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黒魔術学校学戦生活  作者: オニオンスープナイト
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やるべき事

 本が生きているという事。本に、『グリモ』という名前があるという事。グリモが自信を『一級禁書』だと言った事。疑問は尽きないが、何よりも最後の言葉に足元をすくわれた。


「ご主人様ってなんだよ。」


 この一冊の本と、主従関係でも結んだのだろうか。それにしても、鼻に付くような生意気な態度。ご主人様という言葉の意味を、自分が間違えているのかとすら思った。


「そのまんまの意味だよ。契約したんだ。今な。俺たちは、お互いを使役し合う関係になったってわけよ。まぁ、どちらかと言うと、その関係は一方的だがな。」


 ここまで言うと、グリモは顔…いや、目と口をしかめた。


「お前…まさか…」


 途中まで言うと、考え事をするかのように目を下に向ける。


「なんだよ!まさかって、どうしたんだよ!」


「いやな。その…」


「もったいぶらずに早く言えよ!」


「お前、魔術師の事、どこまで知ってる?」


「何も。」


 そう答えるほかない。実際、魔法を見たわけではないのだ。見ていたとしても、気づくはずもない。この世に魔法なんて都合のいいものはないと信じていた今までなら。


 グリモには、顔と言っても目と口しかない。だが、大体の感情はわかるようになった。それもこれも、オーバーリアクションな性格だからなのかもしれない。


 開いた口が塞がらない。開いた本が閉じないない、とでも言おうか。見ただけでわかる。唖然としていた。


「何も…だってぇ?」


 発射されたロケットのように、口が急速に加速する。


「おま…おま…おまえ…何も知らないわけはないよなぁ。ないよな。ないよな!そうだよな!!!」


 口を開くのが申し訳なく感じる。


「終わりだ…」


 ロケットエンジンが鎮火して行く。


「もう無理だ…とんでもねぇヤツと契約しちまったァ!古本市に出された本の気分だよ。もう誰の目にも届かず、焼却処分される運命なんだ…」


 ここまで言われると、逆にムッとなる。


「なんだよ!何にも知らないことが何か悪いのかよ!」


「何が…悪いだってぇ…?」


 目の前の本が、グツグツと煮えたぎっている。


「何もかにも、ゼーンブ悪いわァァァ!!!お前、もう受かんねーよ。はい、しゅーりょー!お疲れ様でした。オワター!」


「おい、なんだよ!ちゃんと教えてくれよ!何がダメなんだよ。」


「無知とは罪だぜ。特に、自分の知らない世界に足を踏み入れようと言う時にはな。お前は、さすがに知らなさすぎだろ!資料読まなかったのかよ!」


 資料!?そんなのあったか?


「資料ってなんだよ。そんなもん届いてねーぞ?」


「嘘だろ!?ちょっと待て。」


 グリモがふわりと浮き上がり、部屋の全体を目に収め始める。入念に。スキャンしているようだ。


 一周すると、目の前にまた降りてきた。


「ない。確かに、ない。」


 急にかしこまった態度になり、あるのかないのかわからない眉を細める。


「すまん。それは、すまん。こっちの手違いだ。というより、あのアホの手違いだ…ゼッタイ…」


 そのアホが誰なのかはわからないが、どうやらある程度の誤解は解けたようだ。


「と、同時に、非常に厳しいことになる。」


 今度は、険しい顔をしだすグリモ。


「さっき、入学の門の狭さについては言ったろ。その通り、入学には試験がある。内容は毎回違うが、一貫して『体力・知力・魔力』の三つの力を一度に問う試験が行われる。前回は、チームに分けての魔駒将棋。その前は、無人島での宝探し型バトルロワイヤル。って言ってもわからないだろうが、死人を出さないようにする事が難しいほどの苛烈なものだ。それだけの事をして、優秀な1000人を選ぶんだ。どれだけのことかわかるだろ。」


 そのバトルロワイヤルや、将棋がどこまで凄まじいものだったのかは理解できなかった。でも、グリモの目で、熾烈な世界が少しわかった気がする。


「そして…本題はこっからだ。」


 より、グリモの顔つきが険しくなる。


「その、『クロ・マギノ学園入学試験』まで、もう一ヶ月しかない…」


 唖然とした顔になる俺。しばらく、意識が自分の体を離れてる気がした。


 意識が戻る。それと同時に、携帯の電源に指を伸ばす。


 フワリと浮かび上がる文字。5月4日。一ヶ月後というと、6月。


「正確には、5月26だ。会場までの移動も含むと、もっと短い。せいぜい、真剣にやれるのは二週間。この二週間でお前の進路が決まると思え。」


 二週間で何ができるって言うんだ。14日。336時間。20160分。数字にすれば長そうだが、睡眠、食事。色々な生活必要事項を考慮すれば、245時間程度。この残った時間で、どこまで食らいつけるのだろうか。


「そんな短い時間で何ができるんだ。」


「さぁな。でも、二週間で、魔法の概念から、基礎体力づくり、魔法の扱い方を覚えてもらう。寝る時間も惜しんでもらうからな。」


 無理だろ…


 その言葉だけだった。


 絶望ではない。無謀。やり遂げられるかではなく、やり遂げられない。


 人間がどんなにあがいても手に入れられないものが、時間。有限な上に、巻き戻しも、足したり割ったりもできない。止められない。流れる水のように、せき止められず、掴めない。


「…できる…のか…?」


 声が震えていた。自分の理想にたどり着くまでの斜面の急さに、諦めさえ感じていた。


「その質問は間違ってんな。」


 力強くも、温かい声が、春風のように俺の心に吹き込む。


「別に、できるかなんて求めてねぇ。大事なのは、『やる』と言えるかだ。『やる』と言える強さを持っているかだ。結果は二の次。いや、三の次だ。結果なんてものは、そのときならねぇとわからんだろ。だったら、今『やる』って言えるやつの方が、強ぇ。お前は、どっちだ?」


『できる』か『できない』かではなく、『やる』か『やらない』か。当たり前のことだけど、この境地にたどり着くことが非常に難しい。この先に待ち受けることを考えると、その大きさに押しつぶされそうになる。


 諦めることは弱さではない。諦めを知らない人間は、向こう見ずな馬鹿野郎だ。ここでの結論は、そんな人間として決めてはいけない。前進すること、後退することの両方が道だ。前と後ろを見れる人間として、この決断を下そう。


「やるよ。俺。」


「よく言った!んじゃ、行くか!」


「行くかって…どこに?」


「ま、いけばわかるさ。」


 少し、嫌な予感がした。この短い時間に、世界のトップクラスであろう魔術師たちを超える力を手に入れなければならない。それも『純人』である俺が。魔法の『ま』の字も知らない俺からすれば、この二週間は拷問をも超える時間になるだろう。それでも…


「本当に、張り合える次元に行けるんだな…そうだな!」


「この俺様を信じられねぇってのか!」


 そう言いながら、グリモは体を開いた。


 突風に煽られたかの様に、ページが次々にめくられて行く。


 4分の三程めくれたぐらいで、本は止まった。


「ここだな。よし、ここにしよう。お前!俺を持て。」


 言われるがままに、グリモを持ち上げる。すると、本は白い光を発し始めた。光が俺を包み込む。


「覚悟決めろよ!行くぞ!」


 眩しい光の中、俺はその光の眩しさに目が眩んでいた。希望の光。祝福の光。光り輝く世界の訪れに。


 だからこそ、いやむしろ、初めから分かっていなかったのかもしれない。


 光見た世界は、純人の立ち入るべきではない場所だということを。









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