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オタぼっち、恋をする 狐系男子でも青春ラブコメを送れる方法はありますか?  作者: 如何屋サイと
本編

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14/34

12 兄がお世話になってます

 それからずっとサニの背中にぴったり付いて歩いた。

「服引っ張らないでよ。だんだん襟が上がってきて苦しいんだよ?」

「で、でも……」

 校門の前に着く。

 顔さえ見られなければ、服装はいつもの黒一色。

 誰も気にかけない路傍の石になりきれる。

「しょうがないなぁ。手、つなごっか?」

 くるっと振り向いて、ビンゴの手を両手で包む。

 小さくて柔らかくて温かい。

 ビンゴはサニが腹の底でほくそ笑んでいるのだろうと考えた。

(おいおい、俺がお前と手をつなぐのを恥ずかしがると思ったか? 普通に恥ずかしいわ!)

 手を繋げない代わりにジャケットの袖をつまんで校門をくぐった。

 視線が気になるのでビンゴはずっと下を向いていた。

 ビンゴに見えているのは校庭、下駄箱のすのこ、ヒビだらけのタイルの廊下。

 サニが立ち止まって挨拶をする。

 話題は隣の美少女について。

 ビンゴのことだった。

「佐仁川の友達? かわいーねぇ」

 サニとよくつるんでいる女子の一人だ。

 花柄スカルTシャツを着てパンクな装いをしている。ビンゴは密かに花髑髏と呼んでいた。

「かわいいの言い方おっさんかよ。で、マジで誰なん?」

 隣でサニとよくつるむ女子その二。

 ショーパンデニム&タイツ、チェック柄の上着だけど化粧とネイルが派手だ。聞いた話だが、上着のチェック柄は大きな胸を隠すためのダズル迷彩らしい。

 狩りてきた猫のようになったビンゴはつま先が輪の外を向いた。

「サ、サニ。俺、帰る……」

 教室に入らないで帰ろうとしたら、サニがビンゴのリュックをがっちり掴んで離さない。

「ダメ。ちゃんと自己紹介して。じゃないと仲間、作れないよ?」

(仲間……、サニは確かにそう言ったよな? つまり、お前はお前なりに俺を応援してるのか?)

 気が付いた途端に、帰ろうとした自分が情けなくなって、ビンゴは長い溜め息をついた。

(って待てよ? 自己紹介って言っても、紹介するほどの自己がないんだが……)

「え、えっと……。備後です……」

 あるのは名前くらいだった。

「ちゃんと名前を言えたね!」

 サニが嬉しそうに背中を優しくとんと叩く。

 サニの友達がビンゴの自己紹介を聞いて、二人で顔を見合わせた。「備後ってクラスにいたっしょ」と花髑髏が思い出したように言う。「いたいた。珍しい名字だしあたし覚えてるよ。あ、もしかして妹?」とダズル迷彩が尋ねた。

 何も返事をしていないと、二人が勝手にビンゴをビンゴの妹だと勘違いし始める。

 二人が騒いでいると少しずつ人が集まってきた。「あいつの妹、めっちゃかわいいじゃん!」「てか、あの人って謎が多いよね」「そういえばちゃんと顔を見たことなかったかも」という声がちらほらと聞こえる。

(ど、どうしよう。俺がその妹の兄なんだと言いづらい……)

 サニの後ろに隠れようとしたが、サニがそうさせてくれなかった。それどころかビンゴを人だかりに押し出す始末だ。

「え、えっと」

 人混みの先頭にいた女子生徒が名前を再び訊いてきた。

 ビンゴは後ろのサニに助けを請うが、ニシシと笑うだけ。完全におもしろがっている。

(また嵌められたのか!? 人が目標を失って傷心してるのに関わらず! 見返してやる。見返してやるならいっそ)

「俺……、いや、わ、わたしは備後千影です。いつも、あ……、兄がお世話になってます」

 コクリと頭を下げる。

 しん、と静まり返った。

(……………………)

 しばしの静寂の後、わっと盛り上がる。

 口々に「あの根暗キャラにこんな可愛い妹が!」とか「ねぇねぇ今日はどうして学校にきたの!?」とか、挙句の果てに「いっそ授業受けてく?」やら「このまま入れ替わっちゃいなよ!」やら言われる次第だった。

 頭を下げたまま、ビンゴは冷や汗を滝のように流していた。

(通じた!? 妹で通じちゃったよ!? 俺、男なのに……!!)

 ハイテンションのクラスメイトに案内されて、教室のいつもの机に座る。兄の席として紹介された。

 次には質問攻めが来る。

 ビンゴは「あとでちゃんと答えるので……」とメモ用紙を取り出した。

 かわいいのに真面目というギャップがウケる。質問する人が増えた。

 どんどん質問をメモしていく。

 出身地、趣味、親の旧姓は? 夢、好きな料理、どんな音楽を聴くのか、卒業した小学校は? 好きな動物、昔飼ってたペットの名前は? 初めて行った外国は?

「あれ? ちょっとまって、誰か、パスワードを忘れた時の秘密の質問を破ろうとしてる人がいますよね!?」

 そう突っ込むと女子たちが男子を追放した。

 ビンゴが答えなくても周囲が勝手に思い込み、ビンゴが曖昧な答えしか返さないことも相まってあたかもそれが本当のことであるかのように教室に浸透していった。

 気がつくと始業式に出席し、体育館から教室へ移動する間にもたくさんのクラスメイトにたくさん話しかけられる。

 教室に戻った時、一部始終を眺めていたサニは安堵の表情を浮かべた。

 定位置のようにその隣に収まるトーノはどこか不機嫌そうにビンゴを観察する。いつものサニ愛もなく、つんとした顔をしているが、黙っている分にはおそろしいほどに美人である。

 いつしかクラスの話題は春に控えた修学旅行についてに切り替わっていた。すると、トーノが教壇に立つ。全員の視線を集めて動じることなく、トーノは口を開いた。

「では、冬休み前に話したように、これから修学旅行の班決めをします。二日目の自由行動の班決めです。先生からはクラスで六班作るように言われているので、うちのクラスは……、六人ずつのグループになりますね」

 トーノは修学旅行の実行委員だった。黒板に白いチョークで六つのマスを作った。

(マジかよ……。完全に忘れてた。グループ作るとか無理ゲーにも程があんだろ)

 二人組よりはマシ、と思いつつも、このクラスで話せる相手はコタローくらいだった。しかし、コタローは同類とは言え、運動部の男女とよく話している。ビンゴだけが友達というわけではないのだ。

(体育会系のノリにはついていけないけど、その分いじられずに済むか……)

 ビンゴの気持ちはコタローと同じ班になれれば良い、という方向で固まりつつあった。

「班ができたところから名前を書くのをお願いします。全部の班が決まるまで帰らないでくださいね?」

 にこりと微笑むと男子たちが照れた顔をする。

 その間にも女子たちの間ではグループができていた。トーノは誰よりも先にサニと同じグループになったようだ。

 二人組と三人組がどんどん出来ていく反面、ビンゴは男子の輪の中から外れた教室の片隅にいた。

 それも当然、今日のビンゴは妹の千影なのである。

 コタローもまた男子たちの輪の中にいて、当初の目論見は完全に外れた。

(まずいな。妹なんて嘘をつくんじゃなかった)

 ちょっとチヤホヤされたからって調子に乗った数分前の自分を助走をつけて殴りたかった。

 自己嫌悪に陥っていると、ビンゴの傍らにコタローがやってくる。教室の端までたったの三歩だ。

 ビンゴは嬉しくなってコタローを見上げ、今日は髪を上げていたことに気づく。通常は顔を隠しているので、どうしてもにじみ出てしまう笑みのごまかし方がよく分からなかった。

「ええと、ほんとに千影さん? だったら久しぶり……」

「ばっ馬鹿。俺だよ。本物の千影は母さんと住んでる」

 ビンゴは目を丸くしてコタローを見た。

「なんで俺に双子の妹がいることを知ってるんだよ」

「えっ、オレたち旧友じゃなかったの!?」

(そういえば入学した時にも同じこと言ってたな)

 不審そうにコタローを睨む。普段なら無頓着なコタローが作り笑いを返した。

(へぇ。顔を見せてると、こいつもこんな反応するのか)

 視線に耐えかねたコタローが観念したように口を開く。

「ビンゴ、同じ班にならない?」

(キ、キター! ってダメだダメだ! 嬉しそうにしたら格好悪いだろっ)

「……いいの?」

 目をうるうるさせる様は完全に乙女の振る舞いだった。

 コタローは目のやり場に困ったのか、スマートフォンを取り出して無言で画面をビンゴに突きつける。

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