04
すると、僕と目があった老婆が目を丸くした後、ゆっくりと口を開いた。
「あんたか……そうか」
僕は何の事かさっぱり分からず首を傾げると、表情一つ変えずに言った。
「坊、今日は儂の家に来なさい」
「おい、あの村長が……」
老婆の言葉に、驚きを隠せない野次馬達。何がどうなっているのか分からないが、老婆に促され野次馬達は道を作り僕の前から退いた。
老婆と取り巻きについて行くと、しばらくして大きく立派な家屋と門の前で取り巻き達は二列に並び、門までの道を作った。
門が開き、老婆だけが中へと入っていく。僕も入っていいんだよね?
敷居を跨ぐと広い庭が続き、少し向こうで数人の人影が見えた。
「み、水谷さん!?」
そこには水谷さんがいた。そうか、ここは水谷さんの家だったのか。名家の子とは聞いていたけど、まさか村長の血縁だったとは……。
そして、すぐ隣に父と母と思しき人達も立っていた。
「おかえりなさいませ、お母様」
「おかえりなさいませ、義母様」
二人は口を揃えてお辞儀をする。
「客人だ、丁重にもてなしなさい」
老婆が言うと、二人はにこやかに僕を中へと促すように手を扉の方へと向けた。
中に入ると、客間と思われる部屋へと通される。そこで、二人は水谷さんのご両親だと自己紹介された。
「今日は大変でしたね」
水谷さんの母が、まるで見通したかのような口調で言った。
「その……」
僕が口を開きかけた時、遮るように水谷さんの父が述べた。
「犯人はまだ捕まっていない……でも安心していいよ。君のお母さんと妹さんは、信頼できる人の家に泊めてもらえるようお願いをしておいたから」
「そうですか」
水谷さんのご両親は穏やかな笑みを浮かべる。
すると、ゆっくりと襖が開かれた。そこには水谷さんの姿があった。
「お祖母様がお通ししろと……」
水谷さんはそれだけ言うと、僕の袖をクイッと引っ張り、奥の部屋へと連れて行く。
「……連れてきました」
「入りなさい」
水谷さんが短く言うと、襖の奥から声がかかった。僕と水谷さんが中に入ると、そこには正座をして一人佇む先程の老婆がいた。
「座りなさい」
促されるまま座ると、水谷さんは僕の斜め後ろに座った。
「はて……何から話したものか」
老婆はゆっくりと話し始めた。代々水谷家は村に流れるあの川の守り人をしてきた。そして、女系家族である事。生まれてくる子には必ず何かしら守り人の証のような物を持って産まれてくる事。
水谷さんの瞳が左右違ったり、母には背中に大きな昇り龍のような痣があると言う。
「儂にも腕に鱗のような痣がある」
そう言うと、着ていた着物から腕を出し、二の腕にある痣を見せた。
「しかし、何故そのような事を僕に?」
「そうじゃな……少し昔話をしよう」
そう言って老婆は目を閉じた。