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変な学校  作者: akaoni0026
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其の十一の十九

 戦闘…やっと試験が終わった。

 帰りは、行きのように送ってもらえるわけではないらしく、色々と“後片付け”があるということで、五郎から頭を下げられ、今、電車に揺られ帰宅途中だ。

 時間は午後5:30といったところで、学生たちが帰宅する時間と合致してしまった。けれど、律佳と智香は制服、耕輔は私服だが、まあ、不自然ではないはずだ。ただ鏡だけが不気味に目立っている。何せデカい上に変な服だからだ。しかも美形(それはあまり関係ない)。雄谷と鈴は、小学四年生らしくもなく、キチッと体勢を整え座っているのだった。

「ねえ、こうすけ…」

 耕輔の肩に頭を置き憔悴し切った様子の律佳が語りかけた。

「ん?」

「私…あれでよかったのかな…」

 あれでよかったのか…ということは、先の試験場の話しだろう。

 これを聞いてくると言うことは恐らく、律佳はあの選択を後悔しているのだ。あの選択とは、敢えて選択せず、闘いを正当に行わなかったこと…。避け続けたことである。

 彼女、コピー律佳の末路は、本当にアレで良かったのか…本当はやられるべきじゃなかったのか、自分の手で止めを刺すべきではなかったのか…律佳だけがその時、それらの選択肢を選べた。

「…良かったんじゃないかな…」

 僕は答えた。

「……」

「少なくともお前は、彼女を殺さなかった。僕はそれを、偉いと思うよ。すっごくね」

 ぎこちなく、その大きな眼を耕輔の眼にじっと集中させる律佳。

「どうして?」

「お前は嫌だったんだろ?彼女を痛めつけるのは」

「うん…」

 傷つけたくなかった・・・そう理解していい。

「けど、あのコ、本当はとっても痛かったと思うの…」

「…?」

 予想外の言葉だった。

「何が、だ?」

「うん…心がね…」

 心、か…。

「どう痛かったと思ってるんだ?」

 律佳は手をもじもじさせ、うつむいた。

「よくわかんない…けど、うんと・・・結局あのコは…何にも出来なかったんだよ…?」

「どうゆうことだ?」

「あのコは、“どっちかが倒されるまで続く”そう言ってたし、このときの為だけに、死んできたとも言ってた・・・」

 それは鏡からも聞いたことだった。あいつは、あのときの為だけに、生きていた・・・つまり、その前は死んでいたってことだ。自分を棄てて。

「私はね、きっと、どっちかじゃないとダメだと思うの。やるか、やられるか…痛い思いはするけど…あのコの心の痛みは、和らいだんじゃないかな…」

「……」

 そういえば、彼女はこの律佳を模して作られた律佳だった。と言うことは、彼女のことは、一番律佳が分かっているのかもしれない。

 そう思い、そうかもしれないな、と発言しようとした時、鏡が隣から無感情な言葉を投げかけてきた。

「下らんことは考えるな。ヤツは“死んだ”」

「え…」

 律佳が悲しそうに顔を歪めた。

「鏡…いくらなんでもそんな言い方ないだろ?」

 無感情な鏡でも、さすがにそれは酷い。そう思った。が、語気を強めることも無く、彼は続けた。

「寝ぼけたことを言っているから注意してやっただけだ。お前たちは、そうやってヤツを慰めている気なのか?それとも、お前たち自身の心の狭さを、力の無さを隠したいだけか?」

 まさに図星だったのかもしれない。

「な…」

「そうだろう?そんなことより、この先のことを考えろ。お前たちは生きた。知った物もあった。なのにごちゃごちゃ過ぎたことを言うな。今更悩んでも、もう遅い」

 彼の言うことはいつも正論である。普通なら自重するところをズバズバと見境もなく言うのだ。感情はこもっていないはずなのに、その言葉らはいつも一喜一憂させる。

「そうだな…その通りだ…」

 耕輔は開き直り、うんうんと頷いて見せた。

「律佳、アイツは・・・そう、死んだ“かも”しれない。けど、どこかでまた生きてるかもしれない。じゃあ僕らは、また会ったとき笑顔でいられるようにいよう?絶対に悲劇を繰り返さない為にも。強くならなくちゃ」

 そう言って律佳に笑顔を見せてやった。が、彼女の表情は固いまま。

「…まだあるのか?心配なこと」

「あ、うん…あの…」

 何かを言おうとし、律佳は口ごもった。

「どうした、言えよ?」

「あ…うん…いや、あの、なんでもないの」

 一目しただけで分かる作り笑顔をすると、彼女は手をヒラヒラと、眼前で横に振った。

「ホント、なんでもないの。うん!そうだよね!強くならなきゃ!!」

 そしていつもの笑顔を見せてくれた。今度こそ本当に笑ってくれた様だ。

「ああ、そうさ」

 やっと耕輔も、心の霧が晴れたようだった。隣で鏡も、その様子を鼻で笑った。


 本当は…。

 本当は、こうすけに言いたかった…。

 けど、言えなかったんだ。あれは、こうすけにじゃなく…私だけに言った言葉だったから…。

 あのコが死ぬ間際。こんなことを言ってたんだよ?こうすけ…。

「わたしはあなたになりたかった」

 ――それでもつよくならなきゃなの…――?

 あのコは…私に…生まれたかったのに…――。

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