其の十一の十七
「あなたが…何故!?何故出てこれるの!?」
「なぜーって言われてもなぁ・・・出来ちゃうもんは、出来ちゃうし」
にこっとまた笑って、律佳はコピー律佳をじっと見つめた。
「キミは私を殺したいの?」
コピー律佳は、驚きの顔をを怒りの表情に戻した。
「無論。私はその為に存在する…。あなたを殺すか…私が殺されるか…それでしかない…」
「ふーん…」
聞いてみてはみたが、実は話しの半分以上、律佳には理解出来なかった。だが、言う通りなんだろうと思い、
「分かった。じゃあ…あなたを倒すよ」
やはり笑ってそう答え、左手を失った状態で構えを取った。
「…あなたが、私に勝てるハズない!」
ビュン!と一瞬で顔が眼前まで飛んできた。そのとき、突然耳鳴りが表律佳を襲った。それは声にとても近い耳鳴りだった。
右だ!!
「え!?」
瞬間的に右から来る捻りこみの拳を避けた。
え!?え!?なに!?誰!!?
俺だぁ!!バーロー!!ビクビクすんじゃねえ!
どうやら裏律佳が、胸の中から、耳に訴えかけているらしい。なるほど、ごわごわとしたような声に聞こえるようだ。
…っと!?次下!!足だ!
下!?
コピー律佳から放たれる素早い蹴りに合わせ、律佳は顎を引き、フワリとそのまま宙返りした。
「!?」
うめぇじゃねぇか!!アイツ動揺してやがんぜ!!俺だったら今の、よけらんねーし。
え?
オメーは体がやわらけーんだよ。俺カテェの。
ふーん…。
っと!!?次左だぜ!!しゃがみこんで、相手の右側に回りこめ!!
え!?あ、うん・・・。
言われた通りしゃがんで、左からのパンチを避ける。さらに相手の右側に飛び込むようにして前転。
今だ!!回し蹴りを後頭部にたたっこめ!!
よ、よーし!!
やはり言われた通り、律佳は素早く体勢を安定させ、勢いよくジャンプ。その間にコピー律佳は振り返った。
ふ、振り返っちゃったよ!?
わーってる!そのままぶち込め!
えー!!
言われた通り律佳は蹴りをかましたが、顔面ではなく、当初通り後頭部を蹴った。コピー律佳はそのまま前にのめり倒れる。
な…!?なにやってんだよ!顔面ぶちかましゃ殺せたのに!!
私は殺すなんて言ってないよ・・・。
あまりに胸の中で裏律佳が騒ぎ立てるので、律佳はそれに気負され、威勢を無くして言った。
はぁ!!?
わ、私はぁ…倒すって言ったんだよ…?
ウッセー!!
ううぅ…。
言い合ってるうちに、コピー律佳がムクリと体を起こした。
「お前のようなあまったれに…私が殺されるわけない…ゼッタイニユルサナイ…コロスンダ…」
「どうして…そこまで…」
殺気を帯びた目を見据え、律佳はコピー律佳の心情を探っていた。
「時限爆弾なんて装備されてない!?」
耕輔一行は、鏡や雄谷、智香によって、施設内の警備を次々と破り、律佳が装着しているプロテクターを開発した、技術班とやらに詰め掛けていた。今質問をぶつけている相手は、スピーカーから声を発したあの女性だった。
「ええ、私たちは、時限爆弾なんて装備していません・・・」
耕輔はさらに語気を強めた。
「じゃあ何で爆発したんだ!!」
「そ、それは…」
隣の雄谷も進み出て言う。
「僕は解析ライドです。僕の眼は、騙せませんよ」
「で、でも…本当に…」
今にも泣きそうになりながら、その女性は曖昧な返答を繰り返した。いや、本当に装備していない、というなら、たしかにこれらの回答は頷けるが・・・事実爆発して、それが装備されていたと言うことを雄谷が証明した。
「お待ちなさい」
いましがた耕輔たちが突破してきた扉から、あの初老、五郎が入ってきた。
「五郎さん!!」
女性はそれにすがろうとするが、耕輔がそこに立ちふさがった。
「真実を…話して下さい…五郎さん」
「その方が言っておられることは事実です。技術班は、あの鎧に爆弾を装備などしていません」
「なら、何故爆発したんです!!」
初老は眼を瞑り、深く物事を考えるような表情になりながら話した。
「…申し訳ない…あれは・・・コピー律佳がやったことなのです」
「え!!?」
その場が凍りついた。
「今データを解算してみたのですが・・・あのプロテクターの初期テスト記録に、コピー律佳が関与しているデータが検出されたのです」
「そんな…」
技術班の女性がそう呻いた。
「ともかく、あなたがたの意見は受諾しましょう」
智香がその意味を確認した。
「それって・・・つまり」
「ええ、この試験は“中断”します」
ヒュン!ブン!ブォン!ヒュヒュン!!
「はぁはぁはぁ…」
おい!避けんじゃねえ!!また死ぬぞ!!
青い試験場の中、律佳の靴音と、コピー律佳の狂気じみた攻撃音だけが響いていた。
あれからずっと、彼女はまたコピー律佳の攻撃を“避け続けていたのだ”。
出来ないよ!!私・・・殺すなんて…!!
律佳!!そんなこと言ってる場合じゃあねえんだ!!俺たちこのままじゃ死ぬんだ!!壊れちまうんだ!!
それでも私…だめだよ…。
こうすけともう会えなくていいのかよ!?
っ…こうすけ…。
そうだ!こうすけ!!あいつとまた遊びてんだろ?会いてんだろ?
……。
だったら!ここでくたばっちまったらいけねー!!
それでも…。
…は?
それでも私は・・・出来ないよ!!
…!?…お、おめー…オメー…!!
信じられないものを見たような声で、裏律佳は何度もそれを口走った。そして、
クソッ…狂ってるぜ…。
ぶつん。
裏律佳からの交信は途絶えた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「おまえが・・・死ぬんだ・・・私のかわりにあまえた・・・お前が!!」
コピー律佳の凄まじい連撃は、着実に律佳の体力を奪っていった。
「はぁ…はぁ…あうっ!?」
律佳は足をもつれさせ、バランスを失い、そこにコピー律佳の攻撃が容赦なく入った。
……ごめんね、こうすけ…死んじゃ…うね…。
どさっ。
……。
「あ、あれ?」
律佳は…生きていた。
「無傷…?」
もとよりある傷が消えているわけではなかったが、コピー律佳からの最後の一撃を食らったあとは・・・
全く見当たらない。
あたりを見回す。前に、目の前に倒れているコピー律佳を見つけた。彼女は呼びかけてみた。
「……キミ…死んだの…?」
コピー律佳は、まるで全てが抜けきった抜け殻のようだったのだ。
「…ごめ…ん…い…」
「え?」
彼女は、顔だけをあげて、そう言った。
「わた…し…ホン…は…あ…たのようになりたか…た…の。…から…」
その眼には、僅かながら光っているものが見えた。
「…ごめ…ん…ね」
どさり。
コピー律佳の顔が、重力に落ち…動かなくなった。