其の五
「――次のニュースです」
土曜日の朝、いつものようにをTVを見る。女性が顔色一つ変えず、どこかで起きたニュースを、また読みはじめる。
「昨日の午前十一時頃、銘迎高等学校で、怪物による死傷者が出ました。重傷が――」
そのニュースによると、生徒死亡数、男子四人と女子二人の計六人、重傷は50人に上ると言う。
律佳は気にもせずに、おいしそうに焦げた食パンをかじっている。バターと塩で味付けされているだけだが、十分らしい。
「聞いたか?」
「うんー」
彼女はこちらに向くこともなく答えた。
「うちは毎回ゼロ人だから、まー何と言うのか…現実味ないよなー」
もちろん被害者数のことである。
「まあねー」
あまり関心もなさそうに言う彼女。実際、関心は怪物殺戮と食べ物だけだ。
それにしても――僕らだけ助かっていていいものか?もちろん、こちらの高校に被害は出て欲しくないし、怪物たちに殺されていないことは、喜ぶべきことだ。疑問をもちかけるところじゃない。それでも、自分たちだけ助かっているのは、いい気分ではない。
聞いてる限り、ライドの生産は月に10体が限度で、生産開始されたのが、約一年と二ヶ月前…最高でも140体しか配備出来ていない。しかも今回被害が出た学校は、“ライドが護衛していた”。今でもこの律佳が傑作機とは信じ難いが、ことを受けると、事実そうなのだ。
「なあ律佳――他の学校のヤツらも助けに行かないか?」
「むーりー」
やはりこちらには向かず、かぷと食パンをかじる。
律佳と同居して五ヶ月間、何度もそう言ってみたが、いつも『だめ』だの『むり』だの『もう一杯持って来い』だの、聞いちゃくれない。かたくなにそれは嫌がる。理由は聞いても、絶対答えてくれない。この律佳が、唯一、故意に無視することだから、相当だ。
「律佳…じゃあ、俺らだけ助かってもいいと思うか?」
律佳は答えず、ただパンをかじる。
「お前でも分かるだろ?あいつらが、怪物が人を殺すってことぐらい」
「それでもだめ」
「どうして!!」
「……」
律佳は食パンをかっこむと、席を立った。
「お腹いっぱいだよ〜、寝るね」
笑ってから、彼女は部屋に行ってしまった。
いつかは聞きたいものであるが。