第三百八十二話 またこのくだり的なお話
蟹を狩っちゃ駄目だというユキノにしぶしぶ従い街に向かって帰ろうとすると突如乱入者が現れる。
蟹か!? と思ったけどよくよく考えるとおかしい。
リリンと蒼井の気配察知で分からなかったのだ。
なんらかの隠形スキルを使えるのかもしれないが、そうする必要がある以上こちらに敵意があるという事だろう。
咄嗟に剣に手が伸びるが、伸びただけだった。
「やっほー、レント君♪ さっき振りだね〜。」
「は? アデラード…さん? なんで、ここにいるんですか?」
「ん〜? アレクシアの恋人がどんな人かこっそり覗いてたんだよ。」
「はぁ…?」
本当に、仕事とかいいのだろうか?
それに……
「あの、そんな口調だから余計子供っぽくなるんだと思いますよ?」
「はぁ!? 今なんつった!?」
「うおっ!?」
一瞬で締め上げられてしまった。
動きが全く見えなかったよ……
「ちょっ!? レントに何すんの!?」
「許さない。」
「お兄さんを離しなさい!」
アデラードさんの突然の暴挙にセフィアら嫁達が敵意をむき出しにしてくれる。
ルリエも当然のように杖を構えている。
それだけではなくアカネもレイダさんも蒼井もユキノも武器を構えて隙を伺っている。
その行動に俺は嬉しくなるが、残念ながらこの人は敵じゃない。
「アデル義姉さん! 手を離して!」
「でも、こいつが……」
「いいから離す!」
「うぅ……わ、分かったよ。」
シアと400くらい歳離れてるよね?
あんまり差を感じないんだが……
手を離されたがそれでも突然の行動を見てみんなは未だ警戒している。
なのでその警戒を解いてもらうために自己紹介するように言う……シアが。
まあ、一番の身内がシアなんだしそれが自然だよね。
でも、やっぱり歳の差を感じない。
「初めまして、私はアデラード。迷宮都市リステルの冒険者ギルドのギルドマスターをしてて、そこにいるアレクシアのはとこだよ。」
「「「「シアの……はとこーーーー!?」」」」
「こんなにちっさいのに!?」
「あ"? なんつった!?」
またこのくだりかよ……
「……アデル義姉さん、いい加減受け入れなよ。もう400超えてるんだし成長する余地ないし種族的なものはどうしようもないんだから。」
「やだ! 諦めない!」
「いや、諦めるとかそういう段階は超えてるんだけど。」
話が進まない。
修正しよう。
「それで、何でこっそり覗いてたんですか?」
「そりゃもちろんおもしろ………アレクシアに相応しいかどうか見極めるためだよ。」
「今面白そうって言いました?」
「言ってないよ?」
「なんで疑問形?」
「そ、それよりも、これはどういうことかな? なんでこんなに女の子ばっかりいるのかな? 女ったらしはアレクシアに相応しくないと思うんだけど。」
「なんでって、同じパーティだから。ちなみにこっちの3人が嫁でシア……アレクシアとこのエルナが恋人です。」
「は!? 嫁!? 恋人!? どういうことだ!?」
「いや、言葉通りの意味だけど。私はこのレントと恋人で、こっちの3人がレントの嫁。私もそれを知った上でそういう関係になるって決めたから。だからアデル義姉さんに文句を言われる筋合いはないわ。」
「だが、まだ100も生きてないのに、そんなの、早過ぎる!」
「その考え自体古いわよ。」
「古い…って……そんな……」
あ、なんかショック受けてる。
うーん。
どうしよう。
このまま放置していいかな?
SSランクって話だし死にゃしないだろうし。
でも恋人のはとこを放置するというのはどうかと思うし……
なんて思ってるとどこからか底冷えするような声が聞こえてきた。
「見〜つ〜け〜た〜。」
「!? こ、この声は!?」
「見つけましたよ! アデラード様! まだまだ仕事がたっぷり残ってるっていうのに、何こんなところで油売ってるんですかー!!」
「ひっ! ご、ごめんなさい。で、でもこれは必要なことなんだよ。うちのはとこの恋人が……」
「はとこの恋人の心配よりも仕事の心配してください! ただでさえ遅れてるんですから。今日は帰れないと思ってくださいね!」
「ちょっ、待っ!?」
そうして突如として現れたギルドの偉い人っぽい女性に連れられてアデラードさんは森の中に消えていった。
「………えーと、帰ろうか?」
「……うん。」
そんなこんなでレイランに帰った。
そしてアデラードさんは夜寝る時になっても現れることはなかった。




