階段
「ほれほれ。ボサッとしてんなよ。とりあえず中に入れ。」
手にあふれんばかりの菓子袋を乗せたまま、シグ…いや、シグさんが言う。というより、あの人前見えてるのか?
シグさんが出てきた扉から中に入ると、なんとも変わった造形だった。これは、家…なんだろう。にしても、なんとも長く狭い階段。
「狭いから気をつけてくれよ。」
気をつけるもなにも、果てしない。階段を見続けると、たまに足を踏み外すことがある。特に、登りよりも下り。いまいち理由は知らないが、目の錯覚かなんかだろう。何回足を踏み外せばいいのだろうか。
前を行くシグさんは、スタスタと進んでいく。前が見えてなさそうで、後ろで見ているこちらが怖い。それに、たまに菓子袋をポロポロと落としていくのだ。それをいちいち拾っていく。一つ二つと増え、しまいには両手がふさがるほどになっていた。本当に、グリモが自力で移動できてよかったと初めて実感したかもしれない。
そんな下山にも近い時間を味わっている中、ふと、こんな考えが頭を過ぎった。
<いや、魔法使えや!>
勝手な考えかもしれないが、魔法とはもっと便利なものだろう。宙にものを浮かすなんて、お茶の子さいさい、屁の河童!…というわけにはいかないのだろうか。いやでも、自分を浮かせられるんだから、できないなんてことはないはず。じゃあ、なんでやらない。何かできない事情でもあるのか。例えば、この階段が狭いから。じゃぁ、浮かせて後ろに追従させればいいんじゃ。しかし、それなら後ろの俺との間隔が取りにくいとか。でも、それぐらい自分でできるし。だったら、だったら……
「オイ!止まんじゃねぇ!つっかえてんだよ!」
ハッと我に帰る。振り返ると、そこには鬼の形相(まぁ、目と口だけじゃイマイチわからないけど…)のグリモがいた。
「あ、ゴメン」
「さっさと歩けよ。もうすぐ階段終わるから。」
そういえば、グリモとシグさんは何か古い知り合いだったようだ。知り合いというよりかは、友達…ではなく悪友って感じだったけど…
ここまで気になると聞くしかない。どうせ、焦らされるのがオチだろうけど…
「なぁ、グリモ。シグさんって何してる人なんだ?」
どうせ真面目に答えてはくれないだろうと思っていたが、案外すんなり話し始めた。
「あぁ。まぁ、気になるのも無理はないよな。詳しいことは本人に聞けばいいけど、さっきも言った通り、あいつは『クロ・マギノ学園』の非常勤講師。といっても、あの学園は常勤講師の方が少ないな。どっちかというとクロマギノ学園は大学みたいなもんで、ある程度の研究機関も兼ねてるから。シグもクロマギノの卒業生にして、今は非常勤講師と研究活動をしてる。そして、専攻は…」
「魔法身体学だ!」
突然、下の方から声がした。
「シグ!聞いてんだったら、自分で答えてやれよ!」
「お前が変なこと言わないか、聞いてたんだよ!」
そう言いながら、シグさんは階段を上がってきた。
「もう少し先で階段は終わりだ。あとちょっと、頑張れ」
「あ、どうも。」
「ねぎらいの言葉の一つぐらいは言えるようになったか。成長したな!」
「なにをぉ!?」
グリモの(余計な)一言で、シグさんがグリモに飛びかかる。
「テメェはそろそろ古紙回収に出されてぇみたいだな。」
「お前は、動物園にでも帰るかァ?」
喧嘩するほど仲がいいというが、この2人は犬猿の仲という言葉がお似合いだ。この取っ組み合いが続いている間に、さっさと降りよう。
俺は後ろで、あーだこーだと叫んでいる2人を背に、1人階段を降りていった。降りた先は大広間。そんなゴージャスな感じではないが、結構綺麗に整頓されている。そして、そこに一人の青年がいた。