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変な学校  作者: akaoni0026
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其の十三の二

 と、思ったのだが、結局雄谷は、“意味が分からない”ままその出来事を自己完結して終わらせてしまっていた。

 人の気持ちなんて知ったこっちゃない。僕にはそう見えた。

「……」

 そして今、微妙にイラついているのか、視点定まった様子で机の上を無表情に眺める雄谷を、椅子に座って耕輔は眺めていた。

「…鈴さん」

「なぁに?」

 雄谷が隣に座っている鈴に声をかけた。彼女は今裁縫中で、人形をつくっているようだ。

「聞いてください。実はおとといに、こんなことがありまして――」

 意外にも雄谷は、まだ自己完結していないらしく、心内あの少年の行動にクエスチョンを据え付けていたようだ。彼はおずおずとあの出来事を語り始めた。途中鈴が疑問詞を挟んだ。

「――で、そのコはどうなったの?」

「ええ、僕を投げ捨てて行ってしまいました…」

「あら…ケガはなかったの?」

「頬に擦り傷が。しかしそれは問題ではない。何故彼は僕にあんなことを…」

「うーん…」

 関係はないが、歳が同じなのに、その様子はまるで子供とその母親のようなやりとりだった。自然と笑みがこぼれてしまう。

「うーん…」

 聞き終えた鈴は、裁縫をやめて、考え始めた。いや、彼女には最初から答えが見つかっているハズだ。ただ、それをストレートに言っていいものか悩んでいるのだ。

 数秒後、腹を決めたようだ。

「・…多分、それは雄谷君が悪いよ」

 雄谷の眼が少し大きく広がる。

「僕がですか・・・?何故」

 雄谷からしてみれば、励ましたつもりだったのだろう。しかしそれは無用であり、しかも相手を傷つけてしまったのだ。雄谷にはそれが分かってない。

 この内容を、鈴は雄谷に話した。彼はいつもの顔になり、何を考えているか分からない顔になった。

「…そうですか。よく分かりました」

 彼はそう言うと、目の前に置かれていたコーヒーを手に取った。当然飲むのだろうと思う。しかし

「あなたなら怒りませんよね?」

「え――?」

 次の瞬間、なんと人形にコーヒーをドボドボとかけはじめたのだ。

 一瞬、見ている耕輔も鈴も混乱した。

 何をしているんだ?と。

「――ちょ…やめてっ!!」

 バシッと雄谷の手を払い、反動でコーヒーカップがフローリングの床に落ち、残りのコーヒーが床にぶちまけられる。とは言ったものの、実際あとわずかしかコーヒーはカップに残っていなかった。鈴が一生懸命つくった人形に、それほどコーヒーが注がれたのだ。人形にコーヒーが吸収されてもなお、机からコーヒーが滴り落ちるほどに。

「あ、あぁあ…――」

 今にも泣きそうな顔で、鈴はコーヒーでずくずくになった人形を持った。つまさきからコーヒーが滴り落ちている。

 それを見てもなお平気そうな雄谷が、ズケズケと言った。

「あなたなら…こんなことで怒りませんよね?鈴さんはそんなに器の小さい人じゃ――」

 ばちん。

 乾いた音が響いた。

 鈴が雄谷をビンタしたのだ。

「…っく…ひっ…ぅく…ゆうやくんなんて…あんたなんてきらい!!」

 ぼろぼろと涙を零しながら、鈴は玄関を飛び出していった。

 ………。

 その場は、沈黙した。机の上から、重力に任せてコーヒーが落ちる音しか聞こえなくなっていった。

「……」

「なあ、雄谷」

「…はい」

「分かったか?」

「…ええ、とてもよく――」

 時計の音も聞こえてきた。

 コッチコッチコッチ。

 もうすぐ七時を回ろうとしている。

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