其の十三
それからいくつかの日を越えた後に、大惨事が起こる。まさか、律佳があんなことをするなんて思わなかった…。俺はその日のことを、“律佳の壊れた日”と、この日記に書き込んだ。…やっぱり、ライドって、“殺戮兵器”なのだろうか…?その事件は俺に、思わずもそう思わせた。
その話しの前に、起こった出来事を話していこう。とても懐かしい…たわいもない、日常の話しを。
その日は特にとても気持ちの良い秋の季節だった。
「あれ?あれって雄谷じゃないか?」
「ホントだー。なにやってるんだろ?」
僕は律佳と共に守盥公園へやってきていた。そこの砂場に一人、とても目立った白髪の少年、雄谷がいたのだ。無表情で突っ立ているその姿は、四年生と言う形容と、砂場と言うキーワードは似つかない。
「ぐすっ…ぐすっ…」
「?」
どこからか泣き声が聞こえてきた。視線を泣き声の主に移すと、そこはブランコの板の上。よくよく見ると、雄谷はその少年をじっと見据えているようだ。
そのうち雄谷は、ずけずけとその少年に歩み寄り(砂場にやっと完成した大きなお城を思わずも破壊しながら)、新たな泣き声にも目もくれず、彼はその少年の前に立った。
「ぐすっ…う…」
「いつまで泣いてるんです」
あまりに無感動な声は、少年の鳴き声と表情を凍り付かせた。それはそうだろう、突然無感動に、いつまで泣いてるんだ、などと言われては、少年でなくとも凍りつくだろう。
「……だって、ゆいちゃんに嫌われちゃったんだもん・・・」
「新しい靴下を汚してしまったから・・・でしょう?」
お前いつから見てたんだよ!と突っ込みたいが、ここはあえて見守ろう。どうやらその“ゆいちゃん”とやらの新しい靴下に、この少年は泥を被せてしまったようだ。
「うん…」
「そんな少女、たかが器が知れています。悲しみに暮れる事などありません」
そんなの小学四年相手に通じるかっつーの!!と頭をポカリやりたいところだが、ここは敢えて聞き逃そう・・・。案の定、言われた少年は首を捻っていた。
「あなたは彼女が好きだった。そうでしょう」
「えっ…」
図星のようで、少年の肌が一気に赤くなった。
「しかし、僕はこう言ってるんです。あの程度で“キライ”等と人を蔑むように言って泣き喚く少女など、相手にしない方がいい」
だから!何言ってるか全ッ然わかんねぇし!さらに小4の女の子にとってはだなぁーーーっ!!?と殴ってやりたいが、ここは、何も言うまい。唇をぎゅうと噛み締めて、我慢だ。
「……」
「さ。もういいでしょう。無駄なことで悩んでないで、お家へ帰りなさい」
その少年は下を向いて、なにやら唇だけが動いていた。雄谷にはその行動が不可解らしく…しかし表情は一向にして変わらない。
「 ? なにをしているんですか」
そう言った途端、涙に濡れた少年の怒りの顔が雄谷を見上げた。
「お前になにがわかるってんだ!!」
「 ? 」
次の瞬間、雄谷はその少年に投げ倒された。両手で肩を掴まれ、、横に投げられたという具合である。雄谷が倒れているその間に。少年は服の袖で頬を拭いながら走っていった。
何を言われたか、何が起こったかすらよく分からないらしい雄谷は、ゆっくり立ち上がって、頬に出来た傷から出た血を拭こうともせず、ぼうっとその少年の背を眺めていた。
「なにやってんだあいつは…」
「ホントにね」
僕と律佳は、その様子をどよんとした空気と顔で眺め終わった後、“山へどんぐりと松ぼっくり探しの散策”を再開することにした。
これであいつにも人の気持ちが分かったかな?