其の十二の二
やはり、試験のことで変わったのだろう。と言うか、それ以外に変われる機会などない。それに、変わり始めたのは丁度試験が終わった翌日からだった。
そうやって的を絞ることが出来るのに、今ひとつ…彼女の“生きよう”とする理由が分からないのは何故だろう。
ある日の雨の強い金曜日だった。いつも突然の通り雨に降られ、僕らは急いで家へ帰っている途中、律佳は捨て猫を見つけてしまい、自分の方が風邪を引くかもしれないのに、「この子風邪ひくかもだから・・・」と抱きかかえて家に連れてきたのだった。
そして今。家の中で、雨で濡れそぼってしまった捨て猫を、律佳は丁寧に拭いてやっているところだった。僕はその様子をボーッとして眺め、ただただ考えていた。
「おい、耕輔」
隣の椅子に座っていた鏡が、愛想のカケラもない声で僕を呼んだ。
「なに?」
「何を悩んでいる」
図星…だったのだが、今回そんなにドキリとしなかった。鏡ならそれがわかるだろう、そうであるに決まっているとすでに覚悟していたからかもしれない。
「決まってるだろ…」
「…律佳の変化・・・いや、何故存在しようとするか、だな?」
「そう…」
存在しようとするか、もとい、なぜ生きようとしているのか。この“現代社会”に。
今言う“生きる”とは、社会的にどう存在しているかを言う。勉強するとか、みんなに献身的だとかと言うのは、全て社会的に生きることに繋がっていくのだ。
しかし彼女はライドであって、人間ではない。それは本人もよく分かっている。しかし、だからこそ、何故あえて存在しようとするのか分からないのだ。ライドは、社会的に活躍する場が皆無なのだ。怪物退治以外は。
「フム…。ジツは俺も…分かり兼ねている所なんだ」
これは…驚いた。
「鏡も?」
「ああ。わからない。だが、分からない理由なら、分かるぞ」
「 ? 言ってみてくれよ」
彼は憂鬱そうな顔をして、語り始めた。
「俺が分からない理由。カンタンだ。俺はライドであって、それ以外のもではないのだ」
耕輔は黙ってその話を聞く。
「律佳はライド以外の者になろうとしている」
「ライド以外…?」
「そう。察しはつくだろう」
耕輔は考える素振りをし、
「…人間か?」
おもむろに鏡が頷く。
「そうだ」
「……」
彼はため息のようなものをつき、俯いた。
「不甲斐ない。それ以外は何も分からないんだ」
こんなに悲しそうな鏡、初めて見るな・・・。
「いや、いいよ。ちょっとだけ、分かったし」
「そうか」
それでも彼は力なく床を眺めるだけだった。
その頃には、律佳はその捨て猫に餌をやって、頭を撫で撫でしていた。
そこに、“トットットッ”ととても静かにフローリングを歩く音が近づいてきた。雄谷だ。
「僕にも、律佳の心理状態は、理解できません」
いきなり何を言うのかと思えば、唐突に本題へ入ってきた。
「はあ」
「しかし…」
「 ? 」
「そもそも。ライドに心理状態なんてものがある時点で、オカシイんですよ」