第1360話 地道に頑張るしかないのか…。的なお話
炉の温度も上がったので、ティータイムも終えて改めて魔法金属の鍛治となる。
「さて、それじゃあ始めようかな。」
「属性金属の時と同様にまずは自分1人でやってみてください。」
「分かりました。」
最初に作るんだし、まずは金属の特性とかその辺の事を理解するためにも短剣にしようかな。
多分上手く出来ないだろうし、いきなり片手剣とか作っても材料とか時間とか無駄になる。
だから、まずは理解の為にも小さめのからやっていこう。
魔法金属は属性金属と違い、常に魔力で満たしていく必要があるが……練習用の板と違い目に見える形でどれだけ流れているのか、浸透しているのかが分からない。
このくらいでいいのだろうか?
いや、もう少しか?
うーむ、分からん。
まあいい。
多分このくらいだろう。
ここから槌を振るっていくが、む、むぅ……むずい。
なんだこれ?
槌を振るう度に流す魔力の流れが乱れる。
かといって魔力の方に意識を向ければ今度は鍛治の方が疎かになってしまう。
属性金属の時とは違う難しさだ。
というか、こっちの方が明らかに難しい気がする。
いや、難しくて当然か。
なにせこっちはあのミスリルなのだから。
2つのことを同時に行うのが難しく、こうなってくると手伝いが欲しくなる。
なんで俺は影分身をユキノから習わなかったんだと過去の自分を叱りつけたい気分だ。
1人で難しいことを同時にやるのが困難だと言うのならそれを分割してやればいいと某忍者漫画で学んだというのに。
なんて、益体のない事を考えていても仕方がない。
今はとにかく目の前の事に集中だ。
◇
集中した。
集中はしたのだが、やはり元々苦手だった魔力操作と一緒に鍛治をするのは難しく、そうして出来上がった短剣は見事アリシアさんから26点という低得点を引き出した。
ぐぅ……出来が悪いのは分かっていたが、こうして数字として出されると悔しさが湧き上がってくるな。
「まず魔力の通りが疎らです。その上で根元付近は過充填されていて、先端の方は少なくなっています。なので……このように魔力の流れが悪くなってしまっています。」
アリシアさんが火の魔法を纏わせると根本の部分はチロチロと漏れ出るような火で、先端部分は詰まっているかのようにボッボッと明滅するかのように火が出ている。
「また、鍛治自体も悪く全体的に強度が低いです。これでは簡単に折れてしまいます。完全な鈍ですね。」
はっきりと言われるのはへこむ。
「でもこれ、魔力の流れが分かりにくいんですよ。練習の時と違って色でどの程度なのか判断出来ませんし。だから魔力の方に意識が行きがちになって鍛治の方が疎かになりますし、かといって鍛治の方に意識を向ければ今度は魔力が乱れちゃってなかなか上手くいかないんですよ。右手で日本語の文章を書きながら左手で英語の文章を書けって言われている気分です。」
最初は右を見ながら左を見ろっていうのにしようかと思ったんだけど、それだと物理的に出来ない気がして、でも右手と左手でってのはなんか出来る人が世界を探せばいたりするんじゃないかなって思えるのでそっちにした。
いやまあ、実際にいるかは分からないんだけどさ。
でもそういうことを大真面目に練習する変人さんとか居そうじゃない?
「その辺は全部慣れとしか言えませんね……。ですが1つヒントを。魔力を流した際に、魔力が少ない時の流れ方や過充填になる時の魔力の流れ方なんかを覚えるといいですよ。流し易さとか引っかかりとかそういう感覚があればそれを基準に判断出来るでしょうから。」
「なるほど……。じゃあ、魔力と鍛治の両方に意識を割くコツは?」
「あ、それは慣れです。個人の意識や感覚に依る所が大きいので。」
「あ、はい。そうですか……。」
慣れだそうです。
地道に頑張るしかないのか……。