第950話 加減してくれるとありがたいかな、なんて…。的なお話
「小難しい話はこれくらいにして、そろそろ料理も来る頃だろうし夕食を楽しもう。」
「そうですね。」
「と、その前に……。」
「?」
「ちょっとリリウム伯爵の所に挨拶に行ってくるよ。知らなかったのならともかく、教えられちゃったからね。これで挨拶に行かなかったら色々と面倒になるだろうから。」
「あ、じゃあ私も……。」
「アカネはいいよ。これから貴族として生きるのならいいけど、そうじゃないなら挨拶はするべきじゃないよ。」
「え、あー、そういえばそうですね。分かりました。やめておきます。」
「それがいいよ。じゃ行ってくるね。」
そう言うとアデルは部屋を出て行った。
「えっと、どういうこと? なんで挨拶しちゃいけないの?」
「あー、多分だけど、あかねが挨拶に行くという事はユースティア子爵家の娘として挨拶をするって事だろ? それはつまり家に戻り貴族の娘として生きるっていう意味になるって事じゃないかな?」
「レントの言う通りよ。補足するなら、普通の冒険者は挨拶に行かない。というよりも行っちゃダメ。貴族の歓談の邪魔をする事になるからね。そして貴族なら、相手より家格が下の者が挨拶に赴くのが普通。挨拶をするのなら貴族の娘としてする事になるの。相手は伯爵だからとつい行こうとしちゃったけど、アデラードさんが止めてくれて良かったわ。」
「なるほど。なんとなく分かったわ。」
なんとなくかよ。
まあ、蒼井ならなんとなくでも十分か。
「お待たせ〜。」
「あ、お帰りなさい。」
「料理はまだだったみたいだね。」
アデルが戻って来てから2分後、料理が到着した。
コース料理のようでまずは前菜。
そしてスープ、パン、魚料理、パスタ、肉料理、サラダ、デザートの順のようだ。
魚料理……貴族も使うようなお店というだけあって、魚も仕入れているとは、流石という他ない。
まあ、火をしっかり通しているけどね。
生は流石に無理なようだ。
そうしてメインとなる肉料理が運ばれて来た辺りでアデルがポツリと呟く。
「明日からまたレントとしばらく会えないのか……。」
「寂しいっすね……。」
「はい……。」
それに釣られるようにアイリスさんとリナさんも本音を零す。
「あー、まあ、ヤマトに着けば転移魔法で会いに来れますから……。」
「え、あ、そういえば転移魔法が……あれ? それなら、なんでカインの時は会いに来てくれなかったの?」
「移動中は転移した先が分からないから行き来するのは難しいってのは分かりますよね? それでカインに着いてからなんですけど、家はリィナさんが代わりに借りてくれたじゃないですか? それにアメリタ義母さんにも管理をお願いしてましたから突然訪ねてくる可能性もあったから易々と使えなかったんですよ。」
「うーん、まあ、そうかもしれないけどさぁ……。」
「ヤマトに着いたらちゃんと会いに来ますし、祭り当日には招待しますから。」
「うぅ、まあ、それでいいよ。でも、そうなるとどうしたものか。レント達が居ないのなら奴隷市の護衛は誰にしよう……。」
「え、もうやるんですか?」
「もうってほどでもないでしょ。」
「レント達、絶対奴隷市までに帰ってこれないよね?」
「いつやるのかは分かりませんが、多分無理でしょう。」
「だよねぇ……となると、やっぱり【金剛の繋ぎ手】になっちゃうかなぁ。」
「そんなに嫌なんですか?」
「だってまたお願いすると絶対調子乗るよ?」
「かも知れませんけど。」
「ならナタリアに頼めばいいんじゃないですか? ナタリアならBランクだしこの前ので魔槍も手に入れたから実力は十分。おまけに同性だから色々助かるんじゃないでしょうか?」
「あ、そっか。アカネの言う通りだね。」
アデルの悩みごとも解決し、その後は普通に食事を楽しみお会計をすます。
賭けの事は忘れていなかったようで、アデルの分は俺が払ったけど、俺の分はアデルが払ったので、賭けをした意味があったのかは分からない結果に。
まあ、それでも1万5000リム払ったのでマイナスなんだけど。
そして泊まらせてもらってるエリュシオン邸に帰り寝る準備を済ませるとすぐに俺の部屋には人が集まった。
あー、やっぱり?
明日に支障が出ない程度に加減してくれるとありがたいかな、なんて……。
コース料理の順番ですが、イタリア料理とフランス料理のコースを適当に混ぜました。
その辺は異世界で独自に発展したっていう設定です。
後、奴らの記憶があやふやなせいでその影響も受けてたりします。




