第百三十六話 抱きしめてくれませんか? 的なお話
朝になって起きるといつもと違う光景が広がっていた。
誰もいないのだ。
あれ?
どこに行ったんだろう?
いつもは俺が早く起きてるんだけど今日に限っては誰もいない。
とりあえずリビングに向かうと、みんなでなんか食器とかバスケットのような物を取り出していた。
ふむ。
釣りに行くってことになってるからその準備をしてるってことかな?
でも、食材は俺のストレージなんだけど……。
「あ、レント。おはよう。」
「おはよ。」
「おはようございます、お兄さん。」
「おはよう。食材は何を出したらいい?」
「そうだね。えーと……」
みんなが言う食材を取り出していく。
俺の料理の知識では何を作るかは分からないけど、楽しみだな。
◇
朝食を済ませてみんなで木工屋に行く。
だって釣り竿ないもん。
そんなわけで探しているのだがなかなか見つからない。
まあ、セフィアも川には魔物が出るって言っていたからその関係で需要が少ないからかな。
「あ、これじゃない?」
「ん。」
セフィアが店の隅の方でそれらしいものを見つけたようだ。
そっちの方に行ってみると確かに釣り竿のようだ。
……埃かぶっているけど。
人数分は流石に無かったけどそれでも三本は確保できた。
竿も買えたのでギルドに向かい新人組に依頼を受けてもらう。
俺達は……まあ、今回はいいか。
ルリエもいるから流石にきついだろうからね。
三人が受けた依頼はラットにラビット、そしてファングだ。
見事に討伐系ばかりだな。
まあ、そっちの方が早く済む……のかな?
どっちでもいいか。
三人が選んだものに口出すのも良くないし。
街の外に出て森の方に向かう。
釣りもいいけど先ずは三人の依頼をこなしてからという事になって、向かうとたったの五分で最初の魔物が出てきた。
最初の魔物はファングだ。
ん?
なんかルリエが少し震えてる。
「どうしたの?」
「いや、ダンジョンは死ぬことは無かったけど、外だと下手したら死んじゃうって思ったら急に震えてきて。」
「普通はそうだよ。俺も最初は結構テンパってたし。」
「そ、そうなの?」
「うん。魔法使ったことないのに魔法を使おうとして、当然のように発動することなくて、たまたまセフィアを拾ってたから魔法で助けてもらったし。」
「拾って?」
「うん。その時は変化してたから普通に狸だと思ってたから。」
「それで?」
「その時は風魔法を使ってくれたからなんとかなったけどもしもいなかったらやられてたかもね。だからさ、最初なんてそんなもんだよ。怯えるのが普通だし、それは別に悪いことじゃないよ。俺もいるし、みんなもいるからちょっとずつ慣れていこう。」
「あの、抱きしめてくれませんか?」
「はい?」
「えっと、お兄さんの事をもっと感じることができたら、きっと、大丈夫な気がするんですよ。」
「ごめん。そうしてあげたいのは山々なんだけど、もう終わってるんだよね。」
「へ?」
そう。
俺とルリエが話している間にアカネとレイダさんがサクッと終わらせてしまっていたのだ。
「えっと。つ、次! 次の時にお願いします。」
「う、うん。」
この後、次に出てきた魔物をルリエはなんとか倒すことができた。
もちろん、しっかりと抱きしめてあげた。




