第1070話 質問攻めは勘弁して欲しかった。的なお話
大名さんの話し方とか、流れとか、子供の名前とかで頭を悩ませたりして少し遅れました。
すみません。
女中さんに案内された場所は、時代劇とか歴史物のドラマなんかで宴会とか集会が行われてるような、あるいは修学旅行先の旅館で生徒全員が集まって食事を取るような、そんなまさしく大広間と呼ぶにふさわしい場所。
その大広間には人数分のお膳が並ぶ。
そのお膳は日本で見たことある奴よりも一回りか二回り大きなものなのはここが異世界だからなのかもしれない。
そのお膳の上には炊き込みご飯が入ってるのか釜飯があり、それをよそう茶碗もある。
その隣にはお吸い物が入ってるであろうお碗。
奥にある湯呑みみたいのに入ってるのは茶碗蒸しかな?
他には漬物、小鉢、天ぷら盛り、1人用の鍋が並び豪華な和食といった感じ。
だが、それよりも目を引くのが舟。
1人に1つの舟盛りがあるのだ。
数人で1つなんてのは聞いた事ある。
だが、1人1つなんて、どれだけの贅沢だというのだろうか……。
そんなの興奮するに決まってる!
……普通なら。
だけど、今の俺はそんな心境にはなれない。
そろそろ、現実に目を向けないとな。
なんで居るのさ、三等大名ヤスカネさん。
おまけに奥さんお子さんと思しき人達も一緒だし。
聞いてないよ!
え、何?
会食か何かなの!?
そうだと知ってたら部屋に運んでもらってたのに!
「さ、席に座りたまえ。我が城自慢の板前に作らせた馳走だ。存分に堪能してくれ。」
「あ、はい。いただきます。」
なんでこんなお偉いさんと食事しないといけないんだよ……。
リステルでの夜会の際もお偉いさんとかは居たけど、基本的には会話する事なかったし、そもそも俺なんか眼中に無かっただろう。
でも、今回は違う。
今回は俺がメイン。
なので必然的に会話せざるを得ない。
どうしたらいいの?
助けてユキえもん!
「レント君はまだ会った事なかっただろう? 紹介しよう。私の家内である、スズナとユリネ、ユキザサ、ヤマブキだ。そして私達の子供である、マサカネ、ビゼン、オキフネ、スズラン、セリナ、ナズナ、キンラン、カゲミツだ。」
「えっと、あの……」
「いきなりたくさん紹介しても覚えられぬだろうし、名前を忘れようと間違えようと気にするでない。それよりも、さあ、食べようではないか。」
「あ、はい。」
理解のある人で助かった。
俺、あんまり名前とか覚えられない人なんだよ。
特に今回みたいないっぺんに紹介された時とかは。
精々、なんか草花っぽい名前と刀っぽい名前だなって程度くらいしか分からなかったよ。
三等大名が自慢するだけあって、料理は本当に美味しい。
天ぷらは衣がサクサクだし、お鍋はカニ鍋、釜飯の中はタコの炊き込みご飯、茶碗蒸しは出汁がよく効いている。
舟盛りだって、いろんな刺身があって本当に美味しい。
「そういえばユキノ君だったかな?」
「なんでしょう?」
「英雄候補勧誘員という事だが、出身は?」
「私はキサラギです。」
「おお! キサラギか! キサラギと言えばキサラギ織が有名だな! あそこの絹織物は素晴らしい! 私はもちろん、家内も子供達もキサラギ織を愛用している!」
「今度父にも伝えておきます。」
「うむ。」
キサラギ?
如月か?
そういえば、ユキノも大名家の出だって言ってたな。
そりゃあるよな、家名。
「あなた、レントといったかしら?」
「え、あ、はい。えっと……。」
「スズランよ。それで、あなたと彼女達は一体どういう関係なのかしら?」
「冒険者仲間です。」
「それだけ? 本当に? 英雄候補なのに?」
「えっと、嫁さんと恋人でもあります。」
「そうよねそうよね! 英雄候補だもんね! それで馴れ初めは? どうやって出会ったの? それと、冒険者って言ってたわよね? ランクは? 冒険譚とかはあったりするの?」
「これ、スズラン。あまり困らせるでない。」
「お父様は黙ってて!」
「……はい。」
ヤスカネさんよっわ!
どこの世界、どこの国でもやっぱり父親は娘には勝てない運命なのか……?
とりあえず当たり障りのない事なんかを話したりして夕食は終わったんだけど、すごく疲れた……。
やっぱり国の一大イベントということもあって、この国の人にとっては英雄候補というのは興味の対象なんだろう。
だけど、質問攻めは勘弁して欲しかった。
あれ〜?
ヤスカネさんとちょっとした試合をしようって流れにして、そんで湯上がりだし朝風呂をする口実にしようとするって予定だったのに、どうしてこうなった?




