召喚勇者なんだが魔王戦のピンチに覚醒して、最凶召喚魔法を会得してしまった件について
「消えろ勇者! 我が豪炎によって灰燼に帰せ!」
「勇者殿!」「勇者!」「勇者さん!」
魔王によって極大魔法が放たれた刹那、俺の意識は閃光に塗り潰された。
俺は一年程前、いわゆる異世界召喚という現象に遭遇した。
召喚された理由はお約束というか最早設定としては使い古しも良い所な『魔王討伐』の為。
うん。今時中学生でももう少しまともな設定で黒歴史街道驀進してから、高校デビュー時に恥ずかしさに赤面した理性が証拠隠滅すると思う。
けれどもまあ、召喚された当人としては異世界召喚というだけではしゃいでしまうわけで、しかも「お前勇者な」なんて言われた日にゃあ、普段謙虚な男子高校生の俺のテンションが有頂天になるのは確定的に明らかなわけだ。
更に更にとってつけたかのようにお供として聖女様である僧侶と姫騎士な王女様と天才魔法少女(全員超絶美少女)がつけられた時点で薔薇色ハーレム人生によるドキがムネムネなとらぶるな日々への期待に、「我が世の春がきたああああああ!」と俺は俺のエクスカリバーに約束された勝利が訪れたと確信した。
……まあ、実のところそんな事は全くなく、現実は厳しかったんだが。
元々絡まれやすい体質で喧嘩慣れしていた俺は戦いというものを甘く見ていたのだが、それまで剣どころか包丁すら料理手伝いで数えるくらいにしか握った事の無かった奴がいきなりまともに戦えるはずもなかった。
最初は剣を振り回すのもやっとで、訓練を重ねてようやく体力がついて実戦に入った時はモンスター相手にまともに攻撃できなくなって周りに大いに迷惑をかけてしまった。
スライムや虫が相手ならともかく、初めて狼型とか鳥類型とか血肉を備えたモンスターを斬り付けた時の感触はいつまで経っても忘れられない。初戦からしばらくの間は気持ち悪くて怖くなって震えが止まらず眠れなかった。
中でも一番きつかったのは、魔族と戦った時だ。あいつら細かい所の違いはあっても見た目はほぼ人間に近いから殺した後の罪悪感が途方も無かった。
当然そんな豆腐メンタルな俺が可愛い美少女達との旅にうつつを抜かせるわけもなく、男の尊厳をかなぐり捨てて彼女たちの助力を得ながらなんとか旅を続けた。
正直、すぐにでも投げ出したかった。魔王を倒さないと元の世界に帰れないと言われたが「じゃあ俺一生この世界に住むわ!」と即決できる程度にはこの暴力的な戦いしかない旅に参っていた。
けど、俺に残っていた最後のプライドがそれを許さなかった。たとえそれが軽い気持ちで受けたものだったとしても、自分自身で受け入れた約束を破るわけにはいかなかったから。
少しずつ旅に慣れ、戦いの経験を積み、パーティメンバーだけでなく行く先々で出会った多くの人達に迷惑を掛けながら力を借りつつ、俺はついに魔王城へと辿り着き、最終決戦を迎えた。
しかし、どこまでいっても世の中は厳しく、もし神様がいるのなら残酷極まりない性格をしているのだろう。
奮戦むなしく魔王の強力な魔法を受けた俺は目の前が真っ白になり、おそらく死んでしまうのだろうと、意識を失う間際に察したのだった。
(ああ……せめて童貞捨ててから死にたかったなあ……)
なんとも締まらない最期の望みだが、健全な男子高校生が一年近く美少女達と行動を共にすれば欲情を抱かないはずがないので許してほしい。
(もし神様がいるなら次はイケメンチート野郎に転生させてくれねえかな? 俺、結構頑張ったしそれくらいご褒美もらえても良いと思うんだけど……)
いやでも無理だろうなあ……勇者になっても魔法の才能くれなかったケチな神様だからなあ……と、思っていると、突然女の人の声が聞こえた。
――残念ながらその願いは聞き届けられません。
(えっ? なに? 誰?)
――こうして接触するのは初めてですね。はじめまして、あなたを勇者として選んだケチで残酷な神様です。エロ猿。
(えっ!? いや、あの……)
――あなたはまだ死んでいません。肉体的に死に瀕した事で宿っていた膨大な魔力が今目覚めました。そして、クソ雑魚ナメクジだったあなたがこれまでの旅によって得た経験によって、我々神でさえ扱う事ができない人間のみが使える究極魔法を扱う資格を得ました。これを使えばあなたのようなノウタリンでも魔王も容易く倒せるでしょう。
(……もしかしなくても怒ってます? 神様?)
――慈悲深き神である私が怒りなどという感情に左右されるわけありません。
(そ、そうですよね! 神様ですもんね!)
――はい。ですから……さっさと現世戻って世界救ってこいやクソ勇者! さもなきゃその魂を切り刻むぞゴラァ!
ひぃいぃいぃっ!? やっぱり怒ってるじゃないですかぁあぁ…………!
「神様許してえぇえぇ!」
「気がつきましたかゆう――何ですその目覚めの言葉は!?」
気が付くと俺は、魔法使いが張った結界の中で聖女様の治療を受けていた。
「あ、いやちょっとチェーンソー片手に般若のような顔した女神様との追いかけっこする夢を見てて……」
「何わけのわからない事をいっているんですか!? もう……私達がどれだけ心配したと思っているんですか……!」
聖女様にボロボロと大泣きされながら怒られる俺。
「元気そうで何よりね。心配して損したわ全く」
魔王の攻撃を防ぎながら、魔法使いがこちらをじろりと睨む。
「魔法使い……」
「何やってのよアンタは? アンタじゃないと魔王倒せないのに、私なんか庇って死に掛けてんの!? 馬鹿じゃないの!?」
「ご、ごめん……つい体が動いちゃって……」
「謝ってる暇があったらさっさと体治して魔王倒しに行ってきなさいよ! 今は姫騎士様が注意を引き付けてるからまだ防げてるけど、こんなところで足止めされて結界張り続けるなんてはっきり言って魔力の無駄なんだから!」
「イエスマム!」
既に治療が終わっていた俺は飛び起き、急いで姫騎士様に合流すべく駆け出す。
「……次に私を泣かせようとしたら許さないから」
すれ違いざま魔法使いが何か呟いたが、それを俺が正確に理解する事はなかった。
「待たせた!」
「遅いぞ馬鹿者!」
魔王と直接対峙していた姫騎士様と合流する。
「死に掛けてたんだから少しは心配しても良いんじゃないかな!?
「お前の生命力はゴキブリ並だ。あの程度で死ぬとは思ってないわ!」
「ひでえ! いくら何でもその言い方はないんじゃないか!?」
「ふん。私流の信頼の証だ……よく戻ってきた」
そう言って姫騎士様がこっちを見て思わず見惚れてしまうような笑みを二っと浮かべる。
うん。何度見てもイケメンだ。その鎧越しでも分かるたわわに実った二つの果実が無ければやっぱり何度見ても男にしか――。
「何か急にお前の首を刎ねたくなったが変な事を考えていないだろうな?」
「キノセイジャナイカナ?」
恐るべき直感である。
「我の炎を受けて生き残るとは……しかし、助かった命を再び散らしにくるというのは、勇ましさと蛮勇をはき違えた愚か者でしかないぞ? 勇者よ?」
再び相対した魔王は余裕の笑みを浮かべている。
それはそうだろう。元々、俺が最初に戦った時には俺の剣は全く届かなかった。魔法使いを庇って死に掛けたのはあくまできっかけでしかなく、負けた理由にはならない。
要するに、いくらかマシになったとはいえ俺は弱いのだ。実際、未だに姫騎士様との鬼のようなタイマン訓練では負け越しているし、魔法使いにはいつも攻撃魔法で脅されてパシられ続けている。聖女様にだって普段の食事から生活の多くを面倒見られている上にこの世界のマナーを厳しく仕込まれて頭が上がらない。
結局のところ一人だけでは何もできないただの子供。それが今の俺なのだ。
――だからなんだろう。俺がこの世界に呼ばれたのは。
常に誰かの力を借りないといけない圧倒的な弱者。
だからこそ、俺はこの世界に呼ばれて、この魔法を会得するが為に、これまでの長い旅路を重ねてきたのだろう。
「我が力の前に再び斃れるが良い!」
「それはどうかな!」
俺は意識が戻った時から頭に浮かんでいる魔法を発動させた。
「!」
「!? こ、この膨大な魔力は……!?」
この世界に来た時、真っ先に魔法の存在を確認した俺は、すぐに自分が使えないか確認した。
結果から言えば、使えなかった。
何故なら召喚特典としてお約束である自動言語翻訳だが、この世界の魔法に最も必要な要素である詠唱で使われる魔法言語に対応していなかったからだ。
普段の学校成績でさえ五段階評価において英語が万年二だった俺が、一から魔法言語を学ぼうとしても才能の欠片もないのは明白であり、仕方なく剣一本で頑張る羽目になったのだった。
しかし、この魔法はそんな必要はない。
頭に浮かんでいる魔法陣に自分の魔力を叩きこむだけで使えるんだ!
「お、お前……いつの間にそんな魔法を覚えたんだ!? というか、そんな莫大な魔力を持っていたのか!?」
「さっきちょっと死に掛けた時に俺でも使える魔法を神様に教えてもらったんだ。これなら魔王を倒せるって!」
「ほう……面白い! 神が授けた魔法か! それで我が倒せると言うなら試してみるがよいわ!」
チャンスは一度……! 俺が持つ魔力全ブッパでしか使えない正真正銘の奥の手だ!
「いくぞ……! 『召喚』ッ!」
それは個々の力が弱く、他者の力を求める人間らしさが溢れる力。
弱い俺に力を貸してくれる存在を呼び寄せる術。
これまでの旅で自分の弱さをこれ以上なく痛感し、この世界では一人で生きる事ができない俺にしか使えない力。
誰よりも人々との“絆”を感じた俺にとって最も必要な魔法だ。
「召喚魔法だと! 笑わせてくれる! この世界に我を屠れるものなど存在しない! 勇者! お前にもな!」
光の奔流が俺の周りを包み込んだ瞬間、巨大な魔法陣が展開し、俺に秘められていた膨大な魔力によって時空が歪む。
やがて、歪んだ空間からソレは現れた。
「…………」
「…………」
「…………なあ、勇者殿」
「…………なに? 姫騎士様」
「これがお前のとっておきなのか?」
「…………(サッ)」
「オイ! 目を逸らすんじゃない!」
現れたソレは、一言で言えば貴婦人であった。
ふんわりとした生地をふんだんに使い、装飾をあしらった気品で優雅な衣服を身に纏った、一目で高貴な身分と分かる花顔柳腰な壮年の女性。
どう見ても魔王をどうにかできそうにありません。本当にありがとうございました。
「いや待ってどういう事なの神様!? この魔法なら簡単に魔王倒せるって言ってたじゃないか!」
「貴様このような戦地にこのようなご婦人を呼び寄せてどうするんだ!? ――すまないご婦人。このような場に突然招いてしまい、我々の事情に巻き込んでしまい……」
「いえ、謝る必要はありません。むしろこの場に召喚していただきありがとうございました」
深々と流麗な仕草で頭を垂れる。俺たちが困惑していると、貴婦人は魔王と相対した。
向かい合った魔王はその女性の顔を見て目を見開き、サッと顔面の血の気を引かせた後にガタガタと震えだす。
「さて……これは一体何どういう事なのでしょうか? まおちゃん?」
「「「「まおちゃん?」」」」
「こここkっこkれははははh母上どうしてここに」!?
「「「「母上ぇっ!?」」」」
魔王ってお母さんいたの!? と驚いていると、いつの間にか近くに寄ってきていた魔法使いが尋ねてくる。
「ねえ、さっきアンタが使った召喚魔法って一体何なの?」
「えっ、えっと……一言で説明すると『目の前の敵が最も恐れる相手を召喚する』って効果なんだけど……」
一見するとシンプルな召喚魔法だが、この召喚魔法のミソは時空は問わない、つまり様々な時間の異世界同士を繋げるというのが最大の特徴だ。
つまり相手の恐怖の対象が死んでいようがいまいが関係ない。やろうと思えば過去と繋いで相手が最も苦手とする存在の全盛期の姿をその場に顕現させる事が可能なのだ。
このように強力な魔法だが、その代償として俺も二つのデメリットを受けなければならない。
一つは自分の魔力を全て使い果たす必要がある事。
そしてもう一つは――。
「なるほど……何歳になっても親、或いは親代わりの人には頭が上がらないものですものね」
と、聖女様が納得したように頷いていると、ここで魔王と魔王母のタイマン勝負が始まった。
「ここで何しているのかしら?」
「こ、これはその……仕事で……」
「まおちゃんの仕事って異世界同士を繋ぐ貿易業って言ってなかった? それがどうしてこんなよそ様の世界で侵略なんて野蛮な事をやっているの?」
「そ、それは……しゅ、出向で一時的に……」
「あら? 言い訳なら結構ですよ? 全部知っているんですからね?」
「――ヒィッ!」
「いくら就職難だからって異世界で人様に迷惑を掛けて! お母さん恥ずかし過ぎて近所の奥様方に顔向けできないわ! この事はお父様にきっちり報告させて頂きますからね!」
「!? ち、父上にだけは! どうか! 父上だけにどうかご内密に……!」
「今回ばかりは許しません! 後でたっぷり絞られなさい!」
あれ程強大な力を誇っていた魔王が手も足も出ない様子に圧倒されていると、魔王母がクルリとこちらを向き、俺たちは思わずビクリと肩を震わせる。
「この度は息子が迷惑をかけて申し訳ありませんでした。後日、夫と共にこちらの世界に改めて謝罪に伺わせて頂きますので、今日の所はこれでご容赦を……」
「あ、ああ……相分かった」
呆然としつつも姫騎士様が了承すると、魔王母は柔らかな微笑みを浮かべながら謝辞を述べて再び嫋やかな礼をすると、魔王の首根っこを掴んで来た時に使った魔法陣へズルズルと引き摺って行く。
「お、おのれ勇者! この恨み忘れ――」
「いい加減になさい!」
呪詛を残そうとした魔王をピシャリと黙らせると、魔王母はそのままズプンと時空の歪みの向こうへ魔王を引きずり込み、そのまま魔法陣も掻き消えていった。
後に残るのは、凄絶な戦いの傷跡が残る戦場と、微妙な空気漂う四人だけであった。
「……え、ええっと、何はともあれ魔王がいなくなったのでこれで終わったんですよね? さ、さすが勇者様ですね!」
「う、うむ。そうだな! これにて魔王討伐は果たされた! あとは我が国へ帰還して父上達に報告すれば我々の使命は完了となる。色々あったとはいえ、勇者殿によって討伐が成功したのは紛れもない事実だ。国に帰ってから正式に謝礼を受ける事になると思うが、先にこの場で私が感謝の意を送らせてもらうとする。よくやってくれた勇者殿!」
取り繕う聖女様と姫騎士様に内心で(変な空気にしてゴメン)と謝っていると、何やら真剣そうな表情を浮かべた魔法使いに肩を叩かれる。
「ねえ勇者。結末はあんなアホみたいな展開だったけど、異世界同士を繋ぐ魔法陣を発生させるなんて大魔法を使って体は平気なの?」
「え? あ、ああ……別に? 問題ないよ?」
「本当に? 普通あんな大魔法は個人で行うものじゃないわ。一体どんな代償を払ったの?」
基本的に魔法を使う場合、この世界では魔力とは別に何らかの代償を払う。
その魔法の規模に比例して代償は大きくなる為、時空間魔法という本来は一個人では決して扱えない規模の代償を払わされているであろう俺の事を彼女は心配しているのだと思う。
「そ、それは……」
しかし、その代償は俺の口からとても言えない。
少なくともこの場では。
「口ごもるって事は私達には言えない程重い代償なの? もしそうなら何なら私……こ、今回だけアンタの為になんでもやってあげてもいいわよ?」
「い、いやそんな事ないよ! 大丈夫! ほら、その、アレだよ! 勇者特典で一回だけ代償を無視できるんだよ!」
「勇者召喚魔法にそんな効果があるなんて聞いた事無いが……?」
訝しげに首を傾げる姫騎士様。
「勇者殿。お前私達に気を使って何か隠してないか? もし代償を払った事で何らかの不都合があるなら、それは今回の使命において統率者である私が本来受けるべきのものだ。責任ならば私が取るから可能な限りお前の望みに応えよう」
「だ、大丈夫だから! 何でもないって!」
あ、あれ? なんかおかしいぞ?
いつもなら優しい聖女様を除いて俺の体の心配なんてした事も無いツンツン魔法使いとクールな姫騎士様が妙に優しいぞ!? 何で今回に限ってこんなにも優しいんだ!?
「わ、私も! 勇者さんがいてくれたおかげで私達の世界が救われたんです! だ、だから……勇者さんが望む事ならなんでもやります私!」
そしてそのいつも優しい聖女様がいつものように俺を労わってくれる。いつもは癒されて嬉しい事この上ないのだが、今回に限っては本当に勘弁してほしい!
「大丈夫! 本当に大丈夫だから!」
「……そこまでひた隠しにするなんて、逆になんか怪しいわね」
慌てすぎたせいか、何かを察知した魔法使いの眼が攻撃色になる。
あ、知ってる。いつも『あ、コレだめなヤツゥ~』ってなる時のパターンだ!?
「『鑑定』」
「あっ!?」
勇者専用極大時空魔法『絶対強者召喚』
効果:相対する敵が最も恐れる存在を、最適な時間軸から召喚する。
習得方法:自分自身の弱さを自覚し、それでも前に進む事を選んだ『真の勇者』のみが習得可能。
代償:壱.使用者が持つ全ての魔力。弐.使用者がこの世界で最も恐れる者も呼び寄せその恐怖に打ち勝ちその勇気を示さなければならない。(尚既にその場に恐怖の対象がいるならば代償を払う必要はない)
ぎゃあああああああああああばれたあああああああああああ!
恐る恐る三人をチラリと見ると、現れた鑑定結果をしげしげと見ていた三人の目つきが、徐々に剣呑に変わっていくのが見て取れる。
「……ねえ、勇者ァ?」
「ハ、ハイ!」
「記憶が正しければアンタにとっての恐怖の対象が召喚された様子が無かったと思うんだけど、これはどういう事なのかしら?」
悪魔というものが存在するならば、今目の前にいると言わんばかりの形相で魔法使いが尋ねてくる。
マズイ……対応を間違えれば俺は今日、ここで死ぬ……!
「い、いや、その……ま、魔王だよ! 魔王が俺にとって恐怖の対象だったんだよ!」
「勇者召喚魔法において、勇者に付与される特典として魔王に対する恐怖への抵抗性があったと思うが?」
即座にこちらの論理の穴を看破して冷静に詰めていくのは流石次代女王だ。ただ、魔王以上に凶悪にしか見えない不敵な笑みは、今の俺にとっては魔女王が放ついてつくはどうでしかない。
「私も気になりますね~。勇者さんは一体どなたに恐怖を抱いていたのでしょう~?」
「せ、聖女様……」
同じくいつものようにニコニコとした笑みを浮かべながら俺に問いかける聖女様。ただし、いつもの柔らかな笑みとは違って……その、ノ、ノーコメント! というかマジで怖い! 他二人より遥かにプレッシャーがヤベーよこの人!? 聖女様がそこにいる悪魔女以上にしちゃいけない顔してるんだけど!?
「あ、あはは…………さらば!(ダッ!」
「「「逃がさない」」」
ひいいいいいいいいいいきたあああああああ!? つか、足はえええええええ!?
三人とも鎧だったりヒラヒラだったりフワフワだったりと、とにかく走りづらい格好のはずなのに異常に早い。
つか俺魔王倒したんだよね!? 何で今更こんな全力逃走してんの? こんな裏ボス聞いてないんだけど!?
「『凍結』」
「へぶっ!」
足元を凍らされ、思いっきり足を滑らせて転ぶ俺。
なんとか立ち上がろうと腕をついた瞬間、ポンと、やけに優しくて重い衝撃が加わり悲鳴をあげそうになる。
ギギギと油を差し忘れたロボットの首のようにゆっくりと振り返ると、そこには俺を見下ろす六つの瞳がギラリと激情を剥きだしていた。
「「「つ・か・ま・え・た!」」」
声にならない悲鳴が、主がいなくなった魔王城に響き渡った。
その後、その世界は平和になった。
魔王の両親が正式に謝罪に訪れ、色々と大人の交渉を経た結果、魔法文化が進んだあちらの世界の技術支援を無償で受けられる事になったとのこと。
魔王は手ひどく両親から折檻を受けたらしく、滅亡寸前の世界に飛ばされて独力でその立て直しをさせられているらしい。
俺はと言うと、最後の最後でやらかした大ポカにより、世界を救った英雄であるにも関わらずあの三人に頭が上がらなくなってしまっていた。
まあ、ぶっちゃけたところ旅の途中の様子とそんなに変わらないので、問題ないと言えば問題ない。
問題なのはその召喚魔法を会得した事によって引き起こされた、様々な影響だ。
まず、俺はこの世界でもあり得ない程膨大な魔力を持っているらしい。
魔王母を召喚できたのも、本来なら魔王によって張られた異世界間に張られた障壁によってその通行が妨げられていたらしいのだが、俺の魔力で強引に穴を突き破った為に魔王母がこちらに来れるようになったらしい。
そして、その膨大な魔力目当てに彼の世界のあちこちから縁談が持ち込まれるという超絶モテ期が到来した。やったぜFoo!
……もちろんそんな旨い話があるはずもなく、俺を独占しようとあの世界の各国から刺客が放たれるという結果を引き起こし、俺は自分が元居た世界に逃げ帰る事になる。勇者って……救世主ってなんなのか?
しかも、こちらの世界では魔法の法則がかなり限定されているとの事で、せっかく目覚めた膨大な魔力は宝の持ち腐れに。ちくしょう。
ただ、あちらの世界としてもこのまま俺を捨て置くには惜しいらしく、人員を限定した上でこちらの世界に送り込んできた。
「勇者殿!」「勇者!」「勇者さん!」
まあ、ある意味予想通りだよね。
どうやらしばらく旅を共にした俺と彼女たちは不思議な絆のようなものができているとの事で、俺の膨大な魔力を用いた異世界間通行を唯一可能な人員とのこと。
彼女たちにとっては政略的なものかもしれないが、当初目論んだハーレムが達成されたのは男として喜ぶべきなのだろう。
……正直、手を出さずに長く一緒に居すぎたせいで、色々な意味で彼女たちとそういう関係になるのは非常に気が引けるのだが。
まあ、そんなわけで彼女たちとてんやわんやな日々を送る事になるのだが、それはまた別のお話である。
最後に会得した召喚魔法だが、あれきり使う事は無く、例えどんなピンチに陥ったとしてもこれから先使う気は全くない。
何故かって?
いくらどんな相手でも倒せるからって、自分が恐れる人も召喚された上にその人との関係が悪化するかもしれないなんて、誰にとっても最凶過ぎるからね。
Q:勇者のどこに惚れましたか?
姫騎士「泣きながらでも食いついてくるところ」
聖女「私達の世界に慣れようと一生懸命なところ」
魔法使い「や、優しいところ……チョ、チョロくて悪かったわねっ!?」
あらすじでも宣伝していますが、作者連載中の
「リード~魔法もスキルも使えないけど死に物狂いで生きていく~」
https://ncode.syosetu.com/n7957ek/
もよろしくお願いします。
今短編が駄菓子ならリードはラーメン二郎並に重いので、集中力が無い方にはお勧めしません。