番外編 異世界におけるバレンタイン
頭痛いです。まだ、熱もあります。でも頑張って書いたので楽しんでもらえたら嬉しいです。折角のバレンタインなんですから。
今日は二の月の十日。
前世(?)の俺にとってバレンタインといえば十四日に近づくにつれソワソワとしだすクラスメイトを眺めたり、十四日に挙動不審になっているクラスメイトを眺めたり、休み時間の度にいなくなるクラスメイトを眺めたり、席に着く度に机の中を覗くクラスメイトを眺めたり、校門前や下駄箱等でチョコレートを渡したり受け取ったりする生徒を目撃したり、本命チョコだよと渡されて妹の将来が心配になる。そんなイベントだった。
まあ、俺は当時好きな女子とかいなかったから完全に静観を決め込んでいたが。
だが、今回は違う。
今の俺には美少女な婚約者と書いて嫁と読む。そんな人が複数人いる。
だからだろう。
なんだかソワソワする。
しかし、一つ問題がある。
それはこの世界にチョコレートがあるのかどうかという事だ。
この街では花蜜を使ったものが甘味の定番で砂糖を使った物は高価故に少数しか出回っていない。
そしてチョコレートは味の調整に砂糖を使ったりする。
つまり、ただでさえ存在するかも分からないカカオが主原料な上に高価な砂糖を使うチョコレートが果たしてあるのだろうか。
えーい、考えてても仕方ない。
とりあえずギルド行こう、ギルド。
いつぞやの空飛ぶ白い鶏のような期間限定クエストがあるかもしれないし。
チョコレートの魔物はいなかったが、代わりにシュガートレントが例年通り人里近くまでおりて来て暴れまわってるそうだ。
しかもこの依頼は男性限定のようだ。
丁度今朝からセフィア達が三人で用事があるとかで出かけてる事だし、ちょっと受けてみようかな。
◇
「オドゴォォォォッ!」
「うおわぁぁぁ!」
俺は今、追われてる。
シュガートレントの居るところへ来たまでは良かったんだ。
だけど、奴らは俺を視界にいれた瞬間に男と叫びながら追って来た。
なんなんだこれは!?
周りを見てみれば他にも追われてる男の冒険者にオスであろう野生動物に魔物。
あれか、男性限定だった理由はこれなのか?
男には猛烈に反応するからなのか?
「だ、誰か助けてぇーー!」
◇
「はあ、はあ、はあ、しょ、勝ぉぉぉぉ利!!」
あの後、しわくちゃの老婆のような顔をした木に追われるという恐怖になんとか打ち勝ち依頼の三体を倒せた。
そして俺は疲労困憊の身体を引きずってギルドに行った。
唯一の救いは買取額が上乗せされた事かな。
シュガートレントは走った距離が長いほど質の良い砂糖が取れるらしく、俺のやつは最高品質だと太鼓判を押された。
なので一体だけ手元に残し、セフィア達へのお土産にした。
しかし、シュガートレントの恐怖は俺の中に色濃く残り、何もヤル気が起きず、ぐでぇ〜と日々を過ごした。
そして日時は十四日の夜九時になった頃、空間が歪み、そこからアリシアさん、レイカーさんといつもの二人が現れ、そこから更に追加でセフィア、リリン、ルリエが出てきた。
その手には何か箱を持っていた。
「「「「「レント(レントさん)((蓮斗さん))、ハッピーバレンタイン!」」」」」
「え?何?どういう事?なんで二人がセフィア達と一緒に?」
「蓮斗さん、この世界にもバレンタインの風習があるのですよ。かつて居た、前の世界でモテなかった転移者が二月十四日に女性が身近な異性に手作りお菓子を渡すという風習を作ったんですよ。もっとも彼は結局カカオの実を見つける事は出来ずにチョコではなくお菓子を渡すということになりましたし、世の女性達は特別な異性には特別なお菓子をすぐに渡すようになり、彼は義理チョコばかり貰うようになったんですけどね。」
「うわぁ。なんか可哀想だなその人。」
「それで、セフィアさん達がお菓子を作ろうとしていることを知って、丁度私達も作ろうと思っていたので一緒に作ろうとお誘いしたんですよ。」
「そ、そうだったんですか。ありがとうございます。あの、開けていいですか?」
「もちろんだよレント。食べてもらいたくて一生懸命作ったんだから。」
「…ん。超本命。」
「私達の想いを受け取ってください、お兄さん。」
「あ、蓮斗さんが倒したシュガートレントの砂糖もふんだんに使ってますよ。」
そ、そうですか。
なんかちょっと複雑だが。
開けてみると、それはハート型のチョコレートケーキだった。
「なんで、チョコレートが?お菓子じゃないの?」
「言ったでしょう。見つけられなかったって。彼の後の勇者が見つけてチョコレートを広めたんですよ。彼女の想い人にチョコを渡した事で、バレンタインといえばチョコレートになったんですよ。彼女にあやかろうとしてね。」
「私達も結構本気で作ったんですよ。その際他の男神にからかわれてアリシア様ったら焔獄牢で丸焼…フガモガッ。」
「そ、そんな事より、早く食べてください。」
妙な事をレイカーさんが口走ってそれをアリシアさんが封殺するという定番を披露しながらも今回は帰らなかった。
やっぱり感想が気になるのだろう。
だから俺はストレージからフォークを取り出して早速食べる。
勿論答えは美味しい以外にあり得なかった。
だからそう答えると皆一様に顔を綻ばせた。
シュガートレントの時は大変だったけど、この笑顔の為だと思えばなんて事は無いな。
今年のバレンタインは人生で最良の日になったと思えるほど、幸せな一日になった。




