第三百七十四話 オークソテー的なお話
「こんにちはー。」
「おう、レントか。今日はどうした? また工房を借りに来たか?」
「ええ、まあ。今日もいいですか?」
「いいぞ………と、言いたいところなんだがな〜、数日前に武器防具の整備やら注文やらが大量に入ってきてな。今工房にゃ空きがねぇんだわ。だから今は貸すことが出来ねぇんだ。」
「それじゃ、しょうがないですね。こっちは借りる側な訳ですし、そちらの仕事を優先するのは当然ですから。」
「悪いな。それはそうとよ、この間の腕輪は喜んでもらえたか?」
「はい。」
「それは良かったな。にしても、お前も変わった奴だな。」
「え? 何がですか?」
「武器や防具、マントなんかを統一したりするパーティやレギオンなんかあるが、普通はそれを俺ら職人に任せるんだぞ。それを自分で作ってんだ。変わってるって言われても仕方ないだろ。」
「否定できない……」
薬師ならいるかもだけど、鍛治の出来る冒険者ってあんま見ないよな。
でも、自分で武器の整備が出来るのはいざという時に助かると思うんだけど。
まあ、アクセサリー作りは鍛治じゃなくて細工スキルだけど。
「親方! 期日まで時間がないんですから早くきてくださいよ!」
「あー、悪い! 今行く! というわけなんで、悪いな。」
「いえ、こっちも引き止めてすみませんでした。」
忙しそうに奥に戻っていくグラハムさんを見送ったあと、店を後にする。
しかし、時間が空いてしまったな。
他の店を探して工房を貸してもらえるように交渉するという選択肢もあるにはあるが……タダで貸してくれるか分からないしな。
その点あの店は親切だしタダで貸してくれるしで、すごく助かる。
だからこそギルド公認店になれるんだろうけど。
これからどうしようかな。
女の子だけで楽しくやってるだろうしみんなと合流するのはやめた方がいいと思うし、ほんと、どうしよう?
こういう時何か趣味があるといいんだろうけど、あいにくとこっちの世界にはギターもないし、スポーツも聞いたことない。
……仕方ない。
宿に帰って爪楊枝でも作ってるか。
カンストまでまだかかりそうだしこの機会にたくさんやっとくか。
そう思って宿に向かっていると裏路地から何やら客引きの声が聞こえた気がした。
気のせいかもと思ったけど、特に予定はないし(爪楊枝作りは予定じゃない)見に行ってみるのもありかもと思って裏路地に入ってみた。
うーん。
ちょっと怖えーな。
こういう所ってチンピラとかいそうだよな。
日本にいた時もこういう所は来たことないから、ちょっと怖い。
やっぱり来なければ良かったかな?
「いらっしゃいませー。私特製ポーションですよー。美味しいですよー。」
ーガクッ!
ポーションの謳い文句が美味しさって……
コケそうになるが踏ん張る。
そして疑問を言うために客引きしてる人のもとに行くとそこには褐色の肌をした女性がいた。
「普通そこは効果を宣伝するんじゃないんですか?」
「お客様ですかー?」
「物によるかな。……じゃなくて、なんで効果じゃなくて、美味しさなんですか?」
「えー、どうせ回復するなら不味いよりも美味しいほうがいいじゃないですかー。」
「そりゃ不味いのよりかはいいでしょうけど、まずは効果の方が大事でしょ。」
「それは大丈夫ですよー。全部最低でも骨折ならすぐに治りますからー。」
「意外と効果高い!?」
「で、どうですかー? こっちはアカゴ味、これがバナナ味、で、こっちのがカルム味。これが自信作のオークソテー味。」
「オークソテー味ってなんですか!? なんでそこでソテー!?」
「えー、美味しいじゃないですか、ソテー。」
「そこは否定しませんが……」
「ちなみに効果は部位欠損が治るくらいですー。」
「効果高すぎでしょ!?」
オークソテー味のポーションで部位欠損が治るってなんか複雑だな……
「えーと、それで1つ幾らなんですか?」
「こっちの骨折のが30万で、こっちのオークソテー味が100万リムだよー。」
「……やっぱ高いな。」
「でもー、君が面白いから全部まとめて50万でいいよー。」
「安くなりすぎでしょ!? 効果が不安になるんですけど!?」
「えー。ちゃんと効果はあるよー。そんなに言うならー10万、いや、タダでいいよー。」
「なんでそうなるんですか!?」
「正直に言うとー、私すっごいお金持ちなんだよねー。だからこれもちょっとした遊びみたいなものなんだー。だから売り上げは二の次で面白い人が来ればいいかなーって思ってたの。そしたら、君が来たってわけー。君面白いからタダでいいかなーって思ったのー。」
「……そうですか…」
「というわけで、はいどうぞー。効果が気になるならギルドか専門の所で鑑定してもらってねー。」
全部もらってしまった……
「じゃあ、私はこれでー。また機会があったら会おうね、レントちゃん。」
そういうと、薬師の人は跳びあがり建物の屋根の上へと消えていった。
というか、俺、名前言ってないよね?
不思議な人だったな。
というか、変な人か……
ー某所にてー
「彼はどうだったです?」
「面白かったよー。普通なら敬遠するはずなのに普通に接してくれたしー。それにあのツッコミは世界を狙えるかもー。」
「別にツッコミの話はしてないのです。」
「あははー。そうだったねー。でもそれがなくても面白いよー。あの人の気配を感じたしー。」
「それなのです。彼は、担えそうです?」
「今は無理かもー。でも、アレがいつ来るかによっては大丈夫そうかもー。」
「そうですか。」




