第三十二話 やっと渡せた。的なお話
ホクホク顏で帰って、夕飯と嫁さん達を美味しく頂いた翌日。
筋肉痛の痛みは完全に無くなった。
というか昨日は途中で痛みを忘れてたから今日治ったと言っていいかは微妙だが、それは些細なことかな。
食堂で朝食を食べさせ合いっこした後、宿の部屋で今日の予定を決める。
その結果、今日はギルドで模擬戦三昧だ。
今までは何もなかったが今後も冒険者としてやっていくなら盗賊との戦闘は避けて通れない。
だから模擬戦、即ち対人戦の経験は必要不可欠という話になった。
セフィア達の貞操はアリシアさんのお呪いで守れても命までは守れない。
リリンが提案し、俺が同意したので既に半数が模擬戦という意見だ。…まあ、三人しかいないが。
セフィアも昨日の買い取りのお陰でお金に切羽詰まってるわけではないと同意したので今日は模擬戦ということになった。
そしてギルドに向かう道中、意外って程ではないがある人物と再会する。
「あっ!すみません。先日はありがとうございました。怪我は大丈夫でしたか?」
「え、ああ。あの時の。こっちこそあの時は力になれなくてすまない。それと、怪我ももう治ったし大丈夫だよ。」
ある人物とはいつぞやのボロ雑き…ゲフン。金髪青年さんだ。
名前は知らない。
「あの時はありがと。」
「結局、何も出来なかったし助けたのはそこの彼氏さんだよ。」
「かかかか、彼氏ってそんな、確かにその通りなんだけど、でも…」
「違う。婚約者。」
「こ、婚約者!?そ、そうかそれはなんというか、その、おめでとう。」
「…ん。」
「邪魔しちゃ悪いし、俺はこれで。」
「あ。」
そう言って金髪青年は去っていった。
というか名前を聞けてないんだが。……ま、いっか。
「と、そうだった。いろいろあって渡しそびれてたけど、これ。」
そういって二人にヘアピンを渡す。
金髪青年を見て思い出したのは内緒だ。
「これって、ひょっとしてあの時の?でもリリンのもある。」
「セフィアだけってのは可哀想だしさ、一応リリンのも後で買ったんだけど、その、告白とか、アリシアさんが来たりですっかり忘れてたんだよ。」
「じゃあ、僕からはこれを。防御力がちょっとだけあがる指輪だよ。」
「ありがとな。大切にするよ。」
「僕も。」
「ありがと、レント。私も後でお返しを用意する。」
「お返しなんて別に…いや、楽しみにしてる。」
「ん。期待してて。」
「あらあら、随分と微笑ましいわね、奥さん。」
「そうねぇ、若いっていいわねぇ。」
「私も昔を思い出しちゃったわ。」
そうだった!ここは宿の部屋じゃなくて普通の道だった。
漫画やアニメではよく見るけどまさか自分が主人公と同じ目に遇うとは。
正直言って恥ずかしい。
今なら漫画の主人公の気持ちが分かる。
そんなどうでもいいことを考えつつ俺たちはその場を足早に立ち去る。
ちょっと恥ずかしい目に遇ったがギルドに到着しランニングや準備運動、ウォーミングアップをしてから模擬戦を開始する。
話し合った結果最初にやるのはセフィアとリリンになった。
セフィアは速さと手数。
リリンは速さと正確さを武器に試合をしている。
だが、セフィアは二刀流や双剣のスキルを持たないが、リリンは短刀のスキルを持っている。
スキルの差なのかセフィアの剣捌きは何処かぎこちない気がする。アニメで見た黒の剣士や御庭番衆の頭領や赤い弓兵と比べてだけど。
対してリリンは攻撃に防御や受け流しが様になっている。
それにLVも経験もリリンの方が上な為に三分程打ち合っていたがリリンの勝利で終わった。
そして五分程休憩を挟み、次は俺とリリンの試合となり、俺は木剣を持って立ち上がる。




