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苦手な方はご注意ください。

お焚き上げ小説集

なまけもの勇者の冒険譚

作者: ヨモギノコ


「お前はいつもダラダラしているな」


「働かなくて良い何って、羨ましい」


そう、私は昔から周りの人間に、『なまけもの』と呼ばれてきた。




     ~~~




『う・・・・・・・ん・・・・・・・』


どの位寝ていたのでしょうか?私は周りで響く、


ザシュッ


ザシュッ


と、何かを切り続ける音と微かに感じる空腹で目が覚めました。

この音は目覚まし代わりとしては不愉快極まりない物です。

ですが、ここ1ヶ月で聞きなれました。音の発生源も、もう解りきっています。


『・・・・・・・おはようございます、ル~くん』

「ん?あぁ、なぁさん。おはよ。と言っても、もう直ぐ夜だけどな」


私を背負ったまま、軽がると大きな剣を振るい犬の様な魔物を切り続ける彼はル~くん。

今現在居る場所は、夕闇に包まれた鬱蒼とした森の中。

ル~くんより魔物達のほうが有利な環境下であるはずなのに、ル~くんは傷1つ負っていませんし、息も乱れていません。

どのくらいの時間戦闘を続けているか解りませんが、何匹もの魔物を倒し続けているのに顔色1つ変えない彼は私をこの世界に呼んだ、今私たちが居るこの国の王様の3番目の息子。

早い話が王子様です。


『ル~くんは今日も魔物退治ですか。元気ですね~』

「『元気ですね~』って。それが俺たち勇者一行の役目でしょ?本来なら異世界から呼ばれた勇者である、なぁさんがやるべきことだ。本来の俺の役目は伝説の守護獣の捜索なんだぞ?」


そう、私は彼の父である国王、の命令で動いたある魔道師によって、1ヶ月前にこの世界に呼ばれた勇者なのです。


「もう、貴方をここには置いて置けないの」


1ヶ月前のあの日。私は今まで私を養ってくれて居た彼女に一言、たった一言。

そう言われ、この年になるまで1度も出た事の無い生まれ故郷を追い出されました。


『何でですか!?』


と鳴き叫ぶ私を無視して、彼女は今まで会った事の無い、見ず知らずの男に私を押し付け私の前から姿をけしました。

その後、私は男達の手によって薄暗いトラックの荷台に閉じ込められたのです。

最も信頼していた彼女に裏切られた。

その事実に、ただ、ただ、私は鳴く事しかできません。



このまま何処に連れて行かれるのか。




私はどうなってしまうのか。




この先、私は生きていけるのか。




もう、故郷には帰れない。




私を知るものは誰もいない。




不安しか有りません。

薄暗いトラックの荷台はその不安を増長させます。

その時の私が感じていたのは、不安と恐怖と絶望。

けして、明るい感情何って一欠けらも湧くわけがない!

そんな時、私はこの世界に召喚されたのです。



勇者として、この世界の脅威を打ち負かすために。



ですが、私は彼らの理想とする勇者像からかなりかけ離れていた様で、私を見た彼らは心底驚いていました。

それなのに、今私達が勇者一行として行動しているのは、自暴自棄になった私が、


『貴方達の望む通り、この世界の脅威をどうにかしましょう』


と言ったからです。

ですが、魔物と戦う何って無理です!

なにより、冷静になってよくよく考えれば私だけではこの世界を旅する事自体無理な話。

ル~くんはそんな私のサポ~トの為にこの旅の同行者に選ばれたのです。


元々ル~くんは“伝説の守護獣”と言う5匹の獣を探し、旅をしていました。

守護獣はこの世界の何処かで眠っている、世界の危機が訪れた時にだけ力を貸してくれる存在らしいです。

そんな重要な役目を持っている彼が、何故私と一緒に旅をしているのか。

それは、彼には他の誰にも無い特殊な才能と、この国屈指の剣の腕を持っている事が主な理由ですね。

他にも色々と細かい理由はあるみたいですが。

だから、ル~くんは守護獣捜索と平行しながら勇者一行の仲間として旅をしているのです。


それよりも今は、何時も言っているのに中々理解してくれないル~くんに、何度目かになる主張を言うのが先決です!


『何を言うんですか、ル~くん!!そんなル~くんのように動き回っていたら、私直ぐ死んでしまいますよ!!私とル~くんでは体の出来が違うんですからね!!』

「はいはい。解った、解った。解ったから、振り落とされないようしっかり掴まっていてください、ねっ!」


そう言ってル~くんは魔物の最後の1匹を切り裂きました。

周りにはただ、濡れた地面とその上に転がるキラキラした石だけで、ル~くんが切った魔物は何処にも居ません。

倒した魔物が消え、魔結晶と呼ばれる石になると言うのは目の前で起きても未だに信じられない現象です。

元の世界ではありえない事です。


「ふぅ、やっと片付いた」

『お疲れ様です、ル~くん。さぁ、ご飯にしましょう。私はお腹ペコペコで死んでしまいそうですよ!』

「解ったからなぁさん、そんなに急かすなって!何時も通りリンゴで良いんだろ?」

『はい!』


やっとご飯です!

もう、このまま餓死するのでは?と不安だったんですよ?

そんな私の気持ちなど露ほども気づかないル~くんは鞄から私の大好物のリンゴを取り出し、小さく切って渡してくれました。


『私は人参よりリンゴが好きなんです』


こうやって切ってリンゴを渡されると、よく彼女に言っていたのを思い出します。

それでも、彼女は好き嫌いはダメだ、と言いたげにリンゴと一緒に人参を持ってくるんですよ。

フフ、たった1ヶ月前の事なのに、懐かしいですね。


「それにしても、何時も思う事だけどさぁ。なぁさんはそんだけしか食わなくて本当に平気なのか?」

『はい、大丈夫ですよ?ル~くん達と違って、私は『えころじ~』な体していますから。寧ろ私はル~くんのその体にそんなにいっぱい食べ物が入るのが不思議でなりません。貴方の胃袋はブラックホ~ルですか?』

「ぶらっくほーるってのが何か知らないけど、この位普通だぞ?なぁさんから見たら大食いかも知れないけど」


私の何十倍もの食料をぺロリと平らげたル~くん。

やはり、どうしてあんなに燃費が悪いのか不思議でなりません。

あぁ、もう1つ不思議な事がありましたね。


『ル~くんにしては珍しいですね。あそこの木の影にもう1匹、魔物が居ますよ?あの子は倒さないんですか?』


少し離れた木の影に2足歩行のさっきの魔物が隠れています。

私でも気づいたんですから、ル~くんはとっくの昔に気づいているはず。

何時もなら直ぐにでも切り捨てるのに珍しいです。


「あぁ、良いの良いの。あれは魔物の毛皮を被った人間だから。警戒している感じはするけど、襲ってくる様子もないし、敵意も無いから盗賊じゃない。たぶん、近くの村の狩人だろ?」

『そうなんですか?』

「そうなんです。だろ?そこに隠れてる奴!!」

「!!」


ル~くんが大きくは無いのに良く通る声で隠れている方に尋ねます。

そのル~くんの声を聞いて隠れていた方が慌てて出てきました。

その方はどうやら女性のようで、彼女がよく眺めていた雑誌のモデルが着ていた様な、動きにくそうな白いドレスを着ていました。

ドレスも肘まである手袋も元々は純白だったんでしょうが、今はこの森を歩いていたせいなの汚れて灰色をしています。

ベ~ルとして被っているのは純白のレ~スを使ったものではなく、あの犬の魔物の毛皮。

アクセサリ~も魔物の牙や爪を使ったもので、裸足の足にはドレスに似つかわしくない途中で鎖の千切れた足枷。

これではまるで・・・・・・・・


「お願い!私達を助けて、助けて下さい!!このままじゃ、私達・・・・・・・・」


飛び出してきた女性はそのまま土下座し、涙を流しながらそう言った。その姿にル~くんは驚き、あたふたとと女性に声を掛けます。


「ま、待ってくれ!!えーと、えーと、なぁさん!!」

『そうですね。まずは、彼女を落ち着かせ、事情を聞くのが1番です。急に助けてくれと言われても、私達は何の事情を知りません。私達は一体何から貴女を助ければ良いのでしょうか?お話してくれませんか?』

「そ、そうだな。まずは、顔上げて。落ち着いて、話してくれないか?」


ル~くんはそう女性に声を掛け、ハンカチと共に手を差し伸べました。

ハッと顔を上げた真っ赤な目の彼女は、思ったよりも若くまだ少女の域を抜けていませんでした。

ル~くんともそう年は変わらないでしょう。

元の世界で言えば、中学生でも通用する位です。


「落ち着いた?」

「うん。ありがとう・・・・・・・」

「そう、それならよかった。俺はルークス。こっちは、なぁさん」

『初めまして、お嬢さん。貴方のお名前も伺ってもよろしいですか?』

「私はメリル。メリューって村の皆から呼ばれてるわ。えーと。さっきは取り乱して、ごめんね?」


メリルさんですか。では、私はメ~さんと呼ばせてもらいましょう。

私にはこの世界の人の名前は呼びにくいんですよ。


「メリューか。良い名前だな」

「ありがとう。ルークスもかっこいい名前だと思うよ」


そう言い合って何とも良い雰囲気になる、ル~くんとメ~さん。

2人とも恥ずかしそうに顔を赤くしています。


『ル~くん。彼女と仲良くなるのは良いことですが、本来の目的を忘れていませんか?まずは彼女の事情を聞かないといけませんよ?』

「わ、解ってるよ!」


軽くペタペタとル~くんを叩きながら言います。

私の抗議にル~くん慌てて、誤魔化すように咳払いしメ~さんに向き直りました。

まだ、ほんのりと顔が赤いです。


「それで、助けて欲しいって言ってたけど、何があったんだ?」

「うん。私はこの近くの村に住む魔法使いの見習いなの。私と師匠であるお姉ちゃんはその魔力の高さから、最近村の近くの洞窟に住みついた魔物の花嫁にされそうなの」

「魔物の花嫁だって!?」


その魔物はあの犬の魔物の親玉で、カ~メントと言う頭の半分以上を占める大顎が特徴的な犬の魔物だそうです。

メ~さんの話によると、件の洞窟は元々その村の守り神が住む神聖な洞窟でした。

ですが、魔物達が活発になった事で多くの犬の魔物を引き連れたカ~メントが、守り神を倒し洞窟を占領してしまいました。

そのせいで村は犬の魔物に蹂躙されてしまったそうです。

畑は荒らされ、家畜の殆どは食い殺され。

中には犬の魔物達に襲われ亡くなった方も居るそうです。

村の屈強な男達でも歯が立たず、村長は苦渋の決断をしました。


「それが、君達を花嫁にすることか」

「うん。魔物は魔力の高い娘を好むからって・・・・・・・『花嫁』何って言ってるけど、唯の生贄だよ・・・・・・・私はお姉ちゃんが助けてくれたから、逃げ出せたけど。お姉ちゃんはまだ・・・・・・・・・・このままだとお姉ちゃんは・・・・・・・・・・・・・・」


そう言ってまたワッと泣き出すメ~さん。


「こんな女の子を生贄に何って!!許せないぜ!」

『ですが、ル~くん。村の方にも何を犠牲にしても守りたい大切なものがあります。気持ちは解りますが、村の方を怒るのはお門違いですよ』

「だからってなぁさん!!」

『だから、私達がやる事はただ1つ。何時もの様に魔物退治ですよ』

「何時もの様にって事は、倒すのは俺なんだな」


当然じゃないですか!

私が魔物を倒す何って一生掛かっても無理ですよ。


『安心してください。私が引っ付いています。ル~くんが倒された時は、無駄な抵抗をせず極力痛みを感じないように死を受け入れます。私の命も掛かってるので、頑張ってください』

「そりゃぁ、心強い。大丈夫だ、メリュー。俺達がその魔物を倒してやるから!」

「ほ、本当に!?」

「あぁ。俺達は勇者一行だぜ?当然だろ?」


私とル~くんが頷くと、メ~さんは嬉しさのあまりル~くんに抱きつきました。

いやはや、本当にお2人は出会ったばかりとは思えないほど仲が良いですね。




     ~~~




「此処がその洞窟か・・・・・・・」

「うん。ここが守り神の洞窟」

『思っていたよりも広そうですね』


何時もどおり私を背負ったル~くんと、あのドレス姿では動きづらいからとル~くんの着替えの服を着たメ~さん。

明日の朝にはお姉さんが生贄にされるという事で、私達はメ~さんの案内の下、元守り神の、現魔物が占領する洞窟に来ました。

既に夜だからと言うのもありますが、洞窟は先が見えない闇に包まれています。


「今日は満月だって言うのに、中が見えないな」

「大丈夫、私に任せて!“光よ!!”」


メ~さんが手をかざしそう言うと、私達の頭上に蛍光灯の様に明るい光の玉が現れました。

まるで小さな太陽みたいです。


「まだ、こんなに小さな物しか出せないけど・・・・・・・・」

『十分ですよ、メ~さん』

「うん。これだけ明るければ、十分戦えるって!!」

「それなら、良かった」


役に立てて嬉しいと、花が咲いたようにメ~さんは微笑みました。

そんなメ~さんの笑顔を見てル~くんの顔がまた赤くなります。

そんな真っ赤な顔を悟られたくないのでしょう。


「早く行くぞ!」


とぶっきらぼうに言うと、ル~くんはドンドン洞窟を進んでいきます。

ル~くん、どんなに言葉で気にしてない風を装っても態度で丸解りですよ。

ほら、同じ側の手足が同時に出ていて、まるでロボットのようではありませんか。

こう言うのを人の世では微笑ましい光景と言うんでしょうね。


『やはり、ル~くんは可愛いですね』

「な、なぁさん!?何言って!!」

『ほら、確りしてください。敵さんのお出ましですよ?』

「チィッ!」


洞窟の奥から走ってきたのは5匹。

最近やっと大人になった位の実力も経験も無い、若い魔物です。

群れ内のヒエラルキ~が低い、雑用と言ったところでしょうか?

なめられたものですね。

貴方達ではル~くんには掠り傷1つ付けられませんよ?


「うおりゃぁああああああああああ!!」


剣を抜くと同時に1匹。

そのまま流れるように2匹目、3匹目、4匹目とル~くんは犬の魔物を倒していきます。

自分たちが思っていたよりも強いル~くんに、最後の1匹が尻尾を巻いて逃げ出そうとします。


『ナ、何ナンダ!!アノ人間ハ!!ハ、早クボスに知ラセナイト!!!』

『大変です、ル~くん!!あの魔物、仲間を呼ぶ気です!!』

「させるか!!!“カマイタチ!!!”」

 

魔法によってル~くんが放った斬撃が衝撃波の様な、名前の通りのカマイタチとなって洞窟の奥に駆け出した魔物を切り裂きます。

魔物は悲鳴を上げる暇も無く倒れました。


「フゥ・・・・・・・」

「す、凄い・・・・・・・ルークス、凄い!!」

「ありがとう、メリュー」


メ~さんがキラキラした目で、息を吐いたル~くんを見ます。


『さ、次の魔物が来る前に先に進みましょう』

「あぁ。早く親玉を倒さないと、その前に朝が来ちまうからな!!」

「う、うん!」


流石敵の住処。その後も、ドンドン魔物が現れ倒しても倒してもきりがありません。

でも、ル~くんの早切りのお陰で魔物達は増援を呼ぶ前に倒れていきます。

仲間を呼ばれ、洞窟内の魔物全員に囲まれるよりはましです。


「この先、守り神様が居た最奥だよ」

「今はカーメントの住処か」


・・・・・・・・・・・・・・・イ


・・・・・・・・・イ・・・・・・・・・


『ル~くん、メ~さん。待ってください。何か声が聞こえます』

「この唸り声の事か?」

『シ~、ですよ?』


最奥に入ろうとした所、バリ、バリ、グチャ、グチャと何かお貪る音と共に、微かな声が聞こえました。

私は2人に声を掛け、耳を澄まします。


『マズイ、マズイ、マズイ!!!!何ンテマズイ肉ダ!!!』



グォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!



「うっ!」

「きゃぁああ!!」


強風を起こすほどの雄たけび。

その雄たけびにル~くんとメ~さんが吹き飛ばされそうになります。

それにしても、酷い匂いですね。

強風に乗って漂ってきた、物と水が腐った匂いと鉄の匂いが混ざったような異臭。

この匂いで鼻がもげそうです。


『この先に居る者は何の肉を食べながら不味いと言ってるのでしょうか?』

「肉を食べている?・・・・・まさか!!」

「お姉ちゃん!!」

『メ~さん!!飛び出してはダメです!!』


予定より早く姉が生贄にされたと思ったのでしょう。

メ~さんが私の制止を振り切って最奥に飛び出していきました。


「なぁさん!俺達も行くぞ!!」

『はい!!』


メ~さんを追いかけ入った最奥は半分ほどが苔に覆われた清んだ泉で出来た広い部屋でした。

天井の1部は穴が開き、真ん丸な月が見えています。

その月明かりに照らされ、1匹のトラックほどの大きさの化け物が私達に背を向け何かを食べています。

濃い灰色の毛に覆われた体は他の犬の魔物と変わらない物でした。

ですが、その魔物を化け物と言わしめるのはそのバランスの悪い体の構造です。

まるで膨らませた風船の様に体の倍以上も大きな頭。

後ろからでも解る、普通の犬よりも裂けた大きな口はまさに巨大口のお化けと言う言葉がピッタリです。

人間であれなら口裂け女以上ですよ。

口が裂けすぎて首の皮一枚で繋がっているようでは在りませんか!!


「あれがカーメント・・・・・・・・・」

『何ダァ?』

「うっ・・・・・・」


私達の存在に気づいたカ~メントが振り向きます。

振り向く瞬間、強風に乗った良い上の悪臭が漂いました。

思わず、メ~さんとル~くんが口と鼻を押さえます。


『こんな生き物が居るとは、異世界は恐ろしいですね・・・・』


真っ赤に汚れた口と口のせいで顔に比べ小さな目と鼻。

振り返ったカ~メントは更にアンバンランスさを増長させます。

そんなカ~メントが食べていたのは人間では無く、


『ゲハ、ゲハ!人間ノ餓鬼カ。柔ラカクテ甘ソウダ。コンナ不味イ、出来損ナイノ餓鬼共ハ飽キ飽キシテイタ所ダ。美味ソウナ人間ガ自ラ俺様ニ喰ワレニ来タトハ、良イ心ガケジャナイカ!』


自分の子分であるはずの犬も魔物でした。

今まで食べていた犬の魔物をもう、興味がないと言わんばかりに適当に放り投げたカ~メント。

カ~メントは下品な笑い声を上げながら、舌なめずりしながら私達を見ます。


『私達は貴方に食べられに来た訳じゃない!貴方を倒すために着たんだ!!』

『アァ?俺様ヲ倒スダァ?・・・・・・・・・・・・ゲハ。ゲハハハハハハハハッ!!!面白イ冗談ダ!笑イガ止マラナイゼ!!』

『笑っていられるのも今の内ですよ?ル~くんの力、舐めないで下さい』


私がビシッと指差しながら言うと、またカ~メントは笑いました。


『人間如キ、何ガ出来ル!?アノ亀ヲ見ロ!!』

『亀?』

「なぁさん、亀ってあの泉の中央にある小島に倒れている?」

「あ、あれは守り神様!!?」


泉の小島には苔や花が生えた甲羅の一部を噛み砕かれた大きな亀がグッタリと倒れていました。

メ~さんの悲痛と驚きが混じった悲鳴からあの亀が村の守り神なんですね。

弱々しいですが、微かに動いている所を見るとまだ生きてはいるみたいです。


『伝説ノ守護獣トカ言ワレタ、コノ山ノ主ノ亀ノジジィヲ倒シタ俺様ヲ人間如キガ倒セルト思ッテルノカァ!?ア”ァ?』

『ル~くん。あの亀が君が探していた伝説の守護獣らしいですよ?』

「あれが!?」


やっと見つけた初めての守護獣があのような姿でル~くんはさぞ驚いた事でしょう。

ですがル~くんは直ぐにキリッとカ~メントを睨みつけ、剣に手をかけます。


『やる気満々ですね。ル~くん』

「勿論だぜ、なぁさん。さっさとアイツを倒してゆっくり守護獣と話をするぞ!!」

『はい。そうしましょう。守護獣を倒した貴方を倒せるかでしたっけ?えぇ、見ての通り思ってますよ。それが遺言ですか?何ともやられ役の様なセリフでは在りませんか!』

『ナ、何ダトォ?野郎共、サッサト来ネェト喰ッチマウゾ!!!』



ウヲォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!



カ~メントのビリビリと空気が振動するほどの大きな声の脅しに、洞窟中の犬の魔物が遠吠えで答えながら集まってきました。

彼らの目には、カ~メントに対する恐怖しか映し出されていません。

彼らはカ~メントに食べられたくない一心で我武者羅に襲って来ます。


「やああああ!!」

「“炎よ!!!”」


ですがやっぱり、この数でもル~くんの敵では在りません。

背後から襲うにも今日初めて会ったとは思えないほど息の合った良いタイミングでメ~さんがサポ~トします。

あっという間に犬の魔物は半分も減りました。


『オイ!!オメェラ、ヤル気アンノカァアアアアアアア?ソンナオ荷物背負ッタ人間如キニヤラレテェエエエ!!!ア”ァン!?ソンナニ俺様ノ腹ニ入リタイラシイナァ、オイ!!』

『ヒ、ヒィイイイイ』

『お荷物とは失礼ですね』


私もル~くんを全力でサポ~トしてるんですよ?

それなのに、ル~くんに背負われた私を見てカーメントが吼えます。

その声に犬の魔物達が怯え、その隙にル~くんは1度に何匹も倒して聞きます。


『コ、ノォオオ・・・・・・・・・・・・・・人間如キガ俺様ヲ舐メヤガッテェエエエエエ・・・・・・・・・・・・フザケンナァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』



グォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!


グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!


「グッ!」

「きゃぁ!」

『ル~くん!?メ~さん!!!?』

「ゲホ、ゲホッ!だ、大丈夫だ、なぁさん」


カ~メントの遠吠えによって犬の魔物共々ル~くんとメ~さんが飛ばされました。

飲み込んだ水を吐き出そうと、咳き込むル~くん。

メ~さんも息が荒いものの無事のようです。

2人共飛ばされた場所が泉の中だからこそ、水を飲んだだけで済んだみたいです。

これがもし、岩壁だったら。

あの犬の魔物の様に岩壁にめり込むほど思いっきりぶつかり、崩れた岩壁に埋もれペッチャンコだったでしょう。


「なぁさんは?」

『私は大丈夫・・・・・!!!ル~くん!!避けてください!!!』

「っ!!」


泉から上がろうとしたル~くん目掛け、カ~メントがその巨大な顎で地面を抉る様に突撃してきました。

間一髪ル~くんは避けれましたが、避けられなかった犬の魔物がカ~メントに土ごと食べられました。

カ~メントの口から絶望した弱々しい声が聞こえます。


『ボ、ボス・・・・・・ナ、何デ・・・・・・・・・』

『ウルセェ!ウルセェ!ウルセェエエエエエエエエエエ!!!!!』

『ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!』


牙の間から訪ねる部下をカ~メントは五月蝿いと言いながら噛み砕きました。

ゴリゴリと音を鳴らすカ~メントの口の間から、犬の魔物だった者の血と破片が凝れ落ちます。

それを見て逃げ出そうとする魔物も居ましたが、逃げ切る前にカ~メントに食われてしまいます。


『ムカツク、ムカツク、ムカツク!!!何故俺様ガ人間如キニイライラサセラレナイトイケナインダァ?フザケンナ、フザケンナ、フザケンナァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!』


全ての犬の魔物を食い殺したカ~メントは怒り一色に染まった目で私達を見ます。

泉から這い出したル~くんとメ~さんが武器を構え、カ~メントと向き直りまずがカ~メントはそんな事気にならないほど怒り狂っていました。

カ~メントはその巨大な頭を取れるんじゃないかと思うほど振り回しながら叫びます。


『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!オ前等ハ唯喰ッテ終ワルト思ウンジャァネェゾ!!!!!ジワジワ苦シメテ苦シメテ後悔ノ中、喰イ殺シテヤル!!!』

「グッ・・・・・・・・・・・・・・わぁああああああああ!!」

『ル~くん!!!ル~くん!!!』


突撃してきたカ~メントの攻撃を受け止めきれずル~くんが吹き飛ばされました。

私が何度も声を掛けてもル~くんは痛みに呻くだけで立ち上がれません。

それに、剣も別の場所に飛ばされて仕舞いました。

此れをチャンスと思ったカ~メントがル~くんを狙います。


「ルークス!!!この!!“水よ!!!!”」

『コンナ水ガ効クト思ウナ!!!』

「きゃぁ!!」


ル~くんのピンチを目の当たりにしたメ~さんが魔法で出した水の塊を投げつけます。

ですが、カ~メントには効果が無く、魔法の水は跳ね返されてしまいました。

ですが、


「此れでも喰らえ!!!」

『グワァ!!目、目ガァアアアア!!!』


メ~さんが作ってくれた隙のお陰でル~くんが無事立ち上がることが出来ました。

剣を拾ったル~くんはカ~メントの目に向かって土を投げつけます。

目潰しが成功し、カ~メントは私達の姿を上手く捉えることができません。

今の内に、とカ~メントから距離をとった私達。

今の所は何とか立っていられますが、ル~くんもメ~さんも傷だらけでフラフラです。

何時動けなくなっても可笑しくありません!!


「・・・・・・・・・・・なぁさん。なぁさんは、メリューと一緒に守護獣の所に向かってくれないか?」

『・・・・・・・良いんですか、ル~くん?』

「雑魚は兎も角、今の俺たちじゃカーメントは倒せそうにない。だから、守護獣の力を借りる。頼めるか、なぁさん?」

『・・・・・・解りました。傷薬を幾つか頂いていきますね?』

「あぁ」


ル~くんは頷くと鞄から傷薬の瓶を幾つか取り出すと、握らせてくれました。

その内1つは自分で、もう1つはメ~さんに使います。


『ル~くん、私が居ないのだから無茶はしないで下さい』

「あぁ。・・・・・・・・メリュー、なぁさんを守護獣の所に連れて行ってくれ」


ル~くんはメ~さんの目を真っ直ぐ見つめながら、私を渡しました。

突然の事に、唖然としていたメ~さんは慌ててル~くんに尋ねます。


「ルークス!?この子を守り神様のとこに連れて行けって、どうして!!?」

「なぁさんは・・・・・・・・・・・・・・自分が抱きついた相手の能力を大幅に上げる力があるんだ」


私がこの世界に呼ばれ手に入れた勇者の力、“抱きついた相手の能力を大幅に上げる”と言うもの。

私自身は何の戦うすべを持っていませんが、この力のお陰でル~くんのサポ~トは出来ます。

元々身体能力の高いル~くんですから、私と一緒ならまさに一騎当千!

連戦連勝、向かうところ敵なし!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だったんですけどね。

流石に此処まで来ると、敵さんも強い方ばかりです。

此処まで押されるル~くんは始めてみました。


「俺がこんだけ戦えたのはなぁさんのお陰なんだよ。実際俺だけの力はかなり弱いんだぜ?だから、何時もなぁさんを背負っていた」

「え、えぇえええ!?」


弱いだなんって。

ル~くんは十分強いですよ。

私が居なくても国屈指の剣士じゃないですか。

もっと自信持ってくださいよ。

そう、何時も言ってるのに、ル~くんは謙虚すぎます。


「でも、本当に?そんな力を持つ生き物何って聞いた事無いよ!?」

「そりゃぁ、なぁさんはこの世界の奴じゃないからな。なぁさんこそ、異世界から来た勇者様なんだぜ?」

「えぇ!!!ルークスが勇者様じゃないの!?」


あぁ、やはり、ル~くんを勇者だと思っていたんですね。

よくある事です。

何処をどう見てもル~くんの方が、“理想の勇者様”ですよね。

私は根本的に皆さんの勇者象からかけ離れていますから、間違えられるのは無理もないです。


「違う違う。なぁさんが、勇者。俺は唯の剣士」

『ル~くん、嘘は良くありませんよ。ル~くんはこの国の王子様なんですから唯の剣士じゃないでしょ?』

「う、嘘!!こんな・・・・・・・・・・」


メ~さんが見開いた目で私を見ます。

顔全体で信じられないと語っています。

信じられなくても、事実なんですよ。

そんなメ~さんの口から耐え切れなかったように驚愕の悲鳴が溢れ出しました。


「こんな、手足の長いサルみたいな動物が!!!!?」

『サルさんではなくナマケモノです』


はい、同じ哺乳類ではありますが、私は人間ではありません。

人間が考えた種族としての名前はナマケモノ。

人間の勇者を呼び出そうとして、この世界の方は人間とは全く違う種族の私を呼び出してしまったのです。

人間ではない時点で彼らの勇者像から程遠いですし、驚くなと言うのは到底無理な話ですね。


それにしても、“ナマケモノ”と言う名前は酷いと思いませんか?

確かに、無駄に動き回る人間からしたら、私達は怠けているように見えるかもしれませんが、怠けた事何ってないのに“ナマケモノ”なんって不名誉な名前を付けられています。

唯私達は、無駄な事をしないだけなんです。

他の動物達よりもゆっくりなのは、生き残るためにご先祖様が選んだ進化の結果がそうだっただけです!!

けして、怠け者何かではありませんよ!!!


「勇者様が人間じゃない・・・・・?」

『はい、見ての通り私は人間では在りません。でも、これでも一応勇者です』

「なぁさん、自分で一応とか言うなよ?でも、やっぱ驚くよな。勇者を召喚したらなぁさんが現れて、俺たちも驚いたよ」

『はい。驚かれましたね』

「・・・・・・ずっと聞きたかったんだ。もしかして、ルークスはなぁさんと話せるの?」

「あぁ、話せる」


ル~くんの特殊な才能。

それは生まれつき人間以外の動物ともお互いの言葉が解る事です。

流石に私みたいに魔物の言葉までは解らないみたいですが。

だからこそ、守護獣の捜索と私の旅の同行者に選ばれたのです。

他の人間の方には私の言葉は唯の鳴き声にしか聞こえませんからね。


「さて、おしゃべりはここまで。アイツは俺が引き付けておくから、守護獣は任せたぞ、なぁさん!メリュー!」

『ックソォオオオ。オ前等、ヨクモォオオオオ・・・・・・・』


目に入った土が取れたカ~メントが、真っ赤になった涙目で私達を睨みます。

それに気づいたル~くんが剣を構えました。

私が抱きついて能力を上げても、あんなにボロボロにされたんです。

ル~くん1人で大丈夫かやはり不安になりました。

それはメ~さんも思っている事で、不安そうな目でル~くんを見つめています。

そんな私達の不安を取り払うように、ル~くんがカ~メントから目を離さず私とメ~さんに声を掛けました。

大丈夫です、ル~くん。

ちゃんとやるべき事はやり遂げます。


『メ~さん、ル~くんの為にも早急に私たちは私たちのやるべき事をやりましょう?』

「えーと、ルークス。なぁさん、凄く鳴いてるけど・・・・・」

「急いでやるべき事をやろうってさ。・・・・・・・・・・・メリュー、頼りにしてるよ。カーメント!!お前の相手は俺だ!!!」

『オ前1匹デ俺様ヲ倒ソウ何ザ、片腹痛イワ!!!!』


私達の方にカ~メントが来ないよう、ル~くんはカ~メントを挑発しながら剣を突き立てます。

完全に治っていない傷も原因ですが、やはり私が居た時よりもスピ~ドも剣の威力も落ちています。

思っていたよりも危険な状況です。


「ルークス・・・・・・・・・・解った、私急ぐから!待ってて!!なぁさん、行くよ!!」

『はい!』


覚悟を決めたメ~さんが気合を入れるように私に声を掛けます。

私はそれに答えるように、大きな声で鳴き頷きました。

私を背負ったメ~さんが泉に飛び込みます。

メ~さんは物語に出てくる、あの人魚の様にスイスイ泳ぐと、あっという間に小島についてしまいました。


「す、凄い・・・・・・・こんなに速く泳げたの初めて・・・・・・これがなぁさんの力?」

『えぇ、そうです。ですが、今は守護獣さんの下へ!!!』

「そうだ。驚いている場合じゃない!」


私の言葉が解らないメ~さんに、必死居に守護獣さんを指差します。

そんな私を見たメ~さんは、ハッとして守護獣さんのもとに駆け寄りました。


「守り神様!!!」

『う・・・・・あ・・・・・』

『確りしてください!!今、助けますから!』


メ~さんに蓋を開けて貰った傷薬を抱きしめるように持って、守護獣さんに掛けます。

何とか私の能力で、効果が倍増した傷薬のお陰で守護獣さんの怪我は奇麗になりました。


『うぅ・・・・・・・・・君・・・・達は?』

『私は異世界から呼ばれた勇者です。名前はなぁさんと言います。彼女は貴方が守ってきた、村の娘です。突然で申し訳ありませんが、時間がないのです。守護獣さん、どうか私達に力を貸してくれませんか?この世界を、いえ、貴方が守る森と村を守る為にも!!一緒に戦ってください!!!』


私が離れたル~くんはドンドンカ~メントに追い詰められています。

今はカ~メントが宣言したようにル~くんを苦しめる事に重点を置いてるようです。

ル~くんが死なない、でも辛く、痛く、苦しむようにジワリジワリ攻撃しています。

ですが、何時殺されても可笑しくない。

守護獣さんも怪我が治ったばっかりで、本調子じゃない事はわかっています。

ですが、このままじゃル~くんがっ!!!


『おぬしが今代の勇者か・・・・・・・・・・良いだろう。傷を治してもらった恩もある。貴殿に力を貸そう!!!』

『ありがとうございます!!!行きますよ、守護獣さん!!』

『あぁ!“出でよ水龍!”』


私が守護獣さんの甲羅に乗ると、守護獣さんは目をカッと見開き立ち上がります。

そして呪文を唱えると、爆発したように泉から何本もの水柱が上がり、その水柱全てが呪文どおり東洋龍の形になりました。

清んだ水で出来た龍は鏡のようで泉の碧と月の光を反射し、神秘的にキラキラ輝いています。

こんな状況で無ければ見惚れていた事でしょう。


『カーメントォオオオオオオオオオオオオ!!!!』

『ナ!!?此レハ!!何デ俺ニヤラレタオ前ガ立チ上ガッテイル!!!?』

『この前と同じだと思うな!!これ以上お前の好きにはさせない!!!“水龍よ、我が敵を打ち破れ!!”』

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!』


守護獣さんの言葉で弾丸の様な速さで龍がカ~メントを襲います。

その威力の強力さはあのカ~メントを吹き飛ばし、彼が吹き飛ばした犬の魔物達と同じにしたと言えば分かって頂けるでしょう。


『グゥ・・・・・ウ・・・・』

「守り神様!!?」

『守護獣さん!?』


全ての龍を飛ばし終わった途端、守護獣さんが倒れてしまいました。

ゼイ、ゼイ、と荒い息を繰り返し、辛そうです。


『ゼェ・・・・・ゼェ・・・・・・・年は取りたくない物だな。たった此れだけの魔法で息を切らすとは・・・・』

『十分、凄い魔法でしたよ』


今までに出合った人間の魔法使いでは、あれほどの龍を生み出し、操る事何って出来ませんでしたから。


「なぁさん!!」

『ル~くん!!良かった、無事でしたか』


カ~メントが土壁に埋もれた事で、ル~くんが小島に来ました。

勿論だと言いたげにニカッと笑うル~くん。

確かに怪我をしていますが、元気そうで安心しました。


『我はもう、動けそうに無い。だから、今代の勇者よ。貴殿に我の力を授けよう』

『・・・・・・・ありがとうございます。ですが、私の種族は元々闘うすべを持っていません』


(野生)で暮らすナマケモノの身を守るずべは、木にカモフラ~ジュして隠れると言うもの。

この爪も、誰かを傷つける為の物ではなく、木にぶら下がる為の物です。

元々私達に戦う術はありません。

人間の手で、動物園で安全に育った私は尚の事。


『そのお力は私ではなく、ル~くんに授けて欲しい』


とお願いすると、守護獣さんは、


『問題ない!』


と言います。

その言葉と共に甲羅に生えた鮮やかで大きな青い花から1つの光が現れ、私の腕に当たりました。

私の腕に当たった光は強烈に輝き、光が収まった時私の腕には蔓草と小さな青い花で出来た腕輪が巻きついていました。

蔓は泉を反映した様な深い、深い、碧。

花は中心が雪か雲の様な純白で、周りが晴れた真昼の空か海の様な透き通るような青い花弁で出来た。

近い物だとネモフィラの様な姿をしています。


『美しいですね・・・・・』

『気に入って貰えたのなら何よりだ。貴殿の能力に我の能力を上乗せさせた。やり方は、貴殿ならもう解るな?』

『はい、ありがとうございます。・・・・・・・・・・・・ル~くん。まだ戦えますか?』

「勿論だ、なぁさん」


守護獣さんの甲羅から何時ものル~くんの背中に移動します。

その道中、カ~メントが埋もれた土壁が振るえ、土が四方八方に吹き飛びました。

中から出てきたカ~メントは首を振って頭に乗った土を落とすと、ブツブツ何か呟きました。


『ドイツモコイツモ・・・・・・ドイツモコイツモ・・・・・ドイツモコイツモォオオオオオオオオオ!!!!!!!ソンナニ俺様ニ殺サレタイミタイダナァ!!?2度ト立チ上ガレナイ様噛ミ砕イテ噛ミ砕イテ噛ミ砕イテバラバラニシテヤラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!』


フラフラしながらも吼えるカ~メント。

その叫びに答えるように体から不気味な真っ黒いオ~ラが溢れ出し、カ~メントを包み込みました。

それによってボコボコと音を立てながらカ~メントの折れた歯が抜けて、今までの歯より鋭く太い歯がビッシリと生えてきます。

頭に比べ小さかった体も少し大きくなりました。

いえ、大きくなったというよりは、急激に筋肉が増えたと言うべきでしょうか?



グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!



そう吼えながら駆け出したカ・メントはあの巨体からは想像できないスピ~ドでした。

あのスピ~ドでぶつかられたら私達はカ~メントの言ったとおりバラバラになるでしょう。

ですが、カ~メントが突っ込み続けているのは私達と関係ない岩の塊ばかりです。


『殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス!!殺シテヤルゥウウウウウウウ!!!!!!!ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!』

『どうやら、怒りのあまり理性まで飛んでしまったようですね。では、守護獣さん。早速力を使わせてもらいます。ル~くん、少し剣をこちらに向けてください。今のままだと少し手が届きませんので』

「え?わ、解った」

『“水の花さん、お願いします”』


私がそう言うと、腕輪の花から小さな光の粒が花粉の様に出てきました。

それを確認し、私はル~くんが近づけてくれた剣の刃の部分を腕輪をした方の手でポンポンと叩きます。

剣に光の花粉が付くと、剣が白青色の光に包まれ姿がが変わっていきました。


「此れは・・・・・・」

『氷の剣ですね』


光が収まったル~くんの剣は薄いガラスか、澄み切った水で作った氷の様に透明な刃の白青色の剣になっていました。

剣はほんのり冷気を帯び、見た目と合間って“氷の剣”と言う言葉がピッタリです。

此れが、守護獣さんから頂いた力。

私が抱きついている相手の武器を一時的に、“魔法の武器”に強化する力です。

ル~くんが軽く剣を振るうと、目の前にあった泉が氷道ができました。


「凄いな・・・・・・これならあいつを倒せるな!」

『はい!』


ル~くんが氷の道を駆けながらカ~メントに向かい“カマイタチ”の魔法を掛けた剣を振るいました。

斬撃がカ~メントを切り裂くと同時に、その傷口を中心にカ~メントの体が凍って行きます。

唯の“カマイタチ”の魔法もこの剣を使うと、相手を凍りつかせる事ができるのです。


『グ・・・・・・・・ガ・・・・・・・ァアア・・・・・・・』


自身の血すら凍りつ様斬撃。

そうだと言うのに、カ~メントはまだ動きます。

その執念、敵ながら天晴れ!

ですが、私もル~くん手を緩めはつもりは毛頭ありません。


「負けないで、ルークス!!!」

「これで!止めだぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


メ~さんの祈りを込めた声援に押される様に、ル~くんは飛び上がりカ~メントを一刀両断しました。

凍りついたカ~メントはル~くんの攻撃でバラバラに砕け散ります。

いつの間にか登った朝日に照らされ、カ~メントの破片はキラキラ煌きながら溶ける様に消えていきます。

残ったのは大きな魔結晶が1つ。

それとそのカ~メントの魔結晶の周りには、カ~メントに食べられた犬も魔物の魔結晶が散らばっています。


「終わったの?」

「あぁ」

「私達、助かったの?」

「勿論」


メ~さんの呟きにル~くんが答えます。

カ~メントを倒し、自分達姉妹も故郷の村も助かった事を理解し、メ~さんの目に涙が浮かびました。

その涙を漏らさせたのはル~くんでは無く、


「メリル!!!」

「お姉ちゃん!!!」


村の方と共に来たメ~さんのお姉さんです。

お姉さんに抱きついたメ~さんは嬉しさのあまり大声で、


「良かった。良かったよ~」

と良いながら大粒の涙を流します。


「こ、これは一体・・・・・・・」

「メリュー、あの犬の魔物は!?カーメントはどうした!?」

「ルークスとなぁさんが・・・・・・・・勇者様が助けてくれたのよ!」

「勇者様が!!?」


メ~さんの言葉を聞いた村の方が私とル~くんを見ます。

ですが、私達もう限界なんです。

ル~くんは一晩中戦っていたせで。

私は元々、沢山眠る種族なので眠気と疲れがピ~クなんです。

今日は長く起き過ぎました。

お休みなさい・・・・・・・・・・・・・・・




     ~~~




「もう、行ってしまうんですか?」

『はい、長い間お世話になってしまいましたから』

「お陰で傷も治ったし、俺達の旅は急ぎだからな」


カ~メントを倒して、数日。

ル~くんの傷が癒えるまでお世話になったメ~さんの村を旅立つ事にしました。


「早くしないと、潮の流れが変わってしまうんだ」

『そうなったらこの村の守護獣さんに聞いた、他の守護獣さんの住処に行けなくなってしまいます』


亀の守護獣さんも他の守護獣さんの居場所は1匹しか知りませんでした。

頑張ればテレパシ~の様な魔法で他の守護獣さん達と連絡を取れるそうですが、まだ傷と疲労が癒えず今は無理なそうです。

今も亀の守護獣さんはあの洞窟の奥で深い眠りについて体を癒しているところです。

亀の守護獣さんの話ではその他の守護獣さんは、


『今も同じ場所に住んでいるのならここから南西にある、ある無人島に住んでいるはずだ』


と、教えていただきました。

地図で調べた所、その島は普段潮の流れによって大きな渦がほぼ1年中発生しているのだとか。

今が丁度渦のなくなる時期。

この時期を逃せば、また1年待たないといけません。

ラスボスさんがそこまで待ってくれる訳ありませんよね?

だから私達は急いでいるのです。


「そうですか・・・・・お役目が終わったら、またいらっしゃって下さい。あの子も待っていますから」


そう言って少し寂しそうに言うメ~さんのお姉さん。

メ~さんのお姉さんを含め、村の方全員が見送りに着てくれましたが、メ~さんの姿だけは見えません。

昨日、私達が村を発つ言ってから部屋に篭って出てこないそうです。


「ごめんなさい。メリルにも見送りさせようとしたんですけど・・・・・」

「あんた等が居なくなるのが寂しいんだろ。きっと泣いてる顔見せたくないんだ」

『いえ、お気になさらず。私は気にしていませんから。誰だって、中の良い人と別れるのは寂しいものです』


私は兎も角、ル~くんはとても寂しそうです。

頑張って顔に出さないようにしていますが、チラチラと村の方を見ているのでバレバレです。


『さ。そろそろ行きましょ、ル~くん。皆さん、お世話になりました』

「あぁ・・・・・お世話になりました!」

「はい。勇者様達の旅が無事に終わる事を祈っています」


時間が無い事は解っていても後ろ髪を引かれる、ル~くんを急かし村を後にします。

ル~くんには申し訳ありませんが、メ~さんにもう1度会うのは次にこの村に訪れた時にしましょう。













     ~~~












「行っちゃいましたね・・・・・」

「あぁ・・・・・」

「あぁ!!!間に合わなかったー!!」


ルークスとなぁさんの姿がはるか遠くに小さく写る程度になった頃、メリルは村人の集まる村の入り口に着いた。


「ううん。今から走れば、間に合うよね!」

「走ればって・・・・・・・メリル、勇者様はもう・・・・・・って。あなた、その荷物どうしたの!?」


姉が驚いたとおり、メリルは大きなリュックを背負っていた。


「私、ルークス達に着いて行く!!」

「えぇ!!?あなた、何言って・・・・・・」


どうやら、メリルは昨日1人と1匹が村を出ると言ったのを聞いて、一緒に着いて行く為に荷造りしていたようだ。

だが、荷造りに思いの他時間がかかり、遅れてしまったらしい。


「じゃぁ、行ってきます!!!」

「メリル!!?」

「待て、メリュー!?」


それだけ言うとメリルは驚く姉や村の大人の制止を振り切って、ルークスとなぁさんを追いかけ駆け出した。





                                           END


















   ~登場キャラクター補足~


・なぁさん

主人公。フタユビナマケモノのオス。生まれも育ちも動物園の檻入り息子。

生まれ故郷の小さな動物園がこの不景気で閉園し、他の動物園に移されている最中異世界に勇者として召喚された。

生まれた時から飼育員さんのお世話になっているので人間かぶれで、見た目に反して頭は良い方。

勇者として召喚された事で、“共生”と言う自分が抱きついた相手の身体能力や魔法の威力を上げる力を手に入れた。


・ルークス

もう1人の主人公。なぁさんを召喚した国の第3王子。

生まれつき、人間以外の動物とも意思の疎通が出来る能力を持っている。

その能力から守護獣との交渉役として旅をしていたが、ナマケモノ勇者のなぁさんの通訳としてなぁさんと一緒に旅をする事になった。

兄達に比べ華奢な体で童顔なのを気にしている。そのせいで、なぁさんが居なくてもかなり強いのに自信が持てづにいる。


・メリル

ヒロイン。ルークスに恋する少女。

姉と共に魔物に生贄にされそうになっていた所を、ルークスとなぁさんに助けられる。

幼い頃両親と死別し、魔法使いの姉に育てられた。

姉に憧れ魔法使いを目指すが、まだまだ魔法は上手くない。

だが姉からは、潜在能力は高いと評価されている事を本人は知らない。


・彼女

なぁさんの故郷の動物園でナマケモノ担当だった飼育員の女性。

なぁさんの名付け親でもあり、ナマケモノの中ではなぁさんと1番仲が良い。

異世界に召喚されたなぁさんの事を『別の動物園に運んでいる途中でトラックからナマケモノが脱走して、そのまま行方不明』と思って心配している頃。


この作品は、動画サイトでナマケモノを見ていて癒された時、唐突に思いつきました。


『ナマケモノって可愛いよね!?勇者として冒険してたらきっと皆癒されて平和になるはず!』


と言う思いから生まれた物です。

なのに書いている内に何故かバトルがメインに・・・・・・・・・


思いついたときは、連載で書こうと思ってこの前後の話も考えていました。

この後の展開としては、


どんな魔法も直ぐに覚えて使ってしまうカラスとか、


飛行機や飛行船を優雅に操縦するペンギンとか、


大きな海賊船の船長なラッコとか、


伝説の戦士を洗うアライグマとか、


ラスボスが強くなった原因である、ラスボスの肩に乗ってるハムスターやリスの様な小動物とか、


が登場する展開を妄想だけはしています。

ですが、この展開を文章と言う形に出来そうにないので、続きを書くのは諦めました。

が、途中まで書いてこのままと言うのも勿体無かったので、今回短編と言う形で投稿させていただきました。


後書き含め長々としたこの話を、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。



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