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変な学校  作者: akaoni0026
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其の七

 今日も出る出る怪物出没。そのたびにこやかに律佳がそれらを惨殺していく。校内は緑になって行くし、律佳も合わせて緑になっていく。

「今日も討伐完了!」

 ばしっと拳をもう片方の手で受け止め笑う律佳。毎度ながら楽しそうにやってくれる。

「いやー、気分爽快だねっ!」

 振り返り様こう言ってきた。感想は言うまでもなく、やっぱり、だった。

 こうやって毎日倒していくうちに、何だかこれが当然のように思えてくる。しかしこれは緊急行動であり、決して当然などではない。怪物がいつか止むことを信じて、闘っているのだ。

 さて。緊急行動も終わったし、解除ボタンを押すか。

 説明していなかったが、怪物を全て消滅させた後、“緊急行動終了ボタン”(解除ボタンと呼んでいる)を押し、グラウンド側から見た校舎にデカデカとつけてある、“緊急ランプ”の赤い光をこれで消し、グラウンドに緊急退避している生徒たちに安心を報せ、生徒たちが帰ってくるようになっているわけだ。

 このようにカンタンな設備で済んでいるのは、何故か怪物は、日が上がっているときにしか出ないことと、外には出られないことが判明しているからである。

 とりあえずそのボタンを押そう。

 とした瞬間だった。

「――待った!!」

 律佳が叫んだ。

「どうしたんだ?まだ怪物がどっかに?」

 そんなことがあっては、生徒が入ってきた順に怪物たちの餌食だ。思ってはいけないのだが、なかなかどうして、生徒がさかさまになって怪物たちに食われていく様が見える。『ぎゃあああ』等と背景に書いてある。

 そんなことはいいとして、律佳は汗をつつっとかいて、頭を振った。

「うぅうん。いないけど…」

「じゅあいいじゃ…」

 ないか。と言うまでに、律佳がカットイン。

「待って!!それは核爆弾スウィッチだよー!」

「はあ?」

 焦ってさらに汗を噴出し、叫んできた。

 …わけのわからんコイツの理由を考えてみよう。

 …すぐにわかってしまった。なんとなしに情けない。


 あれは授業中のことだ。授業に苛立ちを隠せなかった律佳は、「意味わかんないよ!!」と叫びながら歴史の教諭を殴り飛ばしてしまった。普通、律佳の拳を受けた者は絶対立てないのだが、その教諭は、よろよろと、奇跡的に立ち上がり、「お前は補習だ」と、律佳に宣告したのを覚えている。この教諭の補習は面倒臭いことで非常に有名だ。

 律佳は、きっとこの補習が嫌で、もっと長引かせて補習以下授業をさせないつもりだろう。

 だがそれを怖がるより、そもそも先生が授業、もとい補習出来る体ではない(律佳の一撃を受けて、無事でいられるはずがない)し、それに補習でも済むならお安い御用のはずだ。なにせ、教諭殴ったらフツー退学だろう(何で補習で済むんだ?)。とりあえず、補習は怖がらなくていいと思う。

「もういいから押すぞ」

 と押そうとした時、また律佳が止めた。

「ダメダメ!!それ地球破壊爆弾のスイッチだよ!」

「んだからー・・・」

「要人の破壊ボタンかも!?」

「いや、やべーだろ――」

「人工衛星の自動破壊用だったり!?」

「いや、これ手動じゃない?――」

「五年前埋めた起爆装置かも!!」

「いや、埋めてないしお前と会ってもないって――」

「私の妊娠ボタンだ!!」

「え!?そうなの――」

 と聞き終えたところで、カウンターでボタンを押す。

「きゃああああ!!生まれるぅっ!」

 律佳がかがんで痛そうに腹を押さえてしゃがみこむ。

「だからねーだろって」

「じゃあ世界のどこかで大統領が!!」

「爆破してない爆破してない」

「地球が破壊されッ――」

「あるって。地球」

「じゃあやっぱりお腹の赤ちゃんだぁーーーっ」

 うわーんと言いながら、何故か僕を恨めしそうに睨んで走って行った。

「なんなんだよ・・・ったく・・・」

 と振り返ると、ぞろぞろとクラスのみんなが帰ってきていた。

「あ、ああ・・・そんな・・・律佳ちゃんと耕輔クンが・・・緊急行動中にそんな破廉恥なことを・・・」

 ペタリと白い頬に手をつけて、次の瞬間真っ赤になり、ヘナヘナと壁にもたれかかる智香。

「お、お前ってヤツは・・・!!」

 さして僕のことはきにせず、智香を支える雪也。

「おいおい・・・マジかよ・・・」

「私はやると思ってたわ・・・席も横だったし・・・」

「賭けが当たったぜー!」

「律佳ちゃん大丈夫かしら・・・」

 と口々に言うクラスメイトたち。

「ち、違うんだ!!これは!!」

 じりと後ずさると、そこへ律佳が、白い布で“何か”を包んだものを抱いて、憂鬱気に歩いてきた。緑まみれだった服が、いつのまにか綺麗になっている。

「見て・・・赤ちゃんだよ・・・」

 う、嘘だ!!人形に決まってる!!

 そう思いながら“それ”を見てみると・・・。

「ばぶ」

 哺乳瓶を咥えた赤ちゃんがいた。動いてるししゃべってる。あったかい。

「ってええええええぇぇぇっ!!」

 漫画じゃない!漫画じゃない!現実だぞ!!

 そう、現実にいる。赤ちゃん。

 クラスメイトの白い目が突き刺さる。

「うわっ・・・エゲツな・・・」

「多いんだってよ、最近・・・」

「律佳ちゃん大丈夫かしら・・・」

「ち、違うんだーーっ!!」

 と叫ぶが、誰も聞いちゃいない。そこへ、智香が律佳に歩み寄った。

「まあ・・・頑張ったのね・・・」

 赤ちゃんを覗き込みながら、智香が言った。律佳が憂鬱気に赤ちゃんを見ながら、フッと笑った。さながらシングルマザーよろしくの顔だ。

「うん・・・こうすけと別れて、一人で育てるつもりだけど・・・」

 ってか結婚してませんてぇぇっ!!

「そう・・・収入はどうするの・・・?」

 その話が通じる智香には、当然僕の心の声は聞こえない・・・。

 収入云々の話が終わると、今度は智香が切り出した。

「私たちはそんなことにならないようにするわ!」

 何だかいつもの智香と違う調子で言って、雪也にピトッと寄り添った。雪也はそれを左の肩で抱いた。

「うん、頑張って…」

 と律佳は、片目の涙をスッと拭き取ると、僕に向き直った。

「じゃあ、幸せにねっ…」

 律佳はふわっとポニーテ−ルを風になびかせ、後姿を見せて走り去った。

「お、おうい…」

 その“時”の“なんとなく”の流れに逆らえず、僕は彼女を引き留められなかった。

 っていうか…。

「どーなんだ…?コレ…」

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