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[Teleporter]  作者: SoLa
9/13

[第八話]


 花園邸を出たところで、俺はポケットから携帯電話を取り出した。何となくかかってくる気がしたからだ。案の定、その瞬間に着信音が鳴り響く。躊躇いなく通話ボタンを押した。

『やっほー』

「師匠、絶対に何処かで俺のこと監視してますよね?」

 相も変わらずタイミング良すぎだ。

『まさか。そんな筈ないでしょう。だって今、私ロスだもん』

「……まあ、俺にはそれが本当か確かめる術は無いんですけどね」

『ふふふ。そんな拗ねないでよ。せっかく労いの電話をしてあげてるのに』

 そうかいそうかいそりゃありがとぉ。

『で? 今から、行くんでしょ?』

「はい」

 俺の行動は完全に把握されているようだ。

『今後、二度と花園や姫百合に手を出す気が起きなくなるくらい、徹底的に根絶やしにしなさい。これは師匠命令よ。そして』

 少しだけ間を開けた後、師匠ははっきりとこう言った。


『能力の使用を許可するわ』


 ……。

 その言葉に、暫し呆然とする。こうもはっきりとその言葉を聞いたことは無かったからだ。

「……それほどの相手ということですか?」

『違う』

 俺の予想はばっさりと叩き斬られた。

『多分、というかほぼ確実に雑兵ね。あからさまに使わなければ、何をしているかなんて理解できないような連中よ』

 そっちかよ。思わず肝を冷やしたぞ。

「酷い言いようですね」

『事実だし』

 師匠はケロリと言い放つ。

『肩慣らしをしておきなさいってこと。いざという時に使い物にならなかったら、ただの宝の持ち腐れなんだからね』

「……了解です」

 電話越しに頷いておいた。

「それじゃあそろそろ――」

『ま、貴方のことだからどうせ適当なところでフラフラ使ってるんでしょうけど』

「使ってねーよ!!」

 切りますねというより先に、反射で通話を切った。



「花園様の使者の方ですね。どうぞこちらに」

 侵入者たちが捕えられている場所へ到着し、守衛に用件を伝えると話は直ぐに通った。

 魔法使いがこの表舞台に立ってから、同時に魔法犯罪もその姿を現した。今までは不可能だと思われていた犯罪。警察はそれらの犯罪に対抗する為、新たに魔法警察という部署を設立する。常人には成し得ないトリック。それが魔法の一言で片付けられていく。一般警察とは違い、構成員は皆魔法使い。それ故の絶対数の少なさがあるが、これにより大部分の魔法犯罪が露呈されるようになった。現場検証では、指紋と同じくらい重要な証拠として、魔力の残滓も取り上げられる。

 そして。

 絶対数が少ないが故に、魔法警察は力を持つ魔法使いとの関係を密にする。これが良い事なのか悪い事なのかの言及は避ける。が、それが抑止力となっているのも事実。このような事情から、花園家は警察関係には顔が利く。今回の件について自由にできているのも、こういった理由によるものだ。

 出迎えてくれた男の後に従い、ひっそりとした廊下を歩く。目的の場所には直ぐに到着した。

「この中です。指示通り、学園侵入者の中でそのリーダー格と思われる人物のみを収容しております」

「はい」

「現段階で分かっているこの男の情報についてですが――」

「いや、それは結構です」

 資料を取り出した警察官を手で制する。

「必要な情報はこちらで聞き出します。入りますよ」

「分かりました。では、どうぞ」

 警察官が自分のIDを入力し、その扉を開いた。

 部屋にいたのは三人。昨晩顔を合わせたリーダー格の男と、それを見張る二人の警察官。俺が入室すると、警察官二人は同時に敬礼し、リーダー格の男は顔を露骨にしかめた。

「すみませんが、席を外してください」

「は? あ、いや……しかし」

「花園から何も知らされていませんか? それとも、ここで当主に直接取り次いだ方がいいでしょうか?」

「い、いえ……」

 二人の警察官は、俺の言葉におろおろしながら退出した。……本当に悪意ある奴に乗っ取られたらおしまいだな、この国の魔法警察は。その権力を惜しみなく利用している俺が言うのもなんだけどさ。

 部屋に残るは俺とリーダー格の男の二人のみ。

「よう。気分はどうだい」

「最悪だな。よくもまぁノコノコと俺の前にやってきたものだ」

 男は不機嫌そうな声色を隠そうともせずにそう答える。

「そう言うな。こっちはお前に聞きたいことがあったんだ」

「お前に教えることなど、何もない」

「そうか。お前らのボスの居場所を教えてくれ」

「教えることなど何もない。そう言っただろう」

 男はそれだけ告げると、俺から目を逸らすように顔を背けた。

 頑なだな。

「ふむ……。まいったね」

 顎を撫でながらそう呟く。その仕草に、男はピクリと目尻を上げた。

「お前が戦闘において、それなりに手練れだということは認める。だが、こういったことにまで首を突っ込んでくるのは感心しないな。何事にも適材適所という言葉がある。お前は、姫百合可憐……、いや花園? ……まあどちらでもいい。ともかく護衛なんだろう? こんな所で油を売っていないで、さっさといるべき場所に帰ったらどうだ」

「はは」

 その助言に、思わず笑ってしまった。男が不可解な目でこちらを見る。

「……面白いこと言うな、お前」

 少し、威圧する様に口を開いた。ここで少しだけ魔力を滲ませるのがコツだ。

「っ!?」

 ガタン、と。

 大きな音を立てて男の座る椅子が揺れる。殴ったわけでも蹴り上げたわけでもない。男が勝手に鳴らしただけだ。

 ゆっくりと男に近付き、口を開く。

「お前の言う通りだ。俺は、花園家の護衛。それは間違いない」

 ドスの聞いた声で語りかける。無意識の行動か。俺が一歩近付く度に、男は一歩遠ざかろうと足を動かす。……もっとも、手足を拘束されているため、ほとんど意味を成してはいないが。

「それでも、お前は間違ってるよ」

 既に男は俺の纏う雰囲気に呑まれている。俺が今口にしている言葉も、どれだけ男の頭に入り込んでいるか分からない。

「護衛対象を守る上で、ベストな環境って何だと思う?」

 試しに問いかけてみた。返ってくるのは、言葉にならない悲鳴だけ。

「矛盾するようだが、敵がいないことなんだよ。護衛対象を最も安全に護衛するためには、護衛対象に害を成す相手が、一人もいないことが望ましい」

 そこまで話して足を止めた。椅子に拘束された男の目の前。見下すような視線で男を捉え、にやりと口角を歪める。「ひっ」という声が聞こえた気がした。

 優しく男の頭髪を掴み、耳元で囁くように告げてやる。

「そして。俺は花園を護衛するためなら、手段を選ばない」

 今度ははっきりと唾を飲み込む音が聞こえた。ここまで追い込めば、後もう少し。

 ……ダメ押しに、とっておきを見せてやるか。

 既に捕まっているのだから情報が漏れることは無いし、師匠が言う通り、これを見せたところで何をやっているかなど分からないだろう。

「おい」

「……な、何だ?」

 気丈にも、俺の呼びかけに応えてくる。

「よーく見てろ」

 俺は掌をひらひらさせて、男の視線がこちらを向いたことを確認する。手刀落とすかのような仕草で、ゆっくりと部屋に備え付けられていた机へ掌を下ろした。

 そう。

 ゆっくり。

 ゆっくりと。

 男の視線が、俺の掌を捉えて下がっていくのが分かるくらいに。

 徐々に。

 徐々に。

 下に。

 下に下がる。

 そして。

 今まさに掌が机に触れようとした瞬間。


 何の前触れも、予兆も無く。

 机が真っ二つに割れた。


「なっ!?」

 男は肩を震わせ、目を見開いた。もはや隠せなくなった体の震えが、ガタガタと椅子に流れて大きな音を鳴らしている。

 良い反応だ。そうでなくては。

「何をしたのか、分からないだろう? 言っておくが、身体強化の類ではないぞ」

 そう言いつつ、今度は掌を男の両腕を縛る魔法拘束具へと向けた。

「その魔法拘束具。知っているとは思うが、触れた人物から発せられる魔力を吸い出す優れものだ。発せられる魔力が大きければ大きいほどその吸収量は上がり、専門家からは魔法を使った破壊は見込めないとまで言われている」

「な、何をする気だ……っ」

「動くなよ? まだお前を狙う気はねーんだからよ」

「よ、よせっ!!」

 更に後退し、俺との距離を取ろうとする男を足で押さえつけて手刀を振り下ろした。男の両腕を縛っていた拘束具が、綺麗に割れる。

「……ば、馬鹿な」

 男が、震える声でそう呟いた。自らの腕を震わせながら凝視している。今まで左右を繋いでいた拘束具は、その中央から2つに分かれて男の両腕にぶら下がっていた。

「……さて」

 現状を理解したであろうタイミングを見計らって、男に話し掛ける。

「次は、その脚でも切り落とすか?」

「ひいっ!?」

 もはや隠そうともせず、男は情けない声を上げた。

「ボスのアジトを聞き出すだけなら、胴から上があれば十分だもんなぁ」

 そう言って、これ見よがしに腕を振り上げる。

「よ、よせっ!?」

 こうなれば、勝ちは決まったも同然だった。



 それから男は借りてきた猫の様に大人しくなり、俺の質問に対して誠実に洗いざらいを答えてくれた。

 ボスの居場所さえ突き止められれば、こんな場所にもこの男にも用は無い。護衛するに当たり手段は選ばないと言ったものの、実際のところ、こいつらの息の根を根こそぎ止めようとは思っていなかった。

 その気ならば昨晩のうちに皆殺しにしている。

 どうやら姫百合可憐・咲夜の誘拐が成立しなかった場合、ボスを含めた残党は今までアジトにしていた場所から移動し、別のアジトで待機する手筈になっていたようだ。

 用心深いんだか馬鹿なんだか。居場所がバレないように移動するのなら、移動先はこいつらに教えるべきではない。もっとも、今回情報を聞き出した相手が捕まった侵入者たちのまとめ役らしかったので、この男にだけ告げていたという線も否定できないが。

 ……何にせよ、あと一仕事だ。

「待て! 待て!! まさかお前、一人で乗りこむつもりか!?」

「……何だよ、お前には関係ないだろう」

 さて行くかと退出しようとしたところで呼び止められ、少し不機嫌な声色で返してやる。

「やめておけ。お前の護衛対象者は、あの学園から外に出ることは無いのだろう? ならば、そのままの方がいい。絶対に安全だ。俺たちがとった手段が二度通じるほど甘いセキュリティでは無いだろう。一人でノコノコ行ったら殺されるぞ!!」

「……心配してくれるのか?」

 予想外の男のセリフに、驚きを隠しながらそう問う。

「気色の悪い言い方をするな!! ……忠告してやっているだけだ。ボスには、絶対に逆らわない方がいい」

「ほう?」

「ボスは、神の如き能力をお持ちだ。お前が強いのは十分に知っているが、それでも……殺される」

 男が自分の言葉に怯え、ぶるっと体を震わせた。

「神の如く、ね。それで? そのお前らのボスは、どんな能力を持ってるんだ?」

「転移魔法だ」

 ……は? 思わず言葉を失った。

「転移魔法って、あの転移魔法か? 現代魔法では不可能って言われている、あの?」

「驚くのも無理はない。だが、魔法という言葉に不可能という文字を当てはめるのはナンセンスだろう。魔法とは、奇跡の力なんだからな」

「そりゃあ、そうだろうが……」

「現代の魔法学では解明できぬ、『非属性』に属する転移魔法だ。あの能力にかかれば、どれ程手練れの魔法使いであろうと、一瞬で無に帰することになるだろう」

 俺の驚愕を都合の良いように解釈したと思われる男は、そう口にした。



 非属性魔法。

 無属性は属性を付加しない純粋な魔力により発現された魔法のこと。対して非属性とは、どの属性にも分類されないものの、無属性として発現することができない魔法を指す。

 非属性はその立ち位置故『無系統魔法』と称される事もあり、発現できる魔法使いは少ない。

 両者の最たる違いは、無属性が魔法を習得するうえでの登竜門であるのに対して、非属性は生まれつきの能力であり鍛錬によって新しく身に付けられるものではないことが挙げられるだろう。

 その為、同じ種類の『無系統魔法』を操る魔法使い同士が相対する可能性は更に少ないと言われている。


 警察官に敬礼されながら、建物を出た。

「転移魔法ねぇ」

 一人呟き、思わず吹き出す。

 あの男が嘘を言っているとは思わない。

 あの表情・声色・態度から見て、ボスの能力に対して恐怖心を抱いているのは明白だった。だが、だからと言って男が話している内容が真実かと聞かれれば、Noだと思う。

 第一、本当に転移魔法を使える人間がいるのなら、学園侵入なんて余裕じゃないか。あんなトラックを使ってする必要などない。

「……さて」

 時計を確認する。九割方嘘だとは思うが、相手が本当に転移魔法の使い手だった場合、不意を突かれて転移されようものなら捕まえることができなくなる。

 襲うなら、日が落ちた後か。

 携帯電話を取り出した俺は、男から聞き出した場所を入力してみた。

「ふむ」

 地図で確認したところ、ここからはやはり少し離れた場所にある。今から向かえば丁度いい時間になるかもしれない。

「……後回しにしたって良い事無いしな。さっさと潰してくるか」

 欠伸をしながら、待たせていたタクシーに乗り込んだ。

「すみません。ちょっと遠いんですけど、この地図の付近まで行けます?」



「貴方が私を呼び出すなんて珍しいわね。……というか、初めてじゃない?」

 昼休み。

 本館の屋上へと呼び出された舞は、屋上へ着くなり呼び出し主へとそう告げる。

 そこには可憐と咲夜がいた。

「昨晩のお礼をきちんとさせて頂きたいと思いまして」

 可憐は言う。それと一緒に咲夜もこくこくと頷いた。

 本来なら関わっていなかったはずの咲夜だったが、流石に姉が夜にベランダから侵入してきたら異常時だということくらい気付く。一連の説明については既にされていた。

「本当にありがとうごいざいました」

 二人一緒に頭を下げる。舞は少々照れくさくなって頬を掻いた。

「り、律儀ねぇ。それなら聖夜に言ってやればいいのに」

「もちろん、中条さんにも改めてお礼はさせて頂きます。……、あの、それで中条さんはどちらに?」

 可憐からの質問を聞いて、舞の表情が露骨に変わった。

「……、……聖夜ってさ」

 決して短くはない沈黙。

 何か気に障ったのかと心配になった可憐が声を掛けようとしたところで、ようやく舞は口を開いた。

「あいつには、魔法使いの師匠がいてね。今はその人アメリカにいるの」

「……は、はぁ」

 最初に聖夜の名前が出た時には、どきりとしたが。その後に続いた言葉で、可憐は曖昧な相槌を打ちながら首を傾げた。

「あいつは呪文詠唱ができないから。この国の評価システムじゃあ魔法使いの資格は取れない。だから2年前からアメリカに飛んでたの。で、この間取ったみたい」

「え? 魔法使いのライセンスを?」

 可憐は目を真ん丸にし、舞はそれを見て呆れ顔になった。

「そりゃそうでしょ。仮にも私の護衛役を任されたのよ? 資格が無けりゃそんなことできるはずないわ。気付かなかったの?」

「……そ、そうですね」

 気恥ずかしそうに可憐が視線を落とす。しかし、可憐が思い至らなかったのも無理はない。魔法使いのライセンスは、本来であれば大学課程で習得を目指すレベルのものだ。

 舞はそれに構わず再度口を開いた。

「あいつが日本に戻ってきた理由は、ただ1つ。私の護衛の為よ」

「はい……」

 言っている意味は分かるが意図は分からない。

 この話の終着点が何処なのか、可憐は計りかねていた。

「言ってる意味、分からない?」

 舞は大げさにため息を吐く。

「帰っちゃうかもしれないってこと。アメリカに。今回の誘拐騒動は終結までもう秒読みに入ってるみたいだし、そしたら護衛の任も解かれておしまい」

「そ、そんな……」

 可憐ではなく、咲夜が呆然とした表情で呟く。

 ただ、可憐も似たような心境ではあった。つい先日「これからよろしく」と言った相手が、ようやく妹が心を開いた人物が、もういなくなると言っているのだ。

「私はずっと待ってた。あいつが日本に戻ってくるのをね。こんなに早く、またいなくなるなんて絶対にイヤ……。でも、……引き留める手段が無い」

 聖夜にとって、青藍魔法学園での卒業資格は必要ない。

 学生が目標とする魔法使いのライセンスを既に取得してしまっているためだ。今のご時世では、ライセンスを所持しており、腕が優秀な魔法使いならば、学歴が無くてもある程度の職には就けてしまう(無論、文武両道の方が良いのは間違いない)。

 つまり聖夜からすれば、護衛の任が無ければ学園に通うメリットなど無い事になる。

 しかし。

「そんなことは、……ないでしょう」

 俯く舞に、可憐は言う。

「花園さん。今、貴方はおっしゃったはずです。ずっと待っていた、と。それでは……、それでは中条さんを呼び止める理由にはならないのですか?」

「え……?」

 可憐の言葉に、舞はゆっくりと顔を上げた。

「私は、……いいえ。私たちは、お友達がいないんです」

 目が合った舞に自虐的な笑みを浮かべながら、可憐は続ける。

「私たちは、『姫百合』ですから。日本有数の名家に生まれ、不自由無い生活を送る……。私は、私たちの立場が、人よりも恵まれていることは自覚しています。……それでも。それでも私たちは、『普通』が欲しかった」

 隣で肩を震わせた咲夜に、可憐はそっと寄り添った。愛おしむように、ゆっくりとその頭を撫でる。

「だからこそ……。もしかしたら、と……思ってしまったのです」

 舞は可憐が何を言いたいかを理解した。舞も『姫百合』と並ぶ『花園』のお嬢様だ。境遇は同じ。思いつくアテも同じだった。

「咲夜はとても嬉しそうでした。昨晩出会った先輩は、私のことを『後輩』として接してくれたと。敬語を使わず、ご機嫌を取るような真似もせず。ただ、『普通』に扱ってくれた、と」

「……私たちからすれば、その『普通』が『特別』ですものね」

 可憐は、舞の言葉に「そうです」と言って頷いた。

「私も思ったのです。中条さんと出会って、もしかしたら……私にも友達が作れるのかな、と。もしかしたら、私も他の方々と同じように、『特別』なんかじゃない。普通の……ただの姫百合可憐として……見てくれるのかなって」

「……可憐」

 普段の彼女からは想像できぬ感情の吐露だった。

「だから……」

 少しだけ。

 少しだけ涙ぐみながら。

 それでも可憐は胸を張って言う。

「舞さんと中条さん。貴方たちとは、対等なお付き合いがしたいと心からそう思います」

 力強く、宣言する。

「私も、友達が欲しいのです。対等に付き合ってくださる、友達が」

 舞はその双眸を大きく見開いた。彼女にとっても「友達になってください」とお願いされるのは初めてだったのだ。

 舞と同じ立場にいる可憐は、舞の今の心情が手に取るように分かっている。

 分かっているからこそ、続ける。

「私も、……私たちも協力します。中条さんを引き留めましょう」

「わ、私も頑張りますっ」

 可憐に続き、咲夜も握りこぶしを作って宣言した。それを暫し呆然と聞き入っていた舞は、何と答えていいか分からず顔を真っ赤にしてもごもご言いながら俯く。

 そんな舞に、可憐と咲夜はゆっくりと近付いた。

 可憐が手を差し出す。

「これからも、よろしくお願いします。花園さん」

 これが姫百合可憐の、慣れないながらの精一杯の歩み寄り。舞は、その差し出された手を恥ずかしそうに見つめながら一言。

「……舞」

「え?」

「こ、これからは、……舞って呼んで頂戴」

 少し視線を泳がせながら、舞がそう言う。可憐はその仕草に思わずクスリとしそうになったが、ぎりぎりで堪えることに成功した。

「では、私も。可憐と」

「……っ、……ええ。ええ!! よろしくね、可憐!!」

「よろしくお願いします。舞さん」

 固く握手を交わす。そして舞は、もう片方の手で自らの燃えるように赤い髪の毛をそわそわ弄りながら。

「そ、それから……。悪かったわね。今まで、冷たく当たってて」

 さらに顔を真っ赤にしながらそう言った。

 この一言には、可憐も思わず目を丸くした。

「……え?」

「そ、その……」

 舞はもごもごと口を動かしながら。

「ひ、ひがみ? と、言うか……八つ当たり? な、なんかそんなので、貴方には強く……というか、失礼な態度で当たっちゃってたからさ……」

「……」

「だ、だから……ごめん」

 がばっと、舞が頭を下げる。可憐は、自らの心の中が何か温かいもので満ち足りていくのを感じた。

「舞さん、顔を上げてください」

 可憐の言葉に、舞が恐る恐る顔を上げる。可憐はにっこりと微笑んだ。

「平気です。気にしてません。だから、これから仲良くしてくださいね」

「……ええ、もちろん!」

「わ、私も、私もよろしくお願いしますっ!!」

 握り合った二人の手へ重ねるようにして、咲夜も手を伸ばす。

 人気の無い昼休みの屋上で、3人は恥ずかしそうに笑い合った。

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