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喰い潰された白紙の世界  作者: 一丸一
第三章【学び舎の異世界生活】
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第百二十九話:努力の足りない凡人

 冒険者本来の役割、魔窟での魔物討伐を再開して金を稼ぎ始めて四日。体力的にやや無理を感じるような戦闘数にも関わらず、誰も大きな怪我をする事なく順調な日々が過ぎていた。

 そして五日目、俺は一人修練場へと赴いた。昨日冒険から帰って来た際に、予約していた【インバリッド】の師範役が見つかったと連絡が有り、修練の予定を今日に設定したのだが……。


「お前、才能どころか努力が足んねぇよ。インバリッドより、レイドとか初歩的なスキルから覚えるんだな」


 師範役として現れた狼系の獣人の男は挨拶も無しに冒険者手帳を要求し、能力値を一瞥して投げ返して来た。

 才能が無いのは分かってるけど、足りない努力をこれからしていこうと思ったからこうして修練を頼んだんだけどな……。


「誰が受け付けたのか知らねぇけど、無理なもんは無理って言ってやらねぇと、誰の為にもなんねぇぜ」


 褐色の肌によって目立つ白い犬歯を見せながら修練場の職員に愚痴っている。多少は食い下がってみようかと思ったが、俺の言葉で意見を変える様子は無さそうだし、下手に物申して荒事になったら周りに迷惑を掛けるだけだから大人しく引き下がろう。


「すみませんでした。身の丈に合ったスキルから習得していきます」


 俺が謝ると、男はより苛立った表情を見せた。


「けっ! 物分かりのいい冒険者なんて気持ち悪ぃだけだ。男ならもっと根性見せてみろよ」


 拳で俺の胸を小突くと、男は修練場から出て行ってしまう。去り際、魔界帰りが云々かんぬんぼやいていたけど、不本意な呼び名なので聞かなかったことにしよう。

 身の丈に合ったスキルから、と言ったが、この空気の中で修練の予約を取れるほど精神が太くないので、職員の人たちにも謝罪して修練場を出ようとした。


「おぉん? レイホじゃぁねぇかぁ」


「ダル、さん」


 予想外の人物に遭遇した。後ろにはホップとチーホーもいるので銅星の希望ブロンズスター勢揃いだ。


「どっしたんだ、こっんなとっころで?」


「修練場にいんだがら修練しに来たんだべさ」


「その通りなんですけど、どうも未熟が過ぎたようで……断られてしまいました。って、それよりラビト村の件、ありがとうございました。なんでも村からクロッスまで運んでいただいたとか」


「気ぃにすぅんなぁ。そぉれより、ちょぉっと話そうぜぇ」


 そう言って、ダルは待合室の端にある長椅子を指差した。予定が無くなって、断る理由も無いので素直に従って長椅子に座る。


「なぁんのスキルを習得したいんだぁ?」


「インバリッドです。師範の人には、才能どころか努力が足りないって言われて断られましたけど」


「インバリッドかぁ。おめぇ、今スキルは何覚えてんだぁ?」


「いえ。今回が初めてです」


「なぁるほどなぁ」


 俺の応えにダルは片手で顎を摩り、眉間に少しだけ皺を寄せた。やっぱり、消費技力が多くて魔法無効化のスキルなんて、いきなり覚えるようなもんじゃないか。スキルには等級が無いから、自由に覚えられると思ったけど……そんなに甘くない。


「なっ、もっしかっして、師範しっはんとして来ったのってオレステか? 獣人じゅっじんで褐色の?」


「名前は聞いてませんけど、特徴は合ってます。加えるなら長身で狼系でした」


 なんで知っているんだ? 師範役が修練場を出たのと三人が入って来た時間を考えればすれ違っていもおかしくないが、赤の他人の名前なんて知っている筈がない。考えられる可能性としては、オレステという男が三人の知人か、もしくは名高い冒険者、といったところか。


「さっきすれ違ったんがオレステなんら、断りの物言いも納得だ」


「知り合いなんですか?」


「知っり合いってわっけじゃねっよ。オレステは、あの消えぬ落陽の夢想モーメント・トロイメライの古参で実力者じっつりょくしゃだから、こっの町じゃ有名なっんだ」


 消えぬ落陽の夢想モーメント・トロイメライ? どっかで聞いたような…………思い出せない。


「中途半端にぃ技術だぁけ教えられてぇ、金取られるよりぃ、先に断られて良かったかぁもなぁ。オレステの言ってることもぉ、あながちぃ間違いじゃぁねぇし」


「そうなんですか?」


「おぉ。おめぇ、スキルについてぇ、どぉこまで知ってるぅ?」


 どこまでって……。体内にある体力や精神力とは別の、活力とも言うべき力、技力を消費して肉体や武器を強化、時には仲間の能力値を向上させたり敵の能力値を低下させたりする技。慣れない内は技力の扱いが難しいから、修練場でスキル習得時に習うのが効率的。

 冒険者ギルドの二階にある資料室で読み漁った知識を伝えると、ダルたちは頷き、そして教えてくれた。

 スキルに等級は無いが、付与する効果が複雑であれば当然ながら技力の扱いは難しくなる。今回俺が覚えようとした【インバリッド】は部位や武器に付与することで魔法を無効化するという、スキルの中でも特殊な効果であり、習得には相応の修練が必要になる。技力の扱いも知らない俺ならば尚更なので、先ずは簡単なスキルを覚えて技力の扱いに慣れることから始めるべきである。加えて、スキルの効果は技巧依存であるものが殆どなので、技巧を上げる為にも消費技力の少ないスキルの習得そ優先すべきである。技巧が低いと効果を発揮できないスキルもあり、【インバリッド】はその辺の話が顕著なスキルらしい。

 そもそもの話となるが、技力の扱いとは、作業なり運動なり戦闘なりで誰もが感じた時がある“異様に集中できる”だとか“直感的に最善が分かる”といった類いのものを自発的に起こすことだ。


「まぁ、言葉で感覚を理解すんのはぁ難しいがぁ、行動で感覚を理解すんのはぁそう難しい事じゃぁねぇ」


「もっと簡単に言っえば、とっりあえずやってみろっだ!」


「おめ、なんか他に覚えたいスキルはねのが?」


「他に……少し、スキル表を見て来てもいいですか?」


 自分たちの用事もあるだろうに、三人は快諾してくれたので、感謝しながら受付に行ってスキル表を見せてもらう。

 他に覚えたいスキルで消費技力が少なく、単純な効果のものか……。移動系は使い勝手がいいけど、俺がうろちょろ動いてもな……覚えるなら後退する【ウィズドローアル】か。逃げるくらいならそもそも見つかり難くなる【隠密】とか【擬態】は……少し複雑そうだな。技力の扱いと技巧向上と割り切って【レイド】にしておくのが無難か? 精神力が関わるスキルがあれば、と思ったが、そんな都合のいい物は無いようだ。

 もう一度スキル表を流し見して気になるものがなければ【レイド】にしようと思ったところ、とあるスキルが目に留まる。

 【エイム】発動直後の攻撃の命中精度を技巧に応じて上昇させるスキル。消費技力は三。単純そうで消費技力もかなり低いし、これがあればスローイングダガーの命中率を上げられる。武器とスキルで遠距離攻撃が賄えるとなると、魔法を補助や妨害系に回る事も前向きに考えられる。……でも物理が効かない相手が出たらどうしようもないな。魔法属性を付与して補うか?

 ダルたちを待たせているし、深く考え込みすぎても悪いな。スキル表を受付に返して三人に【エイム】を習得したいと告げる。


「エイムかぁ。良いぃとこ選んだなぁ。ホップ、おめぇ使えたよな?」


「おっう!」


 返事しながら自身の胸を叩いたホップは、そのまま流れで【エイム】の発動方法に教えてくれた。

 意識を集中させるところは、分かりやすいところだと自身の目か武器の先端だが、好みや用途によって変えて問題ない。そして、集中すべき箇所と攻撃の狙いを定めた後は全力で神経を研ぎ澄ます。イメージは自分と的の間に一本の真っ直ぐな線で繋ぐような感じだが、力んだりイメージに囚われ過ぎたりするのはいけない。先も話した通り、技力は無意識だったり直感的に発動している力を意識的に発動するものなので、下手に意識すると発動が難しくなってしまう。慣れてしまえば感覚で発動できるようになるので、とりあえず回数を熟すことが大事で、可能ならば実戦で試すのが効果的である。


「まっ、こっんなとっころだ。あっとは努力してみなっ!」


「結局、感覚的な事しか言ってね気がすんのはオラだけか?」


「うっせ!」


 感覚的と言うが、実際そういうものなんだろう。恐らく、集中して相手の動きを見て狙いを定めていれば、いつの間にか覚えてしまえるような代物だ。俺がスローイングダガーを投擲する時は、大体が切羽詰まっているか、牽制だからと言い訳しておおよその狙いしか付けていない。【エイム】に限らず、単純なスキルは戦闘経験を積む事で自然と覚える可能性があるのだろうが、俺は何一つ覚えていない。オレステが言っていた「努力が足りない」とは、この辺りのことを差していたのだろう。


「あの、すみません。都合よく教えてもらってしまって」


 本来なら料金を支払い、時間を貰って教えてもらうことを、こんな待合室の隅で教えてくれたのだ。ラビト村の件と遭わせて何か礼をしなくてはならない。


「いいってこっとよ!」


「んだ。どうせ待ち合わせの時間まで暇だったしな」


「そうは言っても……」


「気ぃにすんなぁ! ラビト村じゃぁ、おめぇの活躍が無けりゃぁオレらも無事じゃぁ済まなかったんだぁ。これでぇ貸し借り無しだぁ」


 体格の良い男三人に押し込まれると、貧弱な俺はあっという間に引き下がってしまう。話の内容を知らない人からすれば、俺が脅されているように見えるだろうな。


「あれ? ダル、貸し借りなんていつから気にするようにしたんだ?」


「うっせぇ、今そこを気ぃにすんじゃぁねぇ!」


「はっはっは……!」


 いつもいつも気を遣わせてしまって申し訳ないな……。

 その後、依頼人が来て修練の時間になった為、三人とは挨拶もそこそこに別れることとなった。

 予想外の展開とはなったが、先ずは【エイム】の習得を目指して特訓だな。



参考までに。

現在のシオンの能力値。()内は前回(第九十七話)の測定値。


体力:388(354)

魔力:123(108)

技力:61(51)

筋力:43(40)

敏捷:59(54)

技巧:37(29)

器用:53(48)

知力:50(47)

精神力:96(88)


アビリティ

 属性耐性・雷、精神虚弱性・小、襲撃者の心得、大物食い、単独行動

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