第1361話 お腹すいた。的なお話
慣れだと言われればしょうがない。
とにかく数をこなしていかないと。
あ、でもその前に……。
「アリシアさん。ミスリルの板とかってありませんか? 魔力を流す時の感覚を知っておきたいんですけど……。」
「今からちょっと作りますね……はい、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
目の前でポンっという軽快な音と共に煙が現れ、その煙の中から薄い金属の板が現れた。
アニメとかでしか見ない光景だが、実在するとはなぁ……。
いやまあ、神様だから出来てもおかしくない光景なんだけどさ。
アリシアさんから受け取ったミスリルの板を実際に鍛治をする時のように道具を使って掴み、その状態で魔力を流していく。
その時の感覚と練習用の板との差を感じていく。
練習用の板はスルスルっと抵抗なく入っていく感じでだけど、過充填になる瞬間ほんのちょっとだけ引っ掛かるような感覚があった。
あったよな?
あった気がする。
後で確認しておこう。
それとは違って、ミスリルの方は最初は抵抗があり、そこから通り出すと吸い込むかのような感じで一気に流れ出していく感じだ。
そして、ある時を境にその吸い込む感じが無くなる。
あくまでも感覚であり、しかもそれは微弱だ。
こうやって意識を集中させないと気付けない程の。
実際、さっきの奴の時は気付けなかった。
火の眩しさ、熱さ、槌の重さ、どう打つかという思考、感覚。
それら複数の情報が入り混じった状態なのだから気付けなくても仕方がないが、これからは仕方がないでは済まない。
もっと、深く集中していかないと。
練習用の板での感覚を確認した後、再び炉に向かう。
複数の事を同時に並行して行うというのは難しい。
なら、まずは交互にやっていこう。
多分、それじゃあまだまだ不完全な物しか出来上がらないだろうけど、まずは、だ。
そこから少しずつ慣れていこう。
意識を寄せていこう。
◇
まずは槌よりも魔力の方に意識を向けていく。
槌の方が最初はおざなりになってしまうだろうが、それを気にするのは後でいい。
今は魔力の方に意識を向けろ。
抵抗を抜け、魔力が吸い込まれるような感覚……そしてその感覚が無くなる瞬間に魔力を流すのを止める。
そして槌を振るうと、魔力が散るような感覚。
そしたらまた魔力を流す。
槌を振るう。
ミスリルが冷めてきた。
炉に戻す。
また魔力、槌、また炉。
一回一回、しっかりと魔力を流していくからその分時間がかかる。
ここらで少し休憩を挟みたい所だが、途中でやめてしまって質が下がるかもしれない。
その可能性を確認し忘れてしまった以上、そのかもしれないを避けるために休まずにやるべきだろう。
キィンキィンという甲高い音を立てながら槌を振るっていく。
幾度となくその音を聞いた。
どれだけの時間が経ったか分からないが、あと少しだ。
「これで、終わりだ!」
最後の一振りでひとまずは終わりとなる。
後は刀身を冷まして研ぎの工程だが、それは後からでも出来る。
今はとりあえず休みたい。
「お疲れ様です。」
「はは……本当に疲れたよ。」
「では、火傷の治療をしますね。」
「お願いします。」
耐性スキルを得ても、スキルレベルは低いし何よりも鍛治を行っていた時間がこれまでとは段違いに長い。
となれば当然火傷もするだろう。
あー、早く火傷しないようになりたい。
そんで、仕上げた剣をアリシアさんにみてもらった所58点というなんとも反応に困る評価をいただきました。
まあ、最初のに比べれば大分良くなってはいるし、これからこれから。
魔力の流れなんかもちょっとだけ分かった気がするし、これを繰り返していけばいずれ慣れて半分無意識で出来るように……なるといいなぁ。
いや、なる。
なってみせる。
でもとりあえずまずは……ご飯だな。
お腹すいた。