07
人間が人間を食べていたなんて……まるで信じられないおとぎ話のようだ。
「信じられんか? じゃが、現に今でもこうして山奥で姿をくらます者が後を絶たない。儂らはその現象を山隠しと呼んでおる」
「でも、それと人間が人間を食べていたのはどう言った関係が?」
僕の問いかけに、老婆はふむと一呼吸置いて話し始めた。
「あくまでも推測なのじゃが、今でも人間を食ろうておる者がおる。山隠しは、食人鬼によって引き起こされておるのではないかとな」
食人鬼……人を食らう鬼か。にわかには信じ難い。
話が終わり、部屋を後にすると、別の部屋から出てきた水谷さんと鉢合わせた。
「あれ、水谷さん? どうしたの?」
「学校に行く準備……」
そうか、すっかり忘れていたがそろそろ学校に行かなければいけない時間だ。
「その部屋は?」
不意に気になりそう尋ねると
「……私の部屋」
と短く答えた。え? 僕達が寝た部屋が水谷さんの部屋じゃなかったの? もしかして、騙された……?
「昨夜の部屋は?」
「客間……」
やっぱり騙された!
「何で嘘ついたのさ!」
「…………てへ」
無表情、無感情で放たれたお茶目な一言。まさか水谷さんに、そんな一面があったとは意外だった。
深くため息をつき、頭を抱えながら僕と水谷さんは登校を開始する。
……………………
………………
…………
……
それから時が経ち、その日の昼休み。
購買でパンを買って食べていた時、永倉君が声をかけてきた。
「神野、今日は焼きそばパンか」
「うん、人気商品だけど偶然買えてね。永倉君は今日は何弁当なの?」
「俺か? カレー弁当だ」
弁当にカレーか。
「昨日作ったのが余ってな。どうだ、少し食べてみるか? 美味いぞ」
永倉君に勧められ、僕は一口ご馳走になる事にした。
「本当だ、美味しいね。お肉も柔らかいし……でも、何の肉なの? 不思議な食感だけど」
「ん、そうか? うちはいつもこの肉だがな。神野、何の肉だと思う?」
僕は味わいながら考えてみた。豚肉でもないし、牛肉でもない……
すると、低いトーンでボソリと永倉君が呟いた。
「それ、人間の肉なんだ」
え?
「うっ……!?」
それを聞いた途端、僕は今朝に聞いた老婆の話を思い出し、恐怖のあまり吐き出しそうになった。
「ははは、冗談だ。これは、ただの鶏肉だ。うちのは特別な仕込みをしているからな」
「じょ、冗談きついよ……」
安堵しつつも、しかし何かが引っかかるような気がしてならない。鶏肉? 違う……特別な仕込みというのは分からないが、鶏肉とも何か違う。