第1139話 そして二筋の閃光が走った。的なお話
「と、そうだ。牛鬼を探す前にこれを。」
「手拭い? 何に使うの?」
「これで口と鼻を覆うんだよ。こんな感じで。」
「掃除する時みたいに?」
「そそ。まあ、気休めにしかならないけどな。でも、やらないよりかはやった方がいいだろう。」
実際、この毒の煙の粒子がどのくらいの大きさかも分からないからな。
これで防げるならいいけど、多分無理だろうなぁ。
でもさっき言った通り、やらないよりかはいいだろう。
実際、火事の際にはハンカチとかで口元押さえてるかどうかで大分変わるらしいし。
この毒の煙がどうかは分からないとはいえな。
こんな事なら、アクリアで海狩人が使う酸素ボンベでも記念に買っておけば良かった。
今更だけど。
全員が手拭いを巻いて口元を覆ったのを確認してから牛鬼を探すために森の中を進んでいく。
と言っても、探すのはリリンと蒼井、ユキノに任せよう。
捜索という観点で見れば、俺の悪意感知もレイダさんの闘争本能も気配察知には遠く及ばない。
目視や音を聞いてというのも無視出来ないけど、それだって俺が1番というわけでもない。
だから俺がすべきなのは、見つけた後の行動を考える事だ。
一応、リーダーなんでね、俺は。
相手は強力な力を持つ大妖だ。
普通に戦えば戦闘に時間がかかり過ぎるだろう。
手拭いを巻いていても気休めにしかならないし、倒すのであれば速やかに倒せるに越したことはない。
であれば、やはり先に相手を補足し、大技にて速やかに終わらせるべきだろうな。
となると、俺とレイダさんは外れる。
火魔法は森の中じゃ大火事になりかねない。
水魔法はまだ練習中の段階で、とてもじゃないが攻撃に使えるほどのものじゃない。
一応、草結びで援護するけど、焼け石に水どころか焼け石に水滴レベルに無駄だろうが。
こっちも無いよりかはマシ、かな。
メインで攻めるのに使うべきは風、闇、土くらいか?
水は……どうだろうな?
水量が多ければ水害とまではいかないまでも、周囲に悪影響が出そうだ。
木々が腐ったりな。
だとすれば……
「いた。」
「どこだ?」
「こっち。」
リリンの先導で牛鬼の元へと向かう。
その道中に急いで考えをまとめる。
「あっち。ここから100メートルほど離れた先にいる。」
リリンが指差した場所を見ると、遠くの方に赤と紫色をした何かが木々の間に見え隠れしている。
多分、あれだろうな。
こんな離れているのは毒を警戒してのことだろう。
「今回だけど、蒼井の魔法銃とシアの風魔法で一撃で決めてもらう。セフィアはネフィリムアームで、リリンとルナはシャドウオブデスピアーズでそれぞれ拘束してもらう。そして牛鬼の動きが止まった所を2人には決めてもらいたい。他のみんなは周囲の警戒を頼む。」
みんなは頷きをもって了解した意を表す。
この距離でも聞こえてる可能性を考えてのことだろう。
相手は高ランクの魔物。
警戒し過ぎるくらいが丁度いい。
ここで魔法の準備を始め、後は魔法名を唱えるだけで発動出来る状態で保持したまま静かに接近する。
完全に目視出来、確実に当てれる距離まで近付いたところでそれぞれ魔法を発動。
牛鬼を拘束していく。
ちなみに俺は今から魔法を使います。
初期の魔法だから詠唱はいらないが、拘束に使う草を視認する必要があるから。
本当に不便。
土の豪腕が、闇色の巨杭が、後ついでに周囲の草が牛鬼を戒める。
動きを封じた所でシアと蒼井が攻撃の準備を開始。
発光を始めるシア。
魔法銃に魔力を込める蒼井。
牛鬼は拘束を受けた所でこちらの存在に気づき、拘束から抜けようと踠き出す。
闇色の巨杭がギシギシと音を立て、土の豪腕は土をボロボロとこぼし始めやる。
俺の草はとっくの昔にブチブチと千切られているが、その都度草結びを発動していく。
効果があるかは分からないが。
ほんの数秒な気がするが、シアと蒼井の準備が整い、そして二筋の閃光が走った。




