03
僕の家庭は最悪だった。父による母への暴力、僕達に対する罵詈雑言。
それにより母は、精神的に滅入ってしまい入退院を繰り返す事になる。
母がいない間は、暴力が僕や妹へと飛び火し、いつも僕が妹を庇い殴られたり蹴られたりしていた。
僕が中学卒業を控えたある日、いつもは妹と帰宅をしていたのだが、卒業式の予行練習で少し遅れてしまい、妹は先に帰ってしまったのだが、妙な胸騒ぎがして急いで家に帰ると、妹の部屋からすすり泣く声が聞こえてきた。
僕が遅くなったばっかりに、きっとまた父に暴力を振られたのだろうと自責の念にかられながら妹の部屋を開けると、真っ暗な部屋で母がごめんねと何度も繰り返しながら寄り添うように妹を宥めていた。
妹をよく見ると、衣服を乱し下着を着けずに泣いていた。
僕はそこで察した……あの野郎はとうとう手を出しちゃいけない事にまで手を出してしまった。その瞬間、僕の中にあった切れてはいけない糸がぷつんと音を立てて切れた気がした。
気付けばキッチンにあった包丁を取り出し、父へと突き付け追い回していた。
騒ぎを聞きつけた母が僕を抑えつけ、その場は何とか収まったが、きっと母が来なかったら今頃僕は父を刺し殺し少年院送りになっていただろう。
その日のショックから、妹は不幸中の幸いか一部記憶を失ってしまい、男性恐怖症という傷だけが深く残ってしまった。
その事がきっかけで、耐えかねて母は離婚届を父に叩きつけ飛び出すように僕と妹を連れて母方の実家である流川村へと引っ越してきた。
それから今に至る。
………………
…………
……
目を覚ますと僕は川の畔に倒れていた。辺りを見渡すと、近くに祠があった。
今朝の場所だ。何故僕はこんな所で倒れていたのだろう。確か父に暴行され、気を失ったのは山道の近くの筈……ここからは少し離れている。
痛む身体にむち打ちながら起き上がり、自宅へと向かった。自宅の傍まで来ると、妙に騒がしい……野次馬が群がり、パトカーも数台あった。
まさかと思い、野次馬を掻き分けて入口まで行くと、中は酷く荒らされていた。野次馬は泥棒が入ったと噂をしているが、僕は違う考えが頭を過ぎり、入口近くに立っていた警察官に問いただした。
「母は……妹はどうなっていますか!?」
「君は?」
「僕はこの家の者です」
「そうか……幸いにも家の人は皆留守だったようでね。今は金品など盗まれた物がないか調査中なんだ」
その言葉を聞き、僕はホッと胸をなで下ろす。
「犯人は未だ逃走中で捕まっていない。今は村の人達も総出で探してくれている。きっとすぐに見つかるから安心しなさい」
「……はい」
僕は頭の中でその犯人像を思い浮かべる……間違いなくあいつだ。
「それにしても君、どうしたんだい? ボロボロじゃないか」
「あ、いえ……その、ちょっと帰宅中に転んでしまって」
きっと僕に会う前か後に家に侵入し、荒らして行ったに違いない。
「そ、村長だ……」
すると、野次馬の面々が口を揃えてそう言い出し、皆の向く方を見てみると、大勢の人々を連れ立った老婆が現れた。