Rebellion
久しぶりの投稿です。説明ばかりの地の文ですみません。ここから、物語は大きく動き出します。
3.
Rebellion。
それはS級国家であるアメリカ、ロシア、フランスなどを中心として作られた反体制組織である。
今、世界では、全ての国が、S〜Dまでの5つのランクに分けられている。だが、Sに近づけば近づくほど、逆に国としてのランクは低くなっていく。ランクが低い国は国際会議などでの発言権を失うばかりではなく、世界国家共同体(CWN)という国際的な平和維持組織に定期的に費用を出さなくてはならない。他にも、エネルギー資源、食物、軍事予算などにも一部制限がかかっている。だが、実際はランクが低くなるほど国土の広い国、豊かな国が集まる傾向にあり、それらが国際社会に影響を与えてるのは否めない。よって、国自体が倒産しないようにバランスを取ることも必要で、現状はCWNがアメと鞭を使い分けている状態である。
ちなみに、日本は最上位のDランクに属している。他に北欧諸国などを含むD級国は実際に世界を動かす側にいて、さらに特権として、"神器"という世界のバランスを保つための兵器を所持する権限を持つ。その姿は誰も見たことがなく、実在すら疑われているが、物によっては、"天上の神すら殺す"と言われている恐ろしいものらしい。日本が持っている軍事力とは実際"神器"のみで、もともと資源が少ないせいでSからCまでの国に依存しっぱなし、鉱物資源はもちろんすでに枯渇、ついに食料自給率すらこの間10%を切ってしまっているという状況下、軍事力に予算を割く余裕もないのが原因だ。
そんな国際事情の中、Rebellionはその体制に反発する形で生まれた。なぜ、自分たちの国は搾取される側にいるのか。確かに、ランクの高い国には発展途上国やほぼモブのような国ばかりが集中している。それなのに、少なからず世界に影響を与えてきている先進国がなぜ不当な扱いを受けなければならないのか。そんな疑問を解決するために、あくまで平和的に謎を解明しようというのが方針である。ここでもし武力を用いて上位国に反発した場合、自分たちの国家の立場がさらに悪くなるという、自らの首を絞める本末転倒な結果になるのが分かっているので、強硬手段は全くとらない。しかし、非公認の非政府組織であり、テロ活動のテの字も行っていないにも関わらず、全世界の殲滅対象にある…まるで、そこには知られたくない何かがあるかのように。
よって、Rebellionは国のために動いているにも関わらず、それらの国の政府からも敵視されており、団員はもし見つかれば問答無用で拘束される。よって、必然的に秘密裏に活動を続けているが、ここ12年目立った成果を特にあげていない。主な"調査対象"が一向に現れていないからだ。私が脱退する頃には、もう任務もかなり少なくなり、政府からもしつこく狙われることなく、誰もが自然消滅したと思っていた。
しかしながら、事の発端は、私が留学する前、7月25日に起こった。
その日は、愛知県からわざわざ手伝いに来てくれた祖母・美代と共に荷造りを終え、こっちの知り合いに挨拶して回っているような忙しい日だった。うだるような暑さの中、ようやく自宅のマンションの一室に戻ってきたとき、玄関先に小さな影が出迎えに来ていた。
「マヒロ様ー。シークレットコード・R1に緊急メッセージですぅ!」
焦りを含んだ声でそう報告したのは、HWRのソルシェである。彼は10年以上前にRebellionから支給されたフルオートの、言うなればお手伝いロボである。そう言えば聞こえが良いが、実際の機能はもっと別のところにある。市販のHWRとは完全に違う目的が…。
ちなみに、名前の"ソルシェ"は私自身の命名で、フランス語で「魔法使い」を意味する言葉を可愛く読んだものである。子供の頃の私には、機械技術ですら人智を超えた力に思えたのだろうか。ちなみに、その単語は、私自身の組織内でのコードネームでもあった。
そのソルシェが言うには、どうやら組織用の回線に、暗号通信が届いたらしい。その回線を使ったのは私が脱退する直前、恩師とのやりとりが最後となっているので、10年ぶりと言ったところか。緊急ということは、まさか…不吉な予感しかしてこない。
ソルシェの報告を聞いた美代も、目の色を変えた。
「なっ!コードR1…なぜこんな時間が経った今に…!!真大、あんたは
もうあんなやつらと関わりになったら…」
祖母は私の本当の過去を知る数少ない人物の1人である。両親の死後は、私をいつもサポートしてくれている。何を隠そう、組織に私を一時的に引き渡したのも祖母だ。祖母は実は組織の古株で、本人の意思と組織の意向のため、私を保護することになったらしい。……保護…とは言い難い。組織にはさんざんこき使われたからだ。保護する交換条件だったため、それについては祖母すら口出しは出来なかった。
コードRは祖母と私の兼用だったため、もちろん彼女もその存在を知っている。ただ、R1は私専用、R2は祖母専用。R1に来たということは、私へのダイレクトメッセージである。
「真大、あんた、もし組織とまた関われば、2度と表の世界で生きていけなくなるかも…今すぐそのメッセージを消して」
何か嫌な予感はするものの、私はとりあえずチェックすることに決めたのだ。消すという選択肢はない。
「ソルシェ!パソコン!」
そう命令すると、
「真大!」
美代が私の肩を掴んで、無理やり振り向かせた。こっちを見つめる目は10年前の…まだ現役だったころのものとそっくりだった。
「もうおばあちゃんはあなたをあんな目に巻き込みたくない…!そのせいで、あなたはまだ小さかったのにどんどんボロボロになっていった…。もうあんな姿、見るに耐えられない!」
「わかったから、おばあちゃん、まずはとりあえず内容を見てから決めよ、ね」
そういって美代の手を優しくどけたら、靴を脱いで、左手にある自室に向かう。美代も何かまだ言いたげな、不安げな様子でついてきた。
「では、パソコンを起動しますね」ソルシェは自らの腹と頭からそれぞれキーボード、ディスプレイ型の映像を映し出した。空中に浮かんだそれらは、人がタッチすることにより機能する。ディスプレイ、キーボードが物体で存在するタイプは旧式で持ち運びもできないので、自宅ではHWRに内蔵された、多くは腕に付けるタイプの端末(店に入った時は、それを自動支払機に挿入することで、勝手に残高から引かれていく)を外出時には抜き出し財布に保管することで、場所を選ばず使用できる。クレジットカードと一体になっていることで、通信販売を利用した際もそれに電波が送られ支払いも済まされる。銀行の口座を作るのが面倒だったため、この形態にした。もちろん、ここまで情報が凝縮されているため、紛失すると大変なことになるが。
肝心のパソコン機能も、宙に出力するので、場所もとらないし、持ち主の視覚にしか写らないような電波が設計されているので、プライバシーも守ることができる。
そんな精密機器を搭載したHWRは丸っこい、背丈50cmほどの人型ロボットで、元は愛玩用のペットロボだったらしい。それにここまでの多機能を取り入れられたのは我らが日本の技術力の賜物である。原料、燃料は全てを輸入に頼らなくてはならないが。
さて、映像型パネルを操作し、とある回線に接続すると、"CAUTION"の文字と共に、「これから提示される情報は、全てA級の極秘事項で、支部長および支部長が許可を与えた者のみ閲覧を許可す」というアナウンスが流れた。私はディスプレイ上部のスピーカーホンに本名とパスコードを音声入力し、緊張の面持ちの祖母・美代と共についに10年の時を経たタイムカプセルを開けたのだった。
そして7月31日、アメリカ、WI州立大学の食堂。
私は1人の男と対峙していた。
「やあ、君がマヒロだね。僕はRebellion第4地区本部長、アイザックだ、よろしく」
アイザックと名乗った男は握手を求めきた。一瞬、慣れていない挨拶の方法に戸惑うが、それに応じ手を握る。
「おぉ、そうか、ジャパニーズは握手とかハグとかをしない民族だったな。こりゃ失敬」
この男、常ににこやかに見えるが、目が全く笑っていない…。
「そんな怖い顔するなって。まあ気持ちは分かる。脱退したはずの組織から、なぜまた呼び出されたのかってな。まああまり固くならず、フランクに行こうや。それとも自己紹介でもして軽いアイスブレイクでもするかい?」
そういいつつ席を勧めてきたので、とりあえず腰掛けることにした。円形のテーブルの隣同士の席に、向かいあって座る。
改めてアイザックを見るが、とても胡散臭い男である。スーツを着込んで、薄いサングラスをかけているのでまるでSPか何かを思わせるが、赤字に白の蝶ネクタイをつけており、これではまるで芸人である。薄いサングラス越しに見る目は青く、まるで心を見透かされているような気持ちになる。
…メッセージはRebellionアメリカ第5地区本部からのもので、一言、この大学へ夜中の0時きっかりに来るように、とあった。生徒たちは夏休みなので、みな寮から親元へ帰っている。その合間を利用しようと集合場所をここにしたらしい。
アメリカの学校は9月から始まる。しかし、私の場合、留学エージェントの意向で、その一ヶ月ほど前にはホストファミリー宅に着けるように手配されていた。少しでも、現地に慣れてから学校生活を始められるように、という配慮からだ。しかし、Rebellionに呼び出されたため、さらにその前、つまり7月末である今、私はすでにここに来て短い間だがホテル暮らしを強要された。費用はもちろん組織持ち。最上階のスイートルームを用意してくれたうえ、日本食まで出してくれるというVIP待遇ぶりだった。
大学はホテルの近くにあるので、ここまでは歩いて移動してきた。
東京と違いここは電灯や街明かりなどがないため、夜は基本的に真っ暗である。その代わり、星明かりはとても綺麗で、夏の星座から流れ星まではっきりと見える。夏なのに涼しい夜の中、人に会いに夜抜け出す…というシチュエーションだけは少しロマンチックな気もするが、今から始まるのはそんな楽しいことではない。
そんなわけで今に至る。
「さて、アメリカはどうだい?日本よりは格下の国だが、自然も豊かでみんなの人柄もいいだろう?」
アイザックが話し始めた。私も、少しゆっくりであるが、英語で答える。
「ええ、何せ大陸一つを占める大国ですから、東京よりも人口密度が低いのが何よりの救いです…空気も美味しい」
大昔の地図を見てみると、北米大陸にはアメリカの他にもう一つの国、カナダが確認できるが、今やアメリカはそれを吸収し、大陸まるごと合衆国である。そのため、首都は2つあり、州はそれぞれが独立し、州法に基づいて政治を行っている。ただ、国境で分けられていたときの名残りとして、国勢調査局は元アメリカの第9地区まではそのままとし、元カナダを分割して第10地区以上とした。
Rebellionの言う「地区」は国勢調査局のそれに基づいており、アイザックが支部長を務めるRebellionの第4地区本部は、旧国境付近西北中部を管轄する、「境界線の番人」の役割を果たす。しかし、今いるWI州は第3地区にあたるため、完全に守備範囲外。そのため、支部長権限は発動せず、何が起きても自己責任になり、さらに大きな活動をすれば同じ組織内で粛清される。無論、何か派手なことをすれば政府がまず飛んでくるが。
また、第5地区はアメリカ第1首都のワシントンD.C.を含む地域を管轄しているため、他の支部をまとめるリーダー的な役割を果たしたいところだが、さすが首都なだけあり、政府の規制も極端に厳しいため、実際は余り機能していない。ただ、情報などは必ず1度第5地区を介して他の支部へと送られるという、全ての機密の集う地である。
「英語力も問題なさそうだな…。さて、こんな深夜にも関わらず、このあとすぐ支部に戻ってやらなければいけないことができたせいで、実は君と話せる時間は少ないんだ…本題に入っても大丈夫か?」
「ええ、いつでも」
アイザックは笑みを消し、こちらに向き直った。
「君を呼び出したのは他でもない…君にまた組織に戻って欲し…」
「お断りします」
「即答かよ…」
アイザックは、参ったな、という風に頭を掻いた。
「私たちが過去に君にしたことは決して許されるものではないと分かっている。しかし、君が協力してくれないと、今度こそ本当に一般人を巻き込んだ大惨事になる。いや、実際にはもうなってしまったんだ」
…この話、思っていたより深刻かもしれない…私はとりあえず話だけでも聞くことにした。
「それで…何が起こったんですか?」
「フフ、興味が湧いてきたかい?いいだろう。…約一週間前、7月22日の話だ。10年ぶりに、Giftedの痕跡が確認された」
真大を呼び出したアイザックが語り出す、衝撃的な出来事とは…
次回、"Gifted"、乞うご期待!