02
教室に入ると、既に席に着いていたショートカットの女の子に声をかける。
「おはよう、水谷さん」
すると、水谷さんは左右違う色の目を僕に向け、読んでいた本を手放す事なく小さくコクリと頷く。
水谷 司さんは僕達のクラスの学級委員長で、寡黙な女の子。読書が好きらしく、休み時間やこうして空いた時間には本を読んでいる。
特徴的なのは、左目が綺麗な水色をしたオッドアイで、つい初対面の時に綺麗な目をしているねなんて言ってしまった程だ。
あとは、この村の名家の一人娘らしい。
「おっはよー司!」
「……おはよう」
薫ちゃんが水谷さんに元気よく挨拶すると、冷静に対処をする。この二人が親友だと言うのだから不思議だ。
どうも過去に何かあったらしいが、そこは薫ちゃんも水谷さんも頑なに教えてはくれない。
「おはよう神野、柊」
その時、僕と薫ちゃんに挨拶をしてきた男子生徒が来た――――永倉 剣一君だ。
「おはよう、永倉君」
「おっはー永倉!」
挨拶を返すと、永倉君は満足そうに細い目を更に細めて笑みを浮かべて立ち去って行った。
永倉君は剣道部のエースで、女子からとてもモテている。が、誰かとお付き合いしているなどの話は全く聞かない。誰か好きな人でもいるのだろうか?
他愛もない話をしていると、朝礼のチャイムが鳴り響いた。ぱらぱらと席に着き始める生徒達に合わせて、僕も薫ちゃんも自分の席へと着いた。
ガラガラと教室の扉が開けられ、数秒後に先生が現れた。
「なんだ……また誰も黒板消しを挟んでいないじゃないか。俺が学生の頃はよくしたもんだがな」
親指で扉の上を指しながらちょっと不機嫌そうに言うと、それ何度目ですかと言う男子生徒の一声で、教室中に笑いが起こる。
「おら、静かにしろー。出席取るぞー」
先生のその一言で、少しずつ静かになっていき、出席を取り始める。
「よし、じゃあ朝礼の挨拶。日直ー」
順調に朝礼が終わり――――時が過ぎ放課後。
「ボクと司は隣町の商店街で買い物してくるよ」
薫ちゃんがそう言い、水谷さんの手を引っ張って教室から出て行った。
「俺は今日も部活だ」
永倉君もそう言い残すと、荷物をまとめて教室を後にする。
僕は特に予定がないので、のんびりと帰宅する事にした。校舎を出て、山道を下ると見覚えのある人物と遭遇した。
「よう、望……」
苦笑を浮かべそう声をかけてきたのは、離婚した筈の父だった。
「な、なんで父さんがここに……!?」
驚きのあまり、僕は半歩仰け反る。
「なぁ、母さんは元気か?」
周りに人はおらず、父さんの声だけがただ響き渡る。
「母さんは……」
あんたのせいで……僕が言い切る前に父さんが口を挟んだ。
「いや、聞かなくても分かる。そうだ、父さんこれまでの事を反省したんだ……なぁ、良かったらまた皆でやり直さないか?」
僕は俯き黙っていた。
すると、足元に父さんの陰が迫った。その途端……右頬に鈍痛が走った。
「とでも言うと思ったか! 俺にしようとした事、忘れてねーぞこのクソガキが!」
父の怒号と共に腹部を殴られ、あまりの痛みに膝を付く。その後、殴る蹴るの暴行を加えられ僕の意識は遠のいていった。