お宝探し
二人は森の木で作られた小屋を見上げていました。
人間が住んでいた小屋です。この森で建築能力のあるのは人間だけですから、この小屋は人間が住んでいたものに間違いないでしょう。
小屋の周りは手入れがされていて、草も木も刈られていました。まるで庭のようです。
「ここにお宝があるのね」
「だといいな」
怪物はあまり宝に興味はありませんでした。
「探しましょう」
少女の言うままに怪物は宝探しに付き合わされます。
まず小屋からです。棚を開け、壁や床を調べ、二階へ上がり書斎を漁ります。
しかし何も見つかりません。小屋の中にはないのでしょうか。
「次は外を調べましょう」
二人は外に出ると、井戸に目を付けました。この井戸は何処から水を引いているのでしょうか。少女が中を覗き込みます。
「駄目ね。空っぽだわ」
どうやら井戸には水がないようでした。
怪物も覗いてみますが、確かに中は空で、暗闇がぽっかりと手を伸ばしているだけでした。
他に探す所はないか辺りを見回します。すると、地面の少しくぼんだ所に、布がひらひら風に吹かれているのが見えました。何かと思い近づくと、地面のくぼみの中には人間の死体がありました。きっとここで山猫と一緒に暮らしていた人間なのでしょう。肉は腐っていますが、カラスに啄まれた痕も獣達に食い荒らされた痕もありません。それは何だか異様なことでした。
「なるほどね」
少女が呟きます。
「何がだ?」
「これがお宝よ」
「意味が判らない。こんな悪趣味な宝があってたまるものか」
死体が宝であるはずがありません。そんなことは幾ら怪物でも知っていました。
「こんなに綺麗な死体なのよ? この森でこれだけ珍しいものがあるもんですか」
森は弱肉強食の世界なのです。死んだものは食べられるのが道理ですから、少女の言う通り、補食されていない死体は珍しいものに違いありませんでした。
「まあ確かに珍しいものではあるな。しかし、こんなものが宝だなんて少し拍子抜けだな」
「いいじゃない。私はきっとこんな風には死ねないから、感動したわ」
少女はこれから森で生きるのですから、こんな風には死ねないのです。
「あなたはどう死ぬの? どんな風に死んだかでどんな風に生きたかが決まるわ。死に方は重要よ」
「俺は……」
「判らないわよね。ごめんなさいね。実のところ、私だってどんな風に死ぬのかは判らないわ。けど森で生きて行くなら、食べられて死ぬのが自然だと思うの。あなたは何処で生きるの? 町? 村? それとも森?」
判りません。何処で生きた所で同じような死が待っていると怪物は思うのです。居場所をなくして、孤独に死ぬ自分しか思い浮かばないのです。
「その内決めるさ」
怪物は精一杯答えます。
「そう。きっと決めてね?」
少女は怪物の顔を覗き込んで言いました。少女はやはり何を考えているのか判らない表情をしていました。
二人は死体を見つめます。何故小屋の中ではなく、そとのくぼみに埋まっていたのでしょう。不思議な死体です。
「私、ここに住むわ。今日からここを私の縄張りにする」
少女は何を想ったか、そんなことを言いました。
「よいのではないか? ここなら雨風も凌げるしな」
人間には毛皮がありませんから、暖をとる場所が必要なのです。
「この死体は埋めましょう。もうここは私のものなのだから」
少女はそう言うと、小屋からスコップを二つ持ってきました。怪物にスコップを一つ渡すと、くぼみを掘り始めます。
「あなたも手伝って」
少女の言う通り、怪物も穴を掘ります。
穴はすぐに深くなり、二人は労せずして死体を埋めました。
「よし。ここに住むなら水源を確保しなくてはならないわね。川を探しましょう」
「素敵な場所とやらには何時になったら案内してくれるのだ」
「大丈夫よ川の方にあるから」
少女は、行きましょうと言って歩き始めました。
怪物には少女の、行きましょうと言う言葉が、生きましょうと聞こえたのでした。