05
昔――――そのまた昔……この村がまだ村として成り立つ前の事。戦争で行き場を無くした者達が集い、この場所で暮らしていた。
しかし、山に囲まれ水も出ず田畑に恵まれずに作物が取れなかった。困窮していたそんなある時、神と名乗る一人の者が現れ、この土地を水で潤してやろうと言い出した。
藁にもすがる思いだった当時の者達は、その者に懇願した。すると、どこからともなく一本の川が流れ始め、大地が潤い作物が実るようになった。
そして神は言った。この地を潤し続ける代わりに、この川を汚さぬように守り続けてほしいと。
その守り人として、水谷家の御先祖に当たる人が任命され、神は流した川に眠りについた。
「こうして今も儂らがあの川を守り続けているわけじゃ」
「なるほど……しかし、それと僕に何の関係があるのですか?」
その問いかけに、老婆は閉じていた目を開き、真っ直ぐに僕を見つめた。
「何故かは知らんが、坊は流神様に好かれておるようでな」
「りゅうじんさま?」
「川に眠る神様の名じゃ」
「僕が……神様に?」
老婆はこくりと頷く。そして老婆は、とんでもない事を口走った。
「どうじゃ? 家の婿にならぬか?」
「え、えええええ!?」
あまりの事に、思わず奇声をあげてしまった。
「それってつまり、水谷さんの……司さんのお婿さんになれと?」
再び老婆はこくりと頷いた。
「それはいくら何でも早計過ぎでは? ほら、司さんの気持ちもありますし……」
助け舟を出すように水谷さんの方を向くと、変わらず無表情のまま。
「私は構わない……」
「ほら、司さんもこう言って……て、えええええ!?」
水谷さんの言葉にまた奇声をあげてしまう。一体、どうすればいいんだ僕は……。
「今すぐに答えを出せとは言わん。よく考えてみるといい」
「は、はぁ……」
思わずため息に似た声が漏れた。
「とりあえず今晩は泊まっていきなさい。犯人もまだ見つからんようじゃしな」
お言葉に甘えて、今晩は泊まる事にした。今日一日でいろいろな事があり過ぎた……もう寝たい。
部屋を後にし、先程の客間まで戻る最中に、珍しく水谷さんが口を開いた。
「お祖母様がよそ者にあれだけ言うのは珍しい……私の家に泊める事自体異例……」
「薫ちゃんも泊めた事ないの?」
「薫は来た事すらない……」
親友の薫ちゃんですら来た事がないのか。村人達が驚いていたのはそのせいか。
客間に着くと、布団が既に二組敷かれていた。
……え? 二組?
「これは?」
「布団……」
「見ればわかるよ! 何で二組敷かれているのか聞きたいんだけど」
「一緒に寝る……?」
僕に聞かれても……。
「水谷さんは自分の部屋があるだろうし、そこで寝たら?」
「ここ……」
水谷さんは客間を指さした。嘘……質素だから客間だと思ってたのに、ここが水谷さんの部屋だったなんて。