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黒魔術学校学戦生活  作者: オニオンスープナイト
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一度出たもの

 と、ここまでが1日目の話。トイレで目覚めるなんて、寝起きが悪いのなんの。加えて、大事なところは宙ぶらりん。嫌に冷たい空気に、体にある玉という玉も冷えたものだ。


 背中から吹き付ける冷たい風。明るく照らしつける強い光。今日が二日目だということに気づいたのはこの瞬間だった。見なくてもわかっているが、それでも見たいのが人の(さが)。振り返って、そのまま何もなかったかのように前を向き直す。感情は、心にしまっておくことにした。


 とりあえず出よう。


 そう思って例のペンを探すと、目と鼻の先に、どう見てももう使えない状態で転がっていた。


 どうせ、そんなことだろうとは思っていた。世界なんてそんなものだ。都合よくできてるはずもない。


 仕方なく、便所の扉を開ける。少し開け、その隙間から目だけで周りを見渡す。石造りの廊下に人影はない。そのまま、慎重に扉をあけていく。すると、手に何か柔らかい反発を扉越しに感じた。


 ある程度扉をあけてニョキッと顔を出すと、そこには綺麗に折りたたまれた服と、置き手紙のようなものが置いてあった。


 俺だって鈍感じゃない。超能力者じゃなくても、この状況で全てを理解できた。そして、この先の気まずさや釈明を考えつつも、とりあえず目の前のご厚意に感謝するばかりだった。


 着替えながら思ったのだが、少し昨日までの服とはモデル自体が違うようだ。長袖のシャツ、半袖パーカー、ジャージズボン、靴。どれも黒を基調としたカラーリングになっており、スパイ活動用の服なのかと思わせるぐらい真っ黒だ。でも格好悪いわけでもなく、所々に入っているストライプがむしろ格好いい。加えて、というか圧倒的にすごいのが機能面だ。体が訳のわからないぐらい軽い。例えるなら、普通の自転車と電動自転車のよう。体を動かすことに負担があるどころか、ほんの少しの力で動く。歩くという感覚が鈍ってしまいそうなぐらいの違和感。この服が、歩くという行為をサポートしてくれているかのようだ。


 試しに、瓦礫を持ってみる。20キロもありそうな大きな塊だが、容易に持てる。持てるというより、吊るせるというのだろうか。手にかかる負担は大きいのだが、腕や肘、肩にかけては重さを感じないのだ。手だけは、その重さをしっかりと感じている。握力の問題なのだろう。でも、このスーツのすごさを理解するには良い例となった。


 足もそうだ。横に靴もおいてあったのでそれも履き、さっきの瓦礫の上に足を落とす。すると、レンガが割れるような音で、クシャリと崩れた。そこまでの力はかけてない。普通に足を下ろしただけだ。缶蹴りの間を踏むぐらいの力で。崩そうという意思はあったが、スポンジが踏み潰されるような、あっさりとした感覚しかない。


 さらにこの靴。もはや靴を履いている感覚がない。靴自体は持ったときに結構な重さを感じた。だが、履いて動いてみると、素足とほとんど同じ感覚。靴下一枚で歩いているのと間違えるほどに軽い。


 不思議なスーツだ。一般生活用でないことは愚か、スポーツウェアでもない。素人にだってそれぐらいはわかる。軍用アンダースーツと言ってもまだ信用できないだろう。これを軍用するほどのものだろうか。災害救助用や、僻地探検用と言われたら信じるかもしれないが。


 (おーい・・・聞こえるか・・・)


 頭の後ろ。首元から小さく声が聞こえてくる。


(フードだ。フードをかぶれ。)


 言われるがままにフードを頭にかぶせる。


「どうだ。聞こえるか。」


 断片的に記憶を揺さぶる声。聞き覚えのある荒っぽい声だ。


「あれ・・・なぁ、これであってたっけ。ここで話したら聞こえるんだよな。って、誰もいねぇじゃん。おい、ミルトン!ミル!!  ハァ、マジかよ。」


 トラブルでもあるのだろうか。向こうは何かテンパってるみたいだ。でも、俺に向かって話し変えてるんだから答えなきゃ。


「もしもし。シグさん・・・ですか?聞こえ・・・・」


「もしもーし!!聞こえるか、クロ! ん!? あいつまだ寝てんじゃねーだろうな。まったく、修繕費どうしてくれんだよ。まだ、学園長からまた借金しなきゃいけねーよ。てか、前回の利子払ったっけ・・・?ううん。払って・・・る。よし、払ってるって程で行こう。どうせ100も10000も変わんねーだろ。金持ちだし、あの人。」


 向こうに聞こえてないのだろうか。それにしても、なんだか聞いてはいけないことを聞いたような気がする。絶対他言無用にしよう。言ったら何されるかわからない。


 フードの向こうのシグさんはあの流れのまま、言葉を続けた。


「あん、もう面倒だからここで言っとくぞ。録音機能あるから、どうせ聞くだろ。そのスーツは試作品の軍事用アンダーアーマーだ。着てる状態で聞いてるかは知らんが、着てみりゃわかる。超軽量で柔軟性のある金属『ヤント鉱石』と魔力伝道糸でできた特殊スーツだ。光学迷彩にソナー、暗視機能など盛りだくさんの性能に、魔法補正やシミュレーションもできる。300度の熱やー50度ぐらいだったら快適。敗れにくく、中で出血してもスーツが止血ようの包帯の役目を果たしてくれる。その他、あげればキリがないぐらいの超高級品だ。それ一つでミサイルが10発買える。あぁ、それじゃ分かりにくいか。まぁ、この家が15個ぐらいかな・・・多分それぐらい建てられる。なんの意味があってか、プレゼントだそうだ。大事にしろよ。んで、起きたらそのままこっち来い。ペンは多分壊れてんだろ。まぁ、でもそのスーツがあれば楽勝だ。発信位置は勝手に測定してくれるよ。」


 唐突にこんなことを言われても何一つ驚くことがなかったのは、このスーツの感動がそれに見合うものだったからだろう。シグさんが元気だったことに対する喜びなど忘れて、ただただこの事実に空いた口が塞がらなかった。ミサイルが一発いくらかなんて知らないが、バスタブに入れれば容易に札束風呂ができるぐらいだとろう。そんなものを誰が俺にくれたんだろうか。そればかりが頭を巡って、正直何ができるかなんてもう覚えていない。


<システムオープン・・・>


 機械的な女性の声とともに、突然横長いレンズが目の前に展開された。


<生体データを記録・・・身長・・・体重・・・筋肉量・・・体内水分・・・脈拍・・・血液循環・・・ストレス・・・>


 次々と声を上げながら、おそらく記録活動を行っている。いきなりスーツが体を締め付けたり、ピリッと静電気が起きたような痛みを走らせたりしながら、スラスラと記録活動を続ける。


<・・・声帯データ・・・>


「え・・・?」


<・・・解析中・・・機械音声フィルター・・・該当なし・・・個別認証として適応できる事を確認・・・>


 淡々とステップが進んでいく。個別認証と言っていたことからして、このスーツの個別登録のような事をしているのだろうか。


<眼球構成の記録開始・・・十秒間瞬きをせず、目を開いてください・・・>


 言われるがままに、目を見開く。すると、レンズがどんどんと強く光りだした。短い時間ながら、だんだんと乾きだす目。最後の方は、眩しくて目を開けることが辛いほどだった。


<眼球運動、および光彩識別機能に異常なし。本データを個人識別データ3として保存。>


 スーツの言葉から、感覚がなくなってきた。それに、気のせいかスーツが熱くなって来ている。機能速度が上がったのだろうか。それとも、排熱処理の問題か。


 すると、レンズの上に赤く「Alert」と点滅が始まった。この近距離で目がチカチカしないことはスゴイ。それに、さっきから思っているのだが、目と鼻の先にレンズがあるのに、そこに表示される内容がしっかりと読める。電子版のように見えるせいで、疲れ目の心配もしたが全くない。眼鏡をかけたことはないが、眼鏡のレンズのような感覚。レンズの向こうもしっかりと見える。


<熱伝導プログラムに異常発生。魔力値の不安定が原因と推測。打開策の提案。魔力コントロールを一時的に本システムに委ねる。>


 多分異常があるのだろうとは思っていたが、なんだかよくわからない。昨今AIの話をよく聞いていが、このスーツにはこの世界のAIが搭載されているのだろうか。そもそも、この世界にAIなんて概念があるのだろうか。それに、委ねると言ってもどうすればいいのか。そのままにしていれば、勝手にやってくれるものなのか。あと、スーツの温度上昇は俺のせいだったのか。


<オーナーからの反応なし。身体データより現状把握不能状態にあると推測。結論。自動遂行が効果的と判断。魔力コントロール制御開始。オーナーが身の危険を感じ次第終了。>


 一気にスーツの温度が下がる。個人的に、体に何か変化が起きたとは考えられない。例えば、これのせいで体が軽くなったとか、精神的に軽くなったとか。そんな感覚は一切ない。ただ、熱さがなくなっただけ。


<オーナーにフィードバック。本状態を快適と感じるか。>


 確かに、快適になった。


<快適と確認。本スーツの機能制御良好。>


 何も反応してないのに、頭の中を汲み取るかのように判断している。


 その後も、引き続き記録活動が行われた。手足の可動域調査と言って変なポーズを取らされたり、呼吸機能確認と言って口と鼻を塞がれたり。他にもあんなことやそんなことまでされた。にしては、そんなに時間はかからなかった気がする。20分か30分ぐらい。そのあとの健康活動への指導(AIは提案と言っていたが、脅迫に近いしつこさだった)や、魔力制御に関する強化項目のリストアップなどを見させられている時間の方が長く感じた。単純に鬱陶しいと感じたせいかもしれないが。


 ともかく、このスーツを誰がくれたのか。まだ知らないが、とんでもない代物だ。シグさんが喚いていたことも納得できる。そんなものを誰が、なんのために。


<メッセージファイルを検出。宛先をこのスーツのオーナーと確認。閲覧しますか?>


 レンズ上に『今、これを手にしているあなたへ』と書かれた動画ファイルが映し出される。ファイルの真ん中に光る、右向きの三角マーク。再生ボタンを表すであろうそのマークが、再生されるのをまだかまだかと待っている。


<本行為はレベル3事項に該当。本システムは当行為に関与できません。自己意志に基づく行為での決定が必要。精神汚染の可能性を考慮し、メンタルケアプログラムへのクイックアクセスを樹立。>


 そんな大げさなと思ったが、これがこのスーツのクオリティーなのだろう。それに、動画タイトルを見て察した。これはこのスーツの送り主からに違いない。このスーツを送った意図。知りたいという心は、無意識に


「再生」


 と発していた。




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