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漆黒と鮮血の桃太郎

作者: 遠藤蓮霧
掲載日:2017/10/13

昔々あるところに、、おじいさんとおばあさんが暮らしていた。


おじいさんは一昔前まで伝説の芝刈り師グラスマスターとして世界中に名を轟かせた男。

おばあさんはその名を知らぬ者はいないマジックポーション奇薇檀護きびだんごのこの世で唯一の作り手だった。


ある日、おじいさんが魔の山に芝刈りに、おばあさんが暗黒川に新たなポーションの構想を練りに行くと、暗黒川を何とも禍々しい大きな桃が流れてきた。


「こっ……これは!」


おばあさんは桃から溢れ出る邪気に思わず叫び声を上げた。

おばあさんはまるで悪魔に吸い寄せられるようにその果実を拾い上げると、急いでそれを家に持ち帰った。


家に帰ってきたおじいさんもまた、この桃の発する力に唾を飲み込んだ。


「これはもしや、あの伝説の……!」


おばあさんはおじいさんの言葉に息をのんだ。


「まさか、あの伝説の!?」


「そうじゃ、あの伝説の!」


二人はあの伝説の桃を見下ろした。二人の間にしばしの静寂が流れる。


「お爺さん、私……この桃、割ってみたいわ」


おばあさんの発言に、おじいさんは耳を疑った。


「ま、まさか……封印を解くというのか!」


「ええ、そうよ!私はどうしてもこの目で見てみたい……漆黒の英雄の姿を!」


おじいさんはしかし、止めることができなかった。

おばあさんの言葉を聞いて、彼も思ってしまったのだ……英雄の誕生を見てみたいと。


「わかった……」


おばあさんは懐から小刀を取り出して、伝説の桃にゆっくりと突き立てた。

そして、唱えた。


「古の神々よ、運命の使徒よ……。我ここに我が誓いをもって、漆黒の英雄の誕生を欲さん……。出でよ、桃太郎!」


おばあさんは英雄の名前を叫んだ。

すると、桃に入った亀裂から圧倒的な黒い魔力が溢れ出し、家の中を満たした。


それは桃の中に収束し、小さな赤ん坊の姿をかたどる。


「ああ、英雄の誕生じゃ……!」


それが、桃太郎の誕生だった。


桃太郎は日に日に大きく育っていった。

彼の中に宿る大きな闇の力は、桃太郎の左目を蝕み、いつしかそれを鮮血の色をした邪眼へと変えた。

彼は彼自身でも抑えきれないその力を眼帯で封印するようになった。


ある日桃太郎は、魔の山のふもとにある、秘められし刻印村の住人にこんな話を聞いた。

鬼が島に住まう鬼たちの暗黒結社が、人里に降りては暴れまわっているらしい。


そこで桃太郎はおじいさんとおばあさんにこう言った。


「俺の中に潜む邪気が俺に告げる……。この世に闇の力は二つもいらない、と……。漆黒の英雄であるこの俺、桃太郎が彼らを退けずして他の誰がこれを為せよう……。……ふっ、俺は闇の力をさらに大きな闇の力によって屈服させてみせよう……(訳:おじいさん、おばあさん、鬼退治に行ってきます)」


おじいさんとおばあさんは桃太郎が何を言っているのか分からず、こっそりと桃太郎に背を向けて話し合った。

そして、何となく理解したところで、桃太郎に振り向いて言った。


「……えー……、わかった、桃太郎。わしが日本一の旗をこしらえてやろう」


「桃太郎、私が奇微檀護きびだんごをこしらえてあげましょう」


桃太郎は重々しく頷いた。


「ああ……助かる。それとご老人、旗はいらない」


「そ、そうか……」


こうして桃太郎は奇微檀護きびだんごの入った袋を腰につけて旅立った。


何日か歩いた頃、桃太郎の前に一つの影が現れた。

それは数百年前に封印されたはずの魔獣、「威怒いぬ」だった。


威怒は桃太郎の前に立ちはだかると、言った。


「暗黒の英雄、梅太郎殿とお見受けする」


ところどころ惜しかったが、桃太郎はあえてそのままにしておいた。

威怒は桃太郎の腰の袋に目を止めると、言った。


「お腰に持っておられるのは、もしや奇微檀護きびだんごだろうか。是非とも一つお譲り願いたい」


桃太郎は尊大な微笑みを浮かべた。


「貴様の魂、この漆黒の英雄に売るというのか……。魔獣としていい心構えだとは言っておこう……。しかし、一歩こちらに踏み込んだからには、奈落の底までも落ちていく覚悟があるのだろうな……?その覚悟を見せるというのであれば、貴様に秘められた力、俺が譲り受けよう……!(訳:一緒に鬼退治に来てください)」


こうして、威怒が仲間になった。


更に何日か歩いた頃、桃太郎の前にまたしても一つの影が現れた。

それは数千年前に封印されたはずの魔獣、「叉瑠さる」だった。


叉瑠は桃太郎の前に立ちはだかると、言った。


「純白の戦士、イフテルガニアだな?」


それは知らない人の名前だったが、桃太郎はあえてそのままにしておいた。

叉瑠は桃太郎の腰の袋に目を止めると、言った。


「その腰の……奇微檀護きびだんごじゃねえのか?一つ寄越しちゃくれねえか」


桃太郎は不遜な笑みを浮かべた。


「貴様も魂を売るというのだな、魔獣よ……。しかし忘れるな、俺自身の力が何者にも縛られることのない、……そう、俺自身でも縛り上げることのできない巨大な獣そのものであるということを……。それを魂に刻み込め!俺と共に闇の道を進むもの、それくらいの気概が無くてはな……(訳:あなたも鬼退治に来てくれるというのであれば、とてもうれしいです)」


こうして、叉瑠が仲間になった。


また何日か歩いた頃、桃太郎の前にまたしても一つの影が現れた。

それは数万年前に封印されたはずの魔鳥、「鬼死きじ」だった。


鬼死は桃太郎の前に立ちはだかると、言った。


「煉獄と絶望を司りし冥界の使者、メテルゴフ・ド・ディザスターですね」


それは秘められし刻印村の幼稚園の先生の名前だったが、桃太郎はあえてそのままにしておいた。

鬼死は桃太郎の腰の袋に目を止めると、言った。


「お腰につけてらっしゃるのは、もしや奇微檀護きびだんごでは?是非とも一つ頂きたい」


桃太郎は傲然たる笑みを浮かべた。


「貴様、その行為の代償として俺に生涯平伏すことになると、分かったうえで言っているのだな……?ならば来い、今日から貴様も闇の陣営の一員……。俺の前で中途半端な覚悟を見せてくれるなよ……(訳:やーい引っかかったー!お前も鬼退治なー!)」


こうして仲間になった威怒いぬ叉瑠さる鬼死きじと共に、桃太郎は鬼ヶ島へと乗り込んだ。


鬼ヶ島は黒々とした邪悪な気に覆われた島だった。

あまりに空気が悪いので、動物はもちろん植物も一切生えず、ごつごつとした岩肌が表面に晒されていた。


桃太郎一行が島に降り立つと、数十匹を超える青鬼たちが身の丈ほどの金棒を片手に現れた。

その中でも一回り大きな青鬼が一歩前に出てきて、桃太郎たちに言い放った。


「愚かなり、愚かなり人間!このようなところまで身の程知らずに乗り込んでくるとは!ここは鬼たちの巣窟、貴様らのような非力な生物が我らに敵うはずが無かろう!」


しかし、青鬼たちはザコだったので数秒で全滅した。


「くっ……、まさかこれほどまでとは……!!貴様らほどの実力なら、倒せるやもしれん……。我らのボス、赤鬼を!」


青鬼が何か言っていたが、桃太郎たちは無視して先に進んだ。


最奥までくると、そこには凶悪な顔をした巨大な赤鬼が、こちらも巨大な黒い金棒を肩に担いで待ち構えていた。


「フッハッハ……。待ちくたびれたわ、人間どもが。強力な闇の力を持つ人間の男と魔獣三体が来たと、しもべから話は聞いている……。さあ、久しぶりにこの俺を楽しませてくれ……!」


赤鬼は強かった。桃太郎たちが攻撃しても傷一つつかなかった。


そこで、桃太郎たちは究極奥義を使うことにした。

まず、威怒が低いうなり声を上げて赤鬼に飛びかかった。


「究極奥義!餓狼真牙斬がろうしんがざん!」


ギラリと輝く鋭い牙が赤鬼にずぶりと深く突き刺さり、赤鬼は轟くような悲鳴を上げた。


次に、叉瑠がバッと両手を振り上げて飛びかかる。


「究極奥義!深爪疼痛掻ふかづめとうつうがき!」


叉瑠の木登りに適した短い爪が赤鬼の顔を掻き毟る。

赤鬼と叉瑠が同時に悲鳴を上げた。

深爪疼痛掻きは諸刃の剣なのだ。


そして鬼死が力強く羽ばたいた。


「究極奥義!嘴眼球穿めつぶし!」


鬼死の長く鋭いくちばしが容赦なく赤鬼の両目をえぐる。

赤鬼は両目を抑えてよろめいた。


桃太郎は堂々とした足取りで赤鬼の前に歩み出ると、自らの左目につけた眼帯に手を伸ばした。


「赤鬼、貴様は確かに震えるほどの闇の力の持ち主……。貴様はこの世界の覇者となっていただろう……この俺と出会わなかったらな。赤鬼、貴様の闇の力は俺には遠く及ばない……。ふっ。ようやく、この左目に秘められし力を開放する時が来たようだ……。あまりの威力ゆえに自分でも抑えることができず、今までこうして封印してきたこの力を……!」


桃太郎は眼帯を外した。

血のように赤い邪眼がその姿を現す。


「これでとどめだ……。究極奥義、漆黒と鮮血の眼光!」


カッ、と世にも不吉な光が赤鬼を貫いた。


「グアアアアア!」


赤鬼は恐ろしい悲鳴を上げて、とうとう地面に倒れ伏した。


「まさか……この赤鬼が、倒されるとは……」


赤鬼は行き絶え絶えの様子でなんとか顔を上げる。


「に、人間……名前を聞いておこう……」


「……ふっ……桃太郎だ……」


こうして桃太郎と威怒いぬ叉瑠さる鬼死きじは鬼たちから宝物を取り返し、意気揚々とおじいさんとおばあさんのところへ帰って行った。


旅を通して桃太郎の言語力が直るのではとささやかな希望を抱いていたおじいさんとおばあさんは、若干残念に思いつつも桃太郎たちの帰還を喜んだのであった。


めでたしめでたし。

はい、おふざけでした。申し訳ありません。

少し前に書いたものなのですが、完全に深夜のノリですね。

お付き合いいただきありがとうございました。

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