第九十三話 嫉妬は嬉しい的なお話
気を引き締めて移動するが……何も無いな。
野生の魔物も野生の動物も野生の盗賊も野生の変態も出てこない。
いや、野生の変態は出てきても対応に困るけど。
何も無いに越したことないとはいえ……暇だなぁ。
暇なのでセフィアも巻き込んで外を眺める。
雲の形が何に見えるかっていうあれだ。
「あ、アイスみたいだ。」
「あいす?それって氷のこと?」
「いや、俺のいた所にあるお菓子だよ。冷たくて甘くて美味しんだ。」
「へぇ〜。食べてみたいな。」
「そうだなぁ。セフィア達にも食べさせたいな〜。」
「………………………。」
「………………………。」
「暇だなぁ。」
「そうだね〜。」
一応後ろの方を警戒して見てるが何も起こらない。
それに空を眺めててもいい天気だ。
青い空に偶に流れる白い雲に、空を飛ぶ白い鳥に空を飛ぶ白いドラゴン。
………ってドラゴン!?
なんでこんな所にドラゴンが!?
こんなのんびりしていていいのか。
そう思ってセフィアの方を見てみるが、全然慌ててない。というか落ち着いてて本当に暇そうにしている。
え!?大丈夫なの?あれ。
だからセフィアに聞いてみた。
困った時のセフィア先生だ。
「あの〜セフィア先生。」
「なぁに、レント君?」
「あのドラゴンは大丈夫なんですか?」
「あれは、こっちから刺激しなければ大丈夫だよ。」
「そうなんですか?」
「うん。獅子は子を千尋の谷に突き落とすって言うでしょう。あれと同じでドラゴンは卵を林の中に置いて竜の谷に帰るまでを試練にするんだよ。それであのドラゴンは子がちゃんと帰れるのを見守っているんだ。だからよっぽどの事がない限り人を襲ったりしないよ。」
「へ、へぇ〜。そうなんだ。」
なんか卵というのに心当たりがあるんだけど。
大丈夫だよね。俺大丈夫だよね。ドラゴンに食われたりしないよね。
「あのぉ〜、実は俺、朝なにかの卵を見かけたんだけど。大丈夫だよね。なんか産まれた所だったんだけど。」
「う〜ん。特に何もしてないんだよね?」
「してないしてない。ダッシュで逃げたもん。」
「あ〜、それで走ってたんだ。それなら、うん。多分大丈夫だよ。」
「本当に?」
「本当に。」
「よ、」
「よ?」
「良かった〜。頭から食べられるかと思ったよ。」
「あはは。ないない。」
「あ、ひょっとしてそれで何も出ないのかな。ドラゴンに怯えて。」
「かもね。」
そんな推測が当たっていると言うかのように魔物に襲われることなくお昼になった。
「んじゃ、ここいらで昼飯にすっか。朝はセフィアの嬢ちゃんに作って貰っちゃったから今回は俺が作るよ。」
「そんな、悪いですよ。」
「それじゃこれ俺とセフィアの食器です。よろしくお願いしますね。」
「お、おう。任せとけ。」
「レント、さっきはどうしたの?」
「いや、なんかあのまま一緒に作るとか言い出しそうで、それで…」
「あ、もしかして嫉妬しちゃった?」
「ゔ!い、いや、そんなことは……あります。」
「えへへ。レントが嫉妬か〜。」
「なんで、嬉しそうなの。」
「えへへ。だってそれって嫉妬しちゃうくらい僕の事好きってことでしょ。そう思ったらなんか嬉しくなっちゃって。」
「えっと、まあ、その、凄く、愛してます。」
「えへへ。その、僕も。」
「…………………。」
「…………………。」
「んっんん。あー、悪いんだが、薪を拾ってきてはくれないか。」
「「うわっ!びっくりした。」」
「どうだ?行ってくれるか?(ゴゴゴゴゴ!)」
なんか、リィナさんの背後にゴゴゴって見える。
これはまずい。
「喜んで行かせてもらいますっ!」
気恥ずかしさは何処へやら。
リィナさんから逃げるようにして薪拾いに出掛ける。
それから薪を持って戻り、昼食が出来るのを待ち、出来上がった料理をみんなで食べる。
ぐっ!美味しい。
う〜ん。
試験終わったらセフィアに料理でも習おうかな。
◇
昼食を終えて移動を再開する。
ドラゴンの脅威が去ったと思ったのか午後からは普通に魔物が出てくる。
しかし、出てくるのはF、Eランクの魔物で問題なく進んでいく。
そして一時間が経った頃には街壁が見えてきて、二時間が経つ頃に門の前に辿り着いた。
そういえば異世界に来てから二つ目の街だな。
異世界の首都はどんな感じかと期待に胸を膨らませながら、検閲を終え門を潜る。