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第7話 モンスター肉

「…………はい?」


 椎野七海。

 彼女はそう名乗った。

 そこまでは良しとしよう。

 問題は後半のセリフだ。

 コクレンというのが何の組織かは皆目わからないが、この黒髪黒目の女の子はどうやら軍属らしい。

 10代後半と思しき可憐な外見からは想像もつかない。

 彼女の国ではこんな若い女の子でも戦争に駆り出されるのか?


「だから、椎野七海。

 所属については気にしないで。一応、学生もやってるし」


「はあ……」


 どう返答していいかわからず、沈黙してしまう。

 そもそもコミュニケーション能力なんて皆無なのに、謎の軍隊に所属する美少女曹長というハードモードを相手にして、ぽんぽん気の利いた会話なんてできるはずもない。

 内心焦りまくりの僕の沈黙など何処吹く風と言わんばかりに、彼女は落ち着いた様子で僕の目をじっと見ている。


「……あ、そうだ! よかったら食事にしない? 海に落ちてから随分時間も経ったしお腹も空いてるでしょ? ごめんね気が利かなくて! すぐ用意するね!」


 彼女の返事も聞かず、僕は台所へと急いだ。

 ふぅ。

 とりあえず気まずい沈黙から脱出できたことを喜ぼう。


 さて、台所には既に出来上がった料理がいくつかあった。

 昨晩、最後の晩餐だからと奮発していろいろ作ったものの、食欲が無くてほとんど手をつけなかったせいだ。

 改めてあるものを確認する。


・白菜とキノコの濃厚クリームスープ

・チーズ入りスクランブルエッグ

・トマトとベーコンを加えてバジルで整えたポテトサラダ

・柔らか白パン


 スープとスクランブルエッグだけ温め直す必要があるが、後はそのままでも大丈夫だ。

 それからもう一つ。とっておきのものがある。

 僕は氷の魔術が組み込まれた冷蔵保管庫から、一かたまりの肉を取り出した。


“ガイアブルの特選霜降り肉”


 残ったお金をはたいて買った、牛型モンスターの超高級肉だ。

 そもそも、モンスターとは、異常な量のマナを持つ動物や植物のことを指す。

 マナの含有量が、通常個体の平均値の100倍を超えると、モンスターと呼ばれるようになる。


 動物の場合は突然変異によって生まれつきマナが多いためにモンスターとして認定されることが多い。

 植物の場合は樹齢が数百年を超え、少しずつ貯蔵されていったマナの量が一定を超えたためにモンスター認定されることもある。


 こうした経緯でモンスターが生まれることから、動物型にしても植物型にしても数が少なく、100万体に1体とも、1000万体に1体とも言われている。

 そして、怪物モンスターと呼ばれるだけあって、その力は通常個体の比ではない。

 小さな人里であれば一日で滅ぼすくらいの力は全てのモンスターが持っている。

 そのため、討伐に際しても、最低でも10名以上のモンスターハンターのパーティか、場合によっては軍隊が出ることもある。

 モンスター討伐は、それほどまでに命がけの仕事だ。


 しかし、マナを大量に含んだ体は、非常に有用だ。

 骨や皮は強い武器・防具の素材に、血や内臓は高機能薬品に、そして肉は高級食材として、いずれも高値で取引される。

 そのため、一攫千金を夢見てモンスターハンターになる荒くれ者たちも多い。


 何はともあれ、モンスターの肉は美味しいのだ。

 その中でも特に美味と言われる牛型モンスター”ガイアブル”の極上部位である。


 僕はフライパンに薄く油を引き、霜降り肉を中火でミディアムレアに焼いた。

 味付けは、軽く塩胡椒だけで十分。

 溢れ出る肉汁。

 なんとも美味しそうだ。

 

 昨晩と違って、不思議と食欲があるのを感じた。

 …………もう1枚焼いておくか。

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