表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変な学校  作者: akaoni0026
8/61

其の八

「ねぇ〜今日どこ行く〜〜?」

「いや、どっこも行かなくていいだろ」

「えぇ〜!つまんない!」

 いつもの家の様子がこれだ。もちろん学校から下校した後の話で、律佳はいつも外に出たがる。元気がありあまっているのだろう。しかしそれは、耕輔にとっても、まわりにとっても、いいことではない。律佳は外に出ると余計なことばっかりして、面倒なのだ。だから、外には出ない。正確に言うと、出たくない。

 出たくないと思っていても、律佳にかかると、毎回外に出なくてはならなくなるのも大問題で、例えば家の食べ物全部をなくす(=全て食う)なんてことは、嫌でもいつもある。非常に困る。

「仕方ないなあ・・・今日は私一人でどっか行ってくるよ」

 これは珍しい。一人ででかけるとは。うん、いいことだ。

「あ、ああ、気をつけて」

「うん!」

 さっさとシューズを履いて、玄関を出ていってしまった。

「・・・なんか無性に嬉しいな・・・」

 律佳と暮らし始めて五ヶ月間。何故か、こうやって一人になったのは久々な気がする。なにせ学校でも毎日ヤツが隣。明けても暮れても隣。一人の時間が極度になかったのだ。いや、一人の時間最高。

 ――ドゴーン

 はっはっはっは。幸せー・・・って?何の音だ?

 ――ドゴーン

 工事かな?ま、いいや、紅茶でも入れてクッキーを・・・ああぁ・・・考えただけで至福のときが・・・

 ――ドゴーン

 ・・・・・・うるさいな・・・。見てくるか。

 靴を履いてる間にも、その轟音は聞こえてくる。何だかとても不吉な予感だ――

 外に出ると・・・

 恐ろしい光景が視界の中で繰り広げられていた。

「このっ!このっ!このっ!」

 一定感覚で、止まっては離れ、止まっては離れる一匹の鳥。移動してきた区間だろうと思われる壁は、見事に上だけ吹き飛ばされ、歯が抜けた壁のようになっていた。

 そんなことになった理由は、その鳥を何故かアッパーで仕留めようとする律佳のせいだ。

 何でストレートで攻撃しないんだよ・・・。と思うが、意味がない。だって、アッパーなんだもん。

「ってコラァーーーー!!」

 怒鳴って律佳のところへ歩いていく。何故か彼女は、これ幸いとした顔で、耕輔を見ていた。

「なにやってんだよ!!律佳!!」

「違うんだよ!こうすけ!」

 何が違うと言うのか。ちなみに鳥は、壁から律佳の頭に移っていた。

「この鳥が逃げるから!ムカついてやっちゃたんだよー」

 ど・こ・も・違わないじゃないか。見た目通ーり。はははは。あー、頭イテー。

 ・・・無駄とは思うが、一応アッパーの理由を聞いてみることにする。

「何でストレートで攻撃しなかった!?」

 律佳はもじもじとして、うつむいた。

「だって、ストレートだと避ける猶予が鳥にはないでしょ・・・?あと足場をなくしてく意味で、アッパーでぇ・・・」

 壁を壊したと。なるほど、後戻りすれば壁がなくなっていって、だんだん地に近づくと言う戦法か。それはなかなか。って

 理由になってねーーーーっ。

 とは思うがもう何だか、とりあえず壁どうすんだよ・・・。

「ようは遊んでたってことだろ・・・?」

「うん・・・」

 そんな遊び、やめちまえ!と言うのは簡単なので、二、三プラスして言ってやる。

「お前なぁ!鳥殺そうとする遊びなんかすんなよ!!」

「違うよ!殺そうとなんかしてない!」

 殺す気なかったのにアッパーしてたんかいっ!!大問題だぞ!永久的に終わらなかった可能性が!!いや、一つの生命が助かったことを喜ぶべきか?いやいや、もとから壁破壊すんのが大問題だっつーの!!

「言ったじゃん。遊んでるだけだったんだよ」

 と、人差し指をぴっぴっと振るう律佳。

 何を自慢気に言う。

「つまりー」

 俺が抑揚のない声で言った。さながら保育園のお兄さんのように。

「うん」

「壁ぶっ壊して遊んでたと」

「うん」

 ・・・・・・はあ・・・・・・なに、ソレ・・・笑えない・・・。大体壁壊して何が楽しいの?ねえ、ちょ、何が楽しいの?病的に聞きたかったが、ここはグッとおさえる。俺は、保育園のお兄さんだ!!(と思うしかない。

「結局鳥の意味はー・・・?」

「口実だよ!」

 ぐっとガッツポーズする律佳。そのガッツポーズの意味を教えてほしい。

「そっかー・・・鳥狙ってたーって言ったら壁壊してた理由になるもんなー」

「そうそう!!」

 なるかーーーっ!!アホーーーッ!!

「じゃあ、とりあえず帰ろうか・・・」

 これ以上の被害を出すとヤバい。いや、もう、通り過ぎてると思うが。とりあえずこれ以上、律佳を放置するわけにはいかない。

「うん」

 と帰ろうとした時、律佳が待ったをかけた。

「何だ?」

「うん・・・ちょっと待ってね」

 彼女は、頭に乗っている鳥を、ばっと投げた。いつのまにか夕日になった空へ向かって飛んでいく鳥を見送って、

「さ、帰ろう・・・?」

 彼女がさびしげに言う。

「ああ・・・」

 トボトボと帰る。この壁どーすんだよ・・・なぁ、どーすんの・・・。

 答える者は誰もいない。

「あー、ちなみにー。帰っても食べるもの、ないから」

 彼女が人差し指を立てて言った。

「何で?」

「全部食べちゃったから」

 夕日が恐ろしく綺麗な日だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ