第498話 だって、色々面倒そうなんだもの。的なお話
俺がこんなに気後れしているというのに、アデルはなんの躊躇もなくお店に入っていってしまった。
ちょっ、待って!
心構えをする時間とか頂戴よ!
そうは思うけど、アデルが入ってしまったものだからここで立ち止まっているわけにもいかず、慌てて後に続いていく。
「ようこそリストランテパラディーゾへ。」
ビクってしちゃった。
入っていきなり言われたもんだから身体が勝手にビクってした。
「これはエリュシオン閣下。お越しいただき誠にありがとうございます。」
「うん。また来たよ。今日は客を連れて来てるから。個室って空いてたりする?」
「はい。ですが、ロイヤルの個室をリリウム伯爵がご使用されているのでそれよりもランクが落ちますがよろしいですか?」
「ああ。全員が入れて周りを気にしなくて済めばそれで構わない。」
「かしこまりました。では、今すぐ準備致しますので少々お待ちください。」
凄く、貴族してます……。
それに相手も閣下とか言ってたよ……。
普段との違いがやっぱり違和感しかないな。
「今個室用意してもらってるからちょっとだけ待ってね。」
あ、いつものアデルだ。
「ロイヤルの個室をなんとかって貴族が使ってるって言ってましたけど、それとランクが落ちるのって何か関係あるんですか?」
「ああ、それは相手が伯爵で私が男爵だからだよ。」
「?」
「爵位によって差をつける必要があるんだよ。貴族なんてプライドばっかりでかい連中が多いからね。爵位下の癖に自分よりも上の部屋使うとか調子乗ってんの? って言ってきたりするから、貴族がいる場合は注意が必要なんだよ。」
改めて思う。
貴族ってめんどくせー。
「お部屋の準備ができましたので、こちらへどうぞ。」
はい、準備が出来たそうなので案内されます。
そして案内された部屋は控えめに言ってゴージャス。
何あれ、めっちゃ高そうな壺置いてあるよ?
縁とか金じゃね?
それになんか綺麗な絵とか飾ってあるし、絵の値段とか価値とか全然全く分からないけど多分高いんじゃないかな?
モチーフだってほら、妖精さんと精霊さんが草花が咲き誇る丘の上に居るって感じだしきっと高いよ。
でも不思議とどこかで見た事ある気がするのは何故だろうな?
「さ、席に座って。料理はその日手に入った食材で最高の物を作ってくれるから待つだけでいいよ。」
うわ!
マジでそんなのあるんだ。
フィクションの中だけかと思ってたよ。
「そういえば、この街って気を使わないといけないくらい貴族の人って多いんですか?」
「まあ、ここは国にとっても重要な場所だからね。それなりには居るよ。まず太守が国から派遣された貴族で、太守が変わる時や太守がなんらかの理由で仕事出来ない時なんかに太守代理をする太守補佐が三家。これは1つにすると太守が居ない間に好き勝手出来ちゃうからそれを防ぐ為だね。そして治安維持や経理、外交、迷宮対応なんかの様々な部署にも居たりするから王都ほどじゃないけど結構多いよ。他の貴族領だとそこまで多くはないんだけどね。『指揮官多くて部隊迷走』って言葉もあるし、領主以外にも口出せる人間が多いと下の人間も混乱しちゃうから。領地の規模にもよるけど大体数家の貴族と代官としてよその貴族の子息くらいかな。」
「ほぇ〜……。」
突然出てきた貴族事情だけど、結構考えられているんだなぁ。
この街が国にとって重要だから1つの家に任せるのはいけないので太守制ってのは前に聞いてはいたけど、まさか貴族も役所仕事とかしてるのには驚いた。
てっきり、適当にふんぞり返って一般市民から搾取してるだけかと思ってた。
「ちなみに、男爵以上の貴族は家の家格と領地の規模によって数に差が出るけど騎士の任命権を持ってたりするよ。レントもなってみる? 貴族。」
「いえ、勘弁してください。」
騎士も一応貴族。
1番下だから大した権力はないだろうけど、それでも貴族にはなりたくない。
だって、色々面倒そうなんだもの。




