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変な学校  作者: akaoni0026
6/61

其の六

 ある日猫を踏んでしまった、

「みゃあ!!」

「あ、ごめーん」

 律佳がいた。

 ここは近所の守盥(かみたらい)公園。住宅街から近いので、柵で囲まれているが、結構な広さがある。遊び道具はいたってフツーで、滑り台や砂場、シーソー、ブランコ等。

 その公園の砂場の横で、事件は起こった。

「見たことないカタチだな…キミ、なんての」

 律佳は猫を踏んだことがない。もとより、猫を知らないのである。情報を主として嫌う律佳は、極限的にモノを知らない。驚異的知識を誇るなら、食べ物に関することか。

「みゃあ」

 猫はすっかり落ち着いた様子で、答えた。滅多にないことだが、踏まれ慣れているのかもしれない。

「みゃあ…?変な名前だね。じゃあみゃあクン、家はどこ?」

「みゃあ」

「名前じゃないよ、家を聞いてるの」

「みゃー」

 猫は歩きまわるのをやめ、尾を巻いて座った。律佳もしゃがみ込む。

「ねってば。しゃべれないの?」

「みゃお…」

「そういえばドク太も喋れなかったもんなぁ」

 ドク太とは、隣の隣の家の人の犬の名前だ。

「みゃあとは違ったけど、ワンしか言わなかったよ」

 言いながら、猫の頭を撫でてやる。

「にゃあー」

 どこかしら笑っているように見える。と思うと、みゃあは何かを思い出したらしく、いきなり駆け出した。

「あ…!ちょっと待ってよ!」

 まず猫は手頃な木に登り、頂上から周りを見回した。律佳は、そこをひとっ跳びで登った。

「みゃあ!?」

 何故かみゃあが毛を思い切り立て、ビクゥッと擬音を出した

「ナニ?」

 とりあえずみゃあは、その恐ろしい出来事を置いといて、周りを見渡した。

「よお、母さんでもいんのかよー?」

 律佳も一緒に探してみる。

「み!!」

 発見したようで、みゃあはそこを飛び降りて、その場所へ向かった。律佳も慌てて追う。


 「みゃ!」

 と何故か仁王立ちで爪(指)さした方は、魚屋だった。

「ここお前んち?」

「みゃ!」

「ふーん…」

 と納得していると、店の店主が出てきた。

「へい、らっしゃい!」

「あー、いえ。見てるだけだから」

「そうですかい…」

 何故か恐ろしいほどどよんとする店主。律佳はいつものように小首を捻った。

「何でそんなに落ち込むの?」

「いや、よく盗られるんすよ、魚が」

「魚が?」

「ええ…ほら、そこの猫ちゃんのような猫に・・・ってあああ!!」

 その猫――みゃあが、一匹の鮭を今持ちさらんとしていた。

「っこの!」

 乱暴に捕まえようとしたところを、その突進する力+上への突き上げ運動の拳を、律佳が放った。アッパーだ。

「うお…ッ」

 店主は約2mほど打ち上げられ、自由落下で落ちた。その頃には、律佳とみゃあの姿は完全に消えていた。

「にゃあ」

 律佳はどこからか袋を仕入れて、盗んだ鮭をそこに入れ、みゃあを抱いて歩いていた。

「いきなり攻撃しようとするなんて卑怯だよね」

「にゃあ」

「せめて、いくぞコラーくらい言って欲しいよね」

「にゃあ」

「…いきなりしっぽ踏んだのは、いいの?」

「にゃあー」

 心なしかみゃあが笑った気がしたので、律佳は許されたんだと納得した。

「みゃあ!!」

 突然みゃあが律佳の手を離れ、道路の脇の溝へ入って行った。

「あー、もう、またぁ…」

 律佳がそこを覗くと、違う猫がいた。みゃあより大きい。多分みゃあの母だ。しかし律佳には、それが分からなかった。ライドに両親などいない。しかし代わりに思った。それは・・・

「みゃあにも、こうすけがいるんだね」

 にっこり微笑んで、袋に入った鮭をそこに放した。理由は分からないが、何故だかそうしたくなったのだ。それをみゃあは喜んで、みゃあみゃあ鳴いた。

 律佳にとってもうここに用もないので、彼女は立ち去った。

 いや――。去れなかった。動けない。何故だか離れたくなかった。さびしい、もう会えないかもしれない。そう考えると…。そうゆう感情が初めて生まれた瞬間だった。だが――

 次の時には、律佳はそこにいなかった。

 目から“水”が出てくる。止まらない。止まらない。よくわからない。そのおりみゃあの顔が浮かんでくる。幸せになるといいな。

 とりあえず、私も帰ろう。こうすけのところへ。

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