第1387話 今そんな感じになってるんだけど。的なお話
日本にいた頃に見たことがあるような魚もあれば、そうでないものもあって色々と見て回るだけでも楽しい。
あれは鯛の仲間かな?
あっちはアジっぽいけど、角生えてる。
うわ、あの魚赤と紫と黄緑色な上に光ってるんだけど。
熱帯魚でもあそこまで自己主張の激しいのは居ないんじゃないかな……?
「前来た時には気付かなかったけど、色々あるというか、なんというか、凄いな」
「確かに色々あるよね。レントは何か気になる物とかある?」
「え、そうだなぁ……やっぱりアレ、かな。」
俺が指差した先には無駄にデカい触手の生えた魚が横たわっている。
サイズからして魔物ではあるんだろうけど、ぱっと見で黒金マグロよりも大きく見える。
そんなのが店頭に並んでいるのだから気にならないわけがない。
「あー、目立つもんね」
「ああ。特に食べたいとかは思わないけど、あの見た目とサイズでどうしても目がいってしまうんだよな。あんまり美味しそうに見えないが。」
「ちょっと気持ち悪いもんね……」
そう。
見た目が気持ち悪いのだ。
魚なのに舌があるのには違和感しかないけど、その舌がデロンと出ていて、目は白く濁り、胸鰭の少し上辺りにグルリと添うようにして生えた複数の粘ついた触手というなんとも気持ち悪い見た目。
ゲテモノは意外と美味しい物も多かったりすると聞くが、いくら美味しくても見た目がアレでは食べたくはないかな。
「それよりも……あ。」
「ん? 何かあった? あ、もしかして、居たの?」
「いや、でも、あれ……あの人。」
「……え?」
「肌の色とか、髪の色が違うけど、そっくりだよね?」
「うん……凄くびっくりした。アイリスさんそっくりだね……。」
「俺のいた国ではさ、見た目そっくりな人が世界には3人いるって言われてたんだけど、実際にこうして知り合いのそっくりさんを見ると、やっぱり驚くな。一瞬だけど、声をかけそうになっちゃったし。」
アイリスさんのそっくりさんを見たからか、アイリスさんと会いたくなっちゃったな。
アイリスさんだけじゃなくて、アデルともリナさんとも会いたい。
鍛治修行で3人にも会えてなかったし。
「と、ここで突っ立ってても他の人の邪魔になるし他の場所に行こうか。」
「うん。」
そして、気になったりこれまでに消費した魚を買い足し、時に露天で売られている美味しそうなものを買い食いしながら色々な店を見て回った。
楽しかった。
セフィアと2人で、手を繋いでのデートだから時間が経つのが早いのなんのって。
気付けば朝の魚河岸? 市場? が終わる時間になっていて、終わってからローレムさんを探すのを忘れていたことに気付いた。
やっべ。
「ローレムさん見当たらなかったねぇ。」
「あ、ああ、そうだな。」
「あ、レント。もしかして、探すの忘れてたでしょ?」
「うぐっ。いやだって、セフィアとのデートが楽しかったから……それでつい。」
「まあ、僕も楽しんでたけどね。それに、会えなきゃ家の方を尋ねればいいかなって。でしょ?」
「それ朝に俺が言っていた奴!」
「あははは。」
「まいいや。それじゃあローレムさんの家の方に行こうか。」
「うん。」
というわけで、ローレムさんの家へと向かうとしますか。
「ん? あ、えーと、確かレントだったよな?」
向かおうと、したんだけどね。
「ローレムさん!?」
「お、覚えててくれたか。久しぶりだな。いつこっちに来たんだ?」
「えっと、一応数日前に。」
今、家に向かおうとしたのに!
なんでこう絶妙なタイミングで会えるかな!?
いや、すれ違わずに済んでよかったんだけどね。
でもほら、いざ行かん! って時に出鼻を挫かれると、気が抜けるというか、残念さが普通よりも大きかったりするじゃん?
今そんな感じになってるんだけど。