明日もしタバサさんの見た未来が訪れるとしたら……どうしたらいいんだ。

 考えても答えは出ないが、廊下で立ち止まっている訳にもいかない。一先ず訓練場に戻って特訓をしながら頭を捻ることにした。




「遅いぞ、シスイ」


 訓練場に行くと、カミラが仁王立ちして待ち構えていた。


「どうしてここにいるんだ?」


 セレストからは何も聞いていないし、カミラも休日まで俺に付き合うとは言っていなかった。


「学校に用事があってな。偶然会ったセレストに今日も特訓をしていると聞いて、様子を見に来た」


「……用事はもういいのか?」


「ああ」


「折角の休みなんだから、帰って休んだらどうだ?」


「心配には及ばない。体調管理ぐらい自分でできる」


 自分の体調管理より俺の特訓管理の方を優先してくれるのは……ありがたいんだが、少し迷惑だ。

 明日のことを考えながら特訓をしようと思ったが、適度にダメ出しを食らうので氷の生成に集中せざるを得なかった。

 特訓中は特訓に集中しようと思ったが、休憩時間や昼食の時間もカミラが一緒に付いて来たので思考に耽る余裕が無かった。カミラがお喋りということではなく、所作が一々しっかりしているから気が抜けないのだ。

 休日で学食がやっていないので、商業棟の適当な店舗に入って昼飯を食べているのだが……初めて来る店ということもあって落ち着かない。


「……シスイ、何か悩み事か?」


 食べ終え、ナプキンで口元を吹き終えたカミラが唐突に訪ねて来た。

 悩み…………そうか、俺は悩んでたのか。現代じゃ悩みらしい悩みもなかったというか、大体のことに諦めが付いていたというか……本当に漠然と生きてたから気付かなかった。けど、カミラに話せる内容じゃないな。


「……べつに」


「そうか。シスイがそう言うのなら私の気の所為なのだろう。だが、今日は魔力の乱れが大きいぞ。疲れているなら休むといい。セレストには私から言っておくぞ」


 愛想は無いけど気遣いはしてくれるんだな。正直、そういう冷静な物言いの方が頼りやすいというか……言葉に甘えやすいというか何というか…………それでも甘えないけどな。


「大丈夫だ」


「そうか」


 聞き分けが良くて助かる。基本的に無言で誰かと居ても苦にならない性格だが、カミラは話している時の方が緊張しなくて済むな。


「……セレストには明日言うけど、学校長から呼び出しをくらったから明日の放課後は特訓できない」


「学校長から? どんな内容でだ?」


 訝しんだカミラは眉根を寄せる。

返事が返って来るだけかと思ったが、思ったより食いついてきたな。


「魔界とか魔窟について少し、な。これでも、ここに来る前は冒険者やってたから」


 正直に話して余計な情報を漏らした結果、カミラが退学とかになったら申し訳が立たない。嘘は言ってない程度に濁しておく。


「……気を付けるんだぞ」


「ん……ああ」


 今の話の流れで気を付ける必要があると思われたのか?


「さて、そろそろ特訓再開といくぞ」


「ああ、わかった」


 カミラに続いて立ち上がり、訓練場へと戻るのだった。



次回投稿予定は3月18日0時です。

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