番外編 多分日本の日常風景
「ふっ、はっ、せぇいっ!」
頭の中に浮かべた仮想敵に合わせて木刀を振る。
仮想敵は某有名狩猟ゲームに出てくる、そのゲームの顔ともいえる飛竜。
お兄ちゃんが居る世界には多分こういうのが居るだろうし、今の内から戦えるように訓練した方がいいはず。
尻尾を振り回してくる。
それを屈んで躱して接近、飛竜の脚に回転斬り。
長いは禁物、すぐに安全圏まで退避する。
振り返って構える。
一瞬の膠着状態。
飛竜は膠着状態を破りブレスを吐いてくる。
動いて躱し再び接近、そして……。
「唯〜そろそろ時間よ。」
残念。
時間切れだ。
お兄ちゃんが小6の頃にお土産として買ってきた木刀をケースに仕舞い学校に行く準備をする。
思い出すのは一月前の話。
今から一月前、いつものように訓練をしていた所、これまたいつものようにアリシアさんが来た時の事。
「そろそろ準備も終わりそうなので今の内から備えておいてください。」と言われた。
その時から私はこの木刀を使って訓練をしている。
あの時は覚えたかった技を覚えた所で丁度いいやと剣の訓練を始めたんだっけ?
確か覚えたのは……竜◯旋風脚?
「唯ちゃん!」
「あ、楓ちゃん。待った?」
「ちょっとだけね? またいつもの?」
「うん。まあね。」
「はー、唯ちゃんはすごいよね〜。いろんな部活の助っ人して活躍してるし、それに剣術までやってて……。」
「まあ、趣味みたいなものだしそんな大層なものじゃないよ。」
そう、そんな大それたものじゃない。
ただ、いつかお兄ちゃんのところに行った時に足手纏いにならないように、お兄ちゃんの力になれるように頑張ってるだけだ。
だから、そんなすごいものじゃない。
「そういえば唯ちゃん、昨日のドラマ見た?」
「昨日の? 何かあったっけ?」
「何かって、あの加賀見修児が主演をしているドラマだよ!」
「加賀見……?」
「なんでそれすら知らないの!?」
「いや楓ちゃん、逆に聞くけどなんでドラマ見てるの? 私達今受験生だよ?」
「ゔっ……いや、それはその……息抜き、だよ?」
「昨日もそんなこと言ってなかったっけ?」
「それも、息抜きだよ、息抜き……。」
「楓ちゃん……私達、大学が離れてもずっと友達だからね!」
「ちょっ、まだ分かんないじゃない! まだ離れるとは決まってないよね!?」
「あはははは!」
間違いなく、離れる事になる。
だって私は異世界に、お兄ちゃんのいる世界に行くのだから。
そんな寂しさを覚えながらも、今を満喫する。
◇
学校に着き、下駄箱を開ける。
すると毎度の事だけど、手紙がわさっと滑り落ちてくる。
「今朝も凄いね。」
「毎度毎度勘弁して欲しいんだけど。私ノーマルだからさ。」
手紙の内容は付き合ってくださいというのが大半だけど、差出人が女子のみ。
既に男子からの誘いは全部完膚なきまでに叩き潰したので来ることはない。
女子の方も断ったんだけど相手は一応女の子だからと叩き潰すことはなかったんだけど……その対応の差から照れ隠しと思われたのか、まだ勝機はあると思われたのか……こんな事なら女子校の方にすれば良かったかなぁ?
優姫ちゃんの行ってた女子校ならこんな事にはならなかったかも。
断るのは間違いなくても対応の差が無いから勝機なんて見出せなかっただろうし。
私は最初はお兄ちゃんの学校にしようとしたけど、お兄ちゃんが異世界に行っちゃったから優姫ちゃんの学校に変更したんだけど、その優姫ちゃんも異世界に行っちゃったからねぇ。
どっちでもよかったんだけど、楓ちゃんもこの学校志望だったからここにしたんだけど……変えなきゃよかったかな?
とりあえず手紙は鞄の中にしまって後で読もう。
読まずに捨てるのは流石に可哀想だし。
それに、たまに果たし状とか入ってるし。
教室に入り席に着く。
はぁ〜、そろそろって言ってたけど、いつになるんだろう?
早くお兄ちゃんに会いたいな。
こうしてまた今日もなんの代わり映えのない1日が始まった。




